抜き出した片足、 | ナノ
「名前、おかわりくれ」
「はーい、ギアッチョ、お皿チョーダイ」
「名前、オレも」
「あ、ちょっと待っててね、イルーゾォ」
皿を突き出す二人と、それにニコニコと対応する名前。今朝まではもっと険悪な雰囲気を醸し出していたというのに、これは一体どういうことなのか。スープを注ぎに行った名前を見送って、リゾットが口を開こうとすれば、それよりも少し早くイルーゾォが口を開いた。
「あのさリーダー、あとで話があるんだけど、構わないか?」
「できりゃあ、あいつが風呂に入ってる時がいいんだがよ」
ちらりとイルーゾォがギアッチョに目配せをすれば、示し合わせたようにギアッチョが続けた。こちらも一体なんだというのか。全員が顔を見合わせてリゾットを振り向いた。少し驚きながらもリゾットは、構わない、と返事を返す。
「あー、他の奴らも居てくれるか?」
ギアッチョがそういって全員を見回せば、当然だというように頷いて見せた。



「で、話というのは?」
名前が風呂に入ったのを見計らって、全員でリビングに集まった。リゾットがそう切り出せば、イルーゾォとギアッチョが目を合わせて、意を決したように少し汗ばみながら口を開いた。実はな、とイルーゾォが今日の名前との出来事を話していく。ずっと落ち込んだように暗かったこと。皿を割って泣いたこと。それから、最後に話してくれたトリッシュのこと。
「……トリッシュを傷つけずに捕えるってことは、できないのか?」
イルーゾォがぐっと声のトーンを落としてそう言ったとき、息を飲む音が聞こえた。見れば、プロシュートとホルマジオは顔を歪め、ペッシは辛そうにしていて、メローネも珍しく真剣な表情をしていた。そういえば、最初から名前の面倒を見ていたのはプロシュートとホルマジオだったし、ペッシは似たような精神年齢で仲が良かった。メローネは一方通行の激しいスキンシップをしていたけど、名前は途中から諦めたらしく、べったりと引っ付いてくるメローネとも仲が良かった。皆それなりに、名前のことを気に入っているのは気が付いていた。もう一度、ギアッチョとイルーゾォはリゾットを振り返る。何かを考え込むように、腕を組んで二人をじっと見ていた。分かり辛いけれど、無表情を色付かせるほどにはリゾットも名前を気にかけているのも周知の事実だった。
「……オレはもともとそのつもりだ。お前らがそれでもいいなら頼む」
淡々とそう告げたリゾットに、小さくギアッチョが笑うのが分かった。イルーゾォもそれにつられるようにして、ありがとう、と笑った。背後からもいくつかホッとしたような溜め息が聞こえた。それがおかしくて、ついには全員で笑い出してしまった。
「しっかしよォ〜、いつの間にテメーら名前と仲良くなったんだよ?」
楽しそうに笑いながらホルマジオがそう聞くが、笑い過ぎて二人は何も言えなかった。
「あれ、皆笑ってどうしたの?」
バッと全員が振り向けば、いつの間に風呂から上がったのか、名前がぽたぽたと髪から水滴を落としながら立っていた。全員で振り向いたせいか少し引き気味になりながら、あれ、お邪魔でしたか、と名前は後ずさっていく。ホルマジオはそれに近づいて、そんなことねーよ、とくつくつと笑いながら名前の頭をぽんぽんと撫でて部屋に引き上げて行った。それにプロシュートとペッシも続く。メローネはすれ違い様に名前に抱きついて、ギアッチョに後ろから引き剥がされて、そのまま部屋に引きずられていった。イルーゾォは、おやすみ、と優しく笑いかけてギアッチョの後を追った。一斉にリゾットを残して出て行ってしまった皆に名前は首を傾げる。
「名前、こっちへ来い」
まだソファに座ったままのリゾットに呼ばれて近寄れば、ぐいっと引っ張られて、リゾットの足の間に座らされた。驚いて立ち上がろうとすれば、頭をタオルごと押さえつけられて遮られてしまう。ごしごしと動かされ始めたタオルに、リゾット?と声を掛ける。
「なんだ?」
「え、え、なに、どうしたの?」
「まだちゃんと乾いてない。風邪を引いてしまうだろう」
力強いくせに優しいその動きと予想外の答えに、これじゃあ付き合ってるみたい、なんて思ってしまって耳まで名前は真っ赤になってしまった。恥ずかしくなって縮こまる名前に気を良くして、リゾットは心地よい沈黙に耳を傾けながら、ただタオル越しの名前の髪の毛の感触を楽しんでいた。



(おのれリゾット!)
(何覗いてんだよイルーゾォ、趣味悪ィぞ)


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