抜き出した片足、 | ナノ
翌朝になっても、ホルマジオは帰ってきていなかった。さらにイルーゾォまで朝早くからご飯も食べずに出て行ってしまった。今までこんなことなんてなかったのに、何とも言えない不安が胸を燻る。いつもと変わらない様子でご飯を食べる皆を目だけで見渡して、思わず吐きそうになった溜息をご飯と一緒に飲み込んだ。一番最初に朝食を食べ終わったのはプロシュートだった。ごちそうさま、と食器を運ぶ彼を見てペッシが慌てたようにご飯を詰め込む。
「ペッシ、そんなに急いで食べたら喉に詰まるよ?」
「ふぐっ、だ、大丈夫だ、っ!」
「全然そうは見えないけど……」
必死に掻き込むペッシを見ているとプロシュートが笑いながら戻ってきた。今から任務があるから急いでんだよ、と言って私の頭をポンポンと撫でる。それからちらりと私の隣に座るリゾットを見て吹き出した。
「おいおい、そんな怖い顔すんなよ」
「……してない。気を付けて行って来い」
「誰に言ってんだ」
自信満々に笑うプロシュートにリゾットは呆れたように笑い返す。悪かったな、と言うリゾットの声を遮ってペッシが食べ終わったことを告げた。急いでるんなら食器は私が片付けとくからいいよ、と言えばペッシはグラッツェ!と叫んで、既に玄関へ行っているプロシュートの後に続く。遅い、とペッシの頭を殴るプロシュートとそれに謝って言い訳して、また殴られるペッシ。いつも通りの風景のはずなのに胸がちくりと痛んで。なんだか、ホルマジオみたいに帰ってこないような気がした。ずきずきとする胸を押さえていると、そっとリゾットがきつく握りしめている私の手を解くように絡め取った。
「そんな顔をするな」
「リゾット……、けど今日はなんだか不安なんだ。ホルマジオみたいにあの二人も長い間帰ってこない気がして、」
そう言った途端ぴたりと空気が固まって、遠くで玄関の閉まる音がやけに大きく響いた。
「何、今日の名前はやたらと暗いと思ったらそういうことだったの?」
「けど、メローネ、」
「名前が来てからはなかったけど、長い任務とかざらだぜ?」
「そうなの?」
ああ、とからからと笑い飛ばすメローネに少しだけ胸が軽くなった気がする。まだ握られているリゾットの手に力が籠った。食器を片づける為に立ち上がったギアッチョを見上げれば、ちらりとこちらに視線を寄越して深く息を吐いた後荒々しく私の頭を撫でた。
「うわっ」
「辛気くせェ面してんじゃねぇえよばーか!」
ギアッチョがしかめっ面で最後に罵るときは大体照れているときだ。不器用な彼なりの精一杯の慰めなのだろう。それがなんだかくすぐったくて、少し笑うとぐいっとリゾットに抱き寄せられる。驚いて固まったままリゾットの胸板に頭を預ければ、視界の端でにやにやと笑ったメローネを真っ赤な顔で引きずっていくギアッチョが見えた。
「り、ぞっと、」
「お前が、心配することなんか一つもない」
その声が優しくて、けどどこか冷たくて、ふるりと睫が震えた。抱き締められて手持無沙汰になっていた手を、そろそろとリゾットの背中に回す。遠くから聞こえるギアッチョのがなり声だけが部屋に響いていた。



その日は昼にメローネが出ていき、夕食の後にギアッチョが出て行った。夜中になっても誰一人、帰ってくる気配はなかった。やっぱり朝に感じた嫌な予感は気のせいなんかじゃなかったんだと思ったって今さら遅くて。もう寝る準備をして布団に入ったのは随分と前なのに、さっぱり寝付けない。妙に心細くてイルーゾォのくれたくまのぬいぐるみを抱き締めるけれど、更に皆を思い出して寝付けなくなってしまう。ついに涙まで溢れて来て、じっとしていられなくなった。もそりと起き上がってリビングに出れば、もう結構な夜中だというのにリゾットが怖い顔でパソコンと向かい合っていた。
「まだ寝てなかったのか。どうしたんだ?」
「リゾットも。ちょっと……不安、で、寝れなくて」
そう言えば少し困ったような顔をした後に、リゾットはちょいちょいと私を手招きした。それに誘われるまま近づいていけば、隣に座る様に促される。そっと隣に腰掛ければ徐に肩を抱き寄せられて、リゾットの膝の上に頭を乗せるようにしてソファーに寝かされてしまった。
「り、りぞっと、」
「オレが朝までこうしててやる。それなら少しは寝られそうか?」
いつもより優しい顔でそう尋ねるリゾットが柔らかく頭を撫でる。一度撫でられるごとにほんの少しずつ、不安が解けていくような気がした。これ以上リゾットを困らせたくはないし、何より少しだけなら寝られそうな気がしてこくりと頷く。それに満足したようにふわふわと頭を優しく撫で続けるリゾット。私が眩しくないようにとパソコンの電源も落としてくれたみたいで、それに礼を言って目を閉じると、小さな笑い声と楽しそうな返事が返ってきた。頭を撫でる優しい手と触れ合っている場所から伝わる心地良い体温に、今日初めての安息を感じることができた。



愛ならここにあったのに
(微睡む意識に何かを聞いた)


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