抜き出した片足、 | ナノ
リゾットは少し熱くなった顔を押さえながら、部屋に入った。その顔は本人しか気付かない程度だが、赤くなっていた。
(なんてことを言っているんだオレは……)
先程名前に言った言葉を思い出す。
――ああ、オレは呼び捨てで構わない。慣れないんだ
別に慣れていないわけじゃあない。少し呼ばれたくなって、それを悟られない為の口実だ。
――それと、敬語もやめてくれ
敬語だってよかったんだが、ホルマジオやプロシュートとは楽しげに話すあいつに、余計距離を置かれているみたいなのが、少し気に食わなかっただけだ。
はあ、と深く溜め息を吐く。何だってこんなことを言ってしまったのか、リゾットだって全く理解できないわけではない。ただ、認めたくないのだ。ふとメタリカを使った時のことを思い出す。揺るぎない意志を宿しながら睨んできた視線には、正直驚いた。生温い生活を送っているはずの少女にそんな目で睨まれるとは思っていなかった。しかしそれと同時に、どこか惹かれるものを感じた。確固たる意志は、輝かしいばかりの正義がエネルギーに見えて、自分にはないそれが眩しかったのかもしれない。
少し名前について振り返ってみれば、火照りも落ち着いてきた。軽く頭を振りながらベッドに体を投げ出そうとすれば、控えめにノックの音が聞こえた。それにまた跳ね上がった心臓に、軽く舌打ちをしてドアに声を投げかけた。
「どうした。用事がないなら部屋に籠っていろと言っただろ」
務めて冷静な声を出す。少し冷たすぎたかもしれないと後悔しつつ返事を待てば、焦ったような返ってくる。
「あの、ごめんなさい。けど掃除とかもしておいた方がいいの、かと思、って……」
辿々しい語尾はきっと敬語を使わないようにしているからだろう、と少し笑ってしまった。ドアに近づいて開ければ、驚いたように見上げる名前がいた。その顔はまだほんのりと赤くて、またリゾットまで赤くなってしまいそうだった。
「掃除か、頼んでも構わないか?」
「はい、あ、うん、もちろん」
言葉が固くならないように気を付けている名前はとても微笑ましかった。ついてこい、と言って歩き出せば慌てて後ろをついてくる。その姿を背中で感じながら歩いていると、任務を終えたらしいホルマジオが帰ってきた。
「あ、お帰りなさい、ホルマジオさん!」
「……おお、ただいま」
何に驚いたのか一瞬固まったホルマジオを訝しげに見れば、ホルマジオも同じようにリゾットを見ていた。首を傾げる名前の頭をホルマジオはグリグリと撫でながら口角を軽く吊り上げた。
「悪ィ、お帰りなんて言われなれてなくてよ」
そう言って、ただいま、と名前の頬に口付けた。それを見て、掃除はいいのか、と言えば名前は真っ赤な顔で、あ!と声を上げて困ったように笑った。
「リゾットに掃除道具を貸してもらうところだったんです」
「……え?」
リゾットを見上げて、ごめんね、と言う名前とそれに行くぞ、と返すリゾットを呆けた顔でホルマジオは見ていた。それを気にすることなく掃除用具がある倉庫に名前を連れて行く。好きなのを持って行け、と言って、リゾットは部屋に引き返した。まだ呆然としていたホルマジオは戻ってきたリゾットを捕まえる。
「おい、リゾット、どういうことだよ」
「何がだ?」
「何がって、「きゃあああ!」
がたがた、と倉庫のほうから消魂しい音と悲鳴が聞こえてきて、何事かと思うよりも先にリゾットは倉庫へ向かっていた。呼び方と話し方のことだよ、と続けようとしていた言葉を遮られたホルマジオだったが、リゾットの行動を見てそれは聞く必要もなくなっていた。
何をしている。ごめん、雑巾取ろうとしたんだけど箱ごと落としちゃって……。そういう時は呼べ。うん、ごめんねリゾット。そんな会話を遠くに聞きながらホルマジオはこの半日で何があったのかと想像を膨らませるが、ちっとも正解のようなものは思いつかない。まあ、そんなことはどうだっていい。面白いものを見つけたとばかりにホルマジオは笑った。
「オレもタメで呼び捨てにさせるか」
その時のリゾットの反応を想像して、愉快そうに肩を揺らしながらホルマジオは風呂に向かった。



(まさか、あのリゾットがなぁ……)


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