抜き出した片足、 | ナノ
何が起きているのか理解できなかった。名前がリゾットの手を取り、額に押し付けた瞬間。彼女の身体がくたりと傾いたかと思うと眩いばかりの光に包まれて、それから何故か彼女の方へと死体が引き寄せられて行った。呆然とその光景を見ていると、激しい物音に気付いたミスタが部屋へと入って来た。
「ジョルノ!どうしっ、うお!」
その声に振り返れば、桃子の方へと移動してしまった死体を見てミスタが小さく悲鳴を上げた。どういうこったこりゃ、と呟いたその問いの答えをぼくだって聞きたい。とにかくどうにかしなくては、と踏み出そうとした足は、視界に映った光景に踏み止まった。そこにはいつの間にかブチャラティたちの死体までもが、彼女を囲うように転がっていた。いつかの既視感を覚える。どういうことなのか、と動けずにいると周りにあったベッドや椅子までもが、名前の方へと引き寄せられて行く。それらは名前と死体を覆い隠すようにして囲んでしまった。慌ててミスタと駆け寄り、なんとか椅子の一つを引き剥がして内側の様子を覗く。
思わず息を飲んだ。そこには白い何かが蠢いていたのだ。そして、白い何かの正体はすぐに分かった。魂だ。ふよふよと浮かぶようにして動いているそれらは、間違いなく死体それぞれの持ち主だった。
「なんだ、アレ……」
横でミスタが引き攣った声で呟く。ジョルノはそれに答える余裕もなく、ただその不思議な光景を目に焼き付けていた。
白い魂は、自分の体まで来るとそれに重なる様にして消えて行った。その刹那、名前の身体を包んでいた光も消えて、上の方へ浮かんで引き寄せられていた椅子たちも重力に従うように落ちていった。それらが地面に落下する音で漸く我に返り、集まっているベッドを退けながら恐る恐る近づく。
カタン、と背後から聞こえた物音にハッと振り返ると、トリッシュが青褪めた顔で立っていた。
「何が、起きたの……?」
だからぼくが聞きたいくらいだ、と思っていると今度は死体の方から呻き声が聞こえた気がしてバッと再び視線を戻す。
「おいおい嘘だろ……」
今度こそ息が止まった。軽口を叩けているミスタが不思議なくらいだ。先程魂が入って行った時点で何となく予想はしていたものの、それでも実際に見てしまうと信じられない。死体が、起き上がるなんて。
気怠げに上体を起こした、ブチャラティがきょろきょろと辺りを見回した後こちらを見てぎょっと目を見開いた。
「ジョルノ……!?」
驚いた表情を浮かべた彼は、ハッとすると自身の身体に視線を落としぺたぺたと触って確認をしていた。そうだろう、彼は確かに死んだ自覚があったのだから混乱するのも当然だ。それから同じように起き上がったナランチャやアバッキオは構わない。彼らも混乱したようにきょろきょろと辺りを見回していた。そして、当然のことながら暗殺チームも起き上がるわけで。
「……リゾット・ネエロ」
「……ジョルノ・ジョヴァーナか。一体これはどういうことだ」
起き上がった人物の中で、唯一落ち着いているリゾットが睨むようにしてこちらを見る。それぞれ動揺を隠せていない他のメンバーも、リゾットに倣うようにしてこちらを睨みつけていた。沈黙が落ちた空間に、荒い呼吸が響いていることにはたと気が付いた。
「名前!」
突然トリッシュが叫んで、部屋の真ん中へと駆けてくる。そこで名前が倒れていたことを思い出した。丁度睨み合う両チームの間に倒れている彼女は、血の気の無くなった青を通り越した真っ白な顔をして、その額には汗を浮かべていた。
「名前……?!」
焦燥しきった暗殺チームの声が部屋に響いた。そこで初めて、リゾットの表面に動揺が走った。



渇いた唇できみの名を呼ぶ
(何が起きている)
(どうしてお前は倒れてるんだ)


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