抜き出した片足、 | ナノ
嫌な予感を払拭出来ないまま、私はただリゾットのことを引き寄せ続けていた。戦闘中だとしても構わない、ただ、生きていてくれればそれだけでいい。私が身代わりになることだってできるかもしれないから。
痛む胸を、リゾットのくれたリングを握り締めることで押さえつける。少しだけ勇気を貰えた気がして、顔を上げてまた探すことに意識を集中させた。
そうして探しているうちに、ふと気が付いてしまった。いつからだったか、引き寄せられる方向が全く変わっていないということに。さあっと血の気が引いていくのが分かる。ひゅーひゅーと掠れたような息を吐き出しながら、震え始めた足を叱咤して走り出した。青く澄んだ海が見える場所に出て、そこで私は、見つけてしまった。
「リゾット……!」
赤に映える、綺麗な銀色を。
詰まる息を気にする余裕さえないまま、その姿に走り寄った。リゾットの身体から流れ出たのであろう赤色は、顔面を何発か打ち抜かれた頭を浸していた。吐き気さえ催すその姿に、何よりも絶望を感じた。無事であるはずがないことは、他の皆を見つけた時に覚悟していたはずなのに、実際に目の当たりにすればそんな見せかけのものは涙の下に溶けてしまった。
「あ、うあぁ……っ、」
結局私は、ひとりぼっちになったのだ。
せめて誰か一人だけでも生きていてくれたらよかったのに、記憶喪失でもどこか一部が欠けていても、その鼓動を響かせてくれさえいれば、私がなんでもしてあげられたのに。
押さえきれない嗚咽が、痛すぎるほどに真っ青な空に響き渡った。血溜まりの中からリゾットの頭を抱き起して、胸に抱き締める。いつもはその口から吐き出される息がくすぐったくて仕方なかったのに、今は冷たすぎる肌を感じるだけだった。
どう頑張ったって止まらない涙と嗚咽が、穏やかな浜辺で遊んでいた人たちに気付かれてしまったらしく、人が近付いてくる気配がした。こんなところを見られてしまったら誤解されかねないし、何しろ、この後の行動を取れなくなってしまう。
そう思ってリゾットを抱えたまま、近くの岩陰まで体を引き寄せて移動させる。血溜まりを見つけた人々が騒ぎ出した中で、私は少し落ち着いてもう一度彼の顔を見た。ぽっかりと空いた傷口に触れないようにしながらその頬に指を這わせれば、見開かれた黒い右目が少しだけ揺れたような気がして、驚いて目を見開く。まじまじと顔を眺めてみたけれどやはり生きているはずなんかなくて、けれどどこかここでリゾットの命が終わってしまうようには思えなかった。
先程よりも少しは冷静になった頭で考えてみる。生き返ることはないとわかっていても、可能性を考えずにはいられなかった。そこでふと思い出したのはトリッシュだった。
そういえば、トリッシュはボス側に確保されているはずなのだ。元はと言えばトリッシュを取り返すことが目的だったはずだし、リゾットたちが全滅した今、私がトリッシュを取り返さなければいけない。それに何よりも、トリッシュに会いに行かなければならないような気がしたのだった。
次の行動を決めた私は、リゾットの身体を横たわらせるとそこに岩を更に集めて、誰も近寄れないようにした。そして、一度息を吐くともう一度リゾットの姿をしっかりと目に焼き付けて、なんとか笑顔を作って口を開いた。


「行ってきます」


リゾットが背中を押してくれた気がした。



おやすみなさいあいしてた



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