抜き出した片足、 | ナノ
「どういう……ことですか……?」
ジョルノさんが何を言っているのかわからなくて、涙は止まった。けれどその代わりに混乱が再び押し寄せてくる。もしかして、ジョルノさんたちが暗殺チームの死体回収でも行ったというのだろうか。いや、けれど彼らの死体は分かり辛い場所に隠したはず。……といっても素人の私が隠したのだから見つかっても仕方ないのかもしれない。そんなふうに思考を巡らしていると、ジョルノさんがぼくもさっぱりわからないのですが、と切り出して説明してくれた。その話を要約すれば、どうも私の周りを囲うようにしてリゾットたちが倒れていたという。もちろん死んでいるのだから、どうしてそんな場所に転がっているのかはさっぱりだ。さらにはジョルノさんのチームの人も倒れていたのだというのだからなおさら理解が追い付かない。どういうことなのか考え込んでいると、ジョルノさんがふと思い出したかのように声を掛けてきた。
「ああ、一つ聞き忘れていました。ぼくの後ろに、何か見えますか?」
その言葉に視線を上げれば、ジョルノさんの背後にぴたりと沿うようにして少し透けている人のような形のものが少し浮いて存在していた。私はそれに、心当たりがある。こくりと頷いてから、私の背後にもふわりとそれを出現させた。
「スタンド、ですよね」
トリッシュは聊か驚いていたようだが、ジョルノさんは薄ら気づいていたようで一度頷いただけだった。それからどういう能力か聞かれたので、一瞬躊躇ったが、ここで隠したところで何の得にもならないと思い至って軽く掻い摘んで説明した。
「では、貴女の能力で引き寄せた可能性もあると」
「そうですね……、けど、私の能力は物理的に引き寄せるので、途中で建物とかにぶつかってしまうと思うんですよ」
そう言いながら壁際に置いてあった椅子をするすると引き寄せる。それを見ながら再びジョルノさんは考え込んでいたが、すぐに顔を上げた。
「このことについては後でまた話しましょうか。それより、彼らに会いたいですか?」
「……会いたい、です」
「では、行きましょう」
私のけがは見た目通りらしく、立っても大丈夫だと言われた。それでも心配そうにトリッシュに支えてもらいながら立ち上がる。それからくるりとドアの方に向いて歩き出したジョルノさんの後を追った。

質素でありながらも上品な装飾に彩られた廊下を時折曲がったりしながら進んでいき、一番隅の部屋の前でジョルノさんは立ち止まった。ちらりとこちらを振り返ると、ドアを開いて中に入るように促してくれた。心拍数が上がってくる。彼らの状態を初めて見たときは、きっと精神的に可笑しかったのだと思う。今は、見るのが怖い。それでも彼らをしっかりと見ておかなければいけない気がして、一度深呼吸をすると部屋の中へ足を踏み入れた。
「……っ、」
想像以上、だった。並べられたベッドに、彼らの死体が並んでいた。しかし、その数が多いような気がした。どう数えても、九人並んでいるのだ。しかもそのうち二つは、白骨だ。ふと、合点がいく。ソルベとジェラートだ。この二人は墓に入っていたはずなのに、と呆然としたが、溢れてきた涙に視界は遮られた。そっとトリッシュが肩を抱いて撫でてくれる。それでも目を逸らしちゃいけない気がして、彼らをじっと見つめ続けた。
「彼らですよね」
「はい……。どうせなら、綺麗な姿が、見たかった……。きっと眠っているようにしか、見えないんでしょう……」
ぽろぽろと零れる涙を押さえていると、ジョルノは少し考える仕草をしてから、一度部屋から出るように促してきた。出たくない、と言おうとしたがそれが分かっているかのように、すぐにお呼びしますので、と被せるようにそう言ってきた。それなら、とトリッシュに支えられながら外に出ると、なんだか不思議な頭巾のようなものを被った男性が立っていた。トリッシュが、ミスタ、と呟く。彼も知り合いか、と思いつつ一応軽い挨拶を交わす。災難だったな、と声を掛けてくれたが、何とも言えなくて曖昧に頷くしかできなかった。



暫らく待っていると、ジョルノさんが中から出てきた。妙に長く感じたが、それでも本当に少しの間だった気もする。どうぞ、と言われるので先程と同じように中に入って、愕然とした。
彼らの身体が、すべて元に戻っていたのだ。誇張ではなく、本当にそっくりそのまま。どういうことか、と彼を振り返ったが、ニコリと微笑むだけで説明する気はないらしく再び彼らの方へ目を戻す。こうやって見てみれば、改めて後悔ばかりが浮かんでくる。トリッシュの腕から離れて、リゾットの脇へ行けば、そこにはいつもと変わらない彼の姿があった。出かける前に見た彼と同じだ。今にも目を開いて、微笑んでくれるんじゃないかと錯覚する。そっと脇にしゃがみ込んで、頬へ手を添えた。自然とまた涙が溢れる。泣きすぎだよなあ、と思いながらも止まってくれることはなかった。そろそろと頬を撫でていたが、温度がないそれは指に痛くて、彼に血が通っていないことを切に突きつけてきた。
「ごめん、なさい……」
口の隙間を縫って零れた言葉は、次から次へと言葉を引き連れてきた。
「あのね、リゾット。私頑張ったよ。頑張ったけど、全然役に立たなかった。ごめんなさい。だけどね、トリッシュにだって会えたし、あ、けどこれは皆のおかげかなあ。無傷とは言えないけど、何の心配もいらないくらい元気だよ」
ぽろぽろと零れるのは言葉だけじゃなくて、それは彼の顔へと流れていく。彼が泣いているようにさえ見えた。ごめんね、ありがとう、と繰り返しながらその血の染みた愛しい手を取って、それを額へ当てる。
途端に、世界が回った。



流星の落下地点で待ってます
(なぜだか歪む世界に安堵した)


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