抜き出した片足、 | ナノ
早く早くと急く心のままに足を進めていく。ここまで来る途中に、彼女たちが戦ったのであろう跡を見た。大勢の人が救急車を呼び、人を介抱するその現場は、どう見たって異常だった。全身がばらばらに飛び散った肉片に、明らかに故意に破壊された道路。あまりに異常なその光景は、コロッセオへと続いていた。そして、トリッシュの気配も。もう近くにトリッシュがいるのだと感じた時、急に眠気に襲われた。それは、脳内へと警鐘を響かせる。眠ってはいけないと感じたのだけれど、強い眠気に逆らうことはできずに重くなった体は地面へと吸い込まれるように倒れた。それにきっと、長時間酷使した体だったせいもあるのだろう。慣れないスタンドを使い続けながら、意識を張りつめた時間は、休むことを身体に求めさせた。やだ、あと少しなのに。トリッシュに会わなきゃ、皆を助けれるかもしれないのに、皆にもう一度会えるかもしれないのに。トリッシュに会いたい、会いたい、皆に、会いたい。強く願ったその瞬間、意識は途切れた。



ボスを倒した。それはあまり実感のない事であったが、確かな確信がジョルノにはあった。それは自分が望んでいたことなのだが、喜ぶにはあまりにも犠牲が多すぎた。やたらと打ち解けたミスタとトリッシュをぼんやりと眺めながら物思いに耽る。
コロッセオへと重い足取りを運ぶ途中に亀へとしがみついたポルナレフさんも見つけた。一層賑やかに歩き出したとき、急にトリッシュが固まった。
「これは……、けど、そんなまさか……」
酷く驚いた様子でぶつぶつと呟くトリッシュに声を掛ける。
「どうかしましたか?」
そろりと顔を上げるその顔には複雑な、けれど焦りの色の濃い表情が浮かんでいた。
「名前が、姉が近くに居る」
「姉?姉ちゃんなんていたのか」
ミスタが驚いたように声を上げた。それもそうだ。姉がいるのであれば、ボスはそちらも消そうとするはずなのだ。けれど護衛を任されたのはトリッシュのみだった。どういうことだ、と顔を顰めつつトリッシュを見ると、彼女はそれどころではなさそうに顔をきょろきょろとさせていたが、方向に見当がついたのか突然走り出した。
それを追いかけていけば、前方に何人か倒れているのが見えた。まだ眠っている人がいたのだろうか。トリッシュはその中に目的の人物を見つけたらしく、速度を速めた。それに倣うようにして自分たちも速度を上げると、倒れている人物たちがよく見えた。そして、その姿を見止めた瞬間、足は動かなくなった。ミスタも同じだったようで、驚愕した表情で前を見ている。
どういうことだ。その顔にはそう書いてあった。きっと自分も同じような表情をしていただろう。そこに倒れていた人物たちは――殺したはずの暗殺チームのメンバーだった。
ひゅっ、と掠れた音が喉から出た。どうして、こいつらがここにいるのだ。しかも、どいつも既にこと切れているのは一目瞭然だというのに、何故、死体がここにある。何故、あの女性を囲うようにして、倒れているのか。
「名前、名前っ!」
トリッシュの声にハッとして我に返れば、彼女は姉であろう女性を抱えてその頬をぺちぺちと叩いていた。白を通り越して薄らと青く見える女性の顔に、トリッシュは焦燥しきった声を出していた。ちらりとミスタを見ると、忌々しげに周りの死体を眺めていた。自分も再びその群れに視線を移す。高々とサイレンの音が聞こえて、人だかりがあちこちに増えていく。
このままここに死体を残していくのはあまりいただけないだろう。すぐにギャングだとばれて組織に探りが入りかねない。それはこれから自分が統率していく中で邪魔になるはずだ。しばらく考えていたが、彼らはすでに死体なのだからアジトに連れて行った方が得策だと思われた。未だ女性に声を掛け続けているトリッシュと、呆然としているミスタに声を掛けた。
「まだお姉さんは生きているはずだ。ここにある暗殺チームの死体も含めて、一度アジトへ引き上げましょう」
二人の顔を交互に見つめながらそう言えば、トリッシュは気持ちを逃すように息を吐いて、ミスタは我に返ったようにどこかへ連絡を取り始めた。おそらく死体を運ぶ手筈を整えているのだろう。それを見止めてから、もう一度死体の方へ視線を戻す。その中心でトリッシュに抱かれている少女の顔に、これからまた大きな事が起きそうな予感をジョルノは確かに感じていた。



こぼれおちた流星
(縁はさらに新たな縁を呼び)
(まるで音のようにそこへこだまする)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -