抜き出した片足、 | ナノ
翌朝、どこか落ち着きがない皆を見ながらふらふらと朝食の用意をする。昨日の外出は楽しかったけど、暫らく引きこもりをしていただけに長時間の外出は体が慣れていないみたいだ。どこか覚束ない足取りに気が付いたイルーゾォが苦笑いをしながら大丈夫か、と声を掛けてくれた。それに私も苦笑を返しながら何とか、と答える。
「ブォンジョルノー」
眠そうに目を擦りながら起きてきたメローネに挨拶を返す。そういえば昨夜はどこかに出かけていたなと思い、大丈夫かと尋ねながら近づけば珍しく大人しいハグを頂いた。どうしたのかと顔を覗き込めばへらりと笑って小さな箱を手渡してきた。
「それ、オレからのプレゼント」
開けてみて、とニヤニヤと笑う姿には嫌な予感しかしないが、サイズ的に全く想像がつかなくて戸惑いながらも包装を解いていく。蓋を開けて中身を見ると、目を見開いて私とイルーゾォは固まってしまった。その様子を悪戯が成功した子供のような笑顔でメローネが見ている。
「めっ、めろーねこれっ!」
「どう?びっくりした?」
「びっくりしたけど!いいの?」
「もっちろん!名前のために昨日の夜わざわざ買いに走ったんだぜ」
なるほど、それで昨日の夜は遅かったのか……って、違う!まだ信じられない気持ちで箱の中のブレスレットを見つめる。イルーゾォも驚いてまだ動けずにいるようだ。
「……気に入らない?」
「まさか!とっても嬉しい。グラッツェ、メローネ!」
少しだけ屈んで私の機嫌を伺うように言ったメローネに笑いながら抱きつけば、よかったといいながら背中に腕を回された。その手が段々と下に下がっていくのに気が付いて非難の声をあげようとすると、それより早くに誰かがメローネを引き剥がした。
「ギアッチョ!」
「……メローネにハグすんなっつってんだろ」
ぶすっとした顔でそういうギアッチョにごめんね、と謝って礼を言うと、視線が私の手元に移された。無言ではあったがその視線がそれはなんだと雄弁に語っていて、思わず笑いながらメローネからのプレゼントだと言えばその眉が思いっきり顰められた。
「最近プレゼントでも流行ってんのかァ?」
「それ、オレも思った」
いつの間に復活していたのか、メローネを伸したイルーゾォも不思議そうに首を傾げる。三人で首を傾げるという奇妙な風景を終わらせてくれたのはこれまた眠そうに眼を擦って起きてきたペッシだった。
「あ、ブォンジョルノ」
「ブォンジョルノ。あれ、三人でどうしたんだ?」
ペッシがそう尋ねると、ギアッチョが不思議そうにプレゼントの話をする。するとペッシは何かを思い出したかのように部屋に一度引き返してすぐに戻ってきた。どうしたのかと見てれば、私の手に袋が持たされる。
「え、え、」
「それはオレからのプレゼントだぜ」
「ペッシ、テメェもかよ!」
楽しそうに笑うペッシに戸惑う私と、訳が分からないとキレるギアッチョ。ぎゃいぎゃいと騒ぎ出したギアッチョを宥めつつ、笑いながらペッシが言う。
「名前には世話になってるからね。皆できるうちに礼をしときたいんだと思うよ」
できるうちに、という言葉が私は引っ掛かったけれど、二人はそれで何かに気が付いたらしく苦い顔をして黙ってしまった。再び訪れた妙な空気は、腹が減ったと言うペッシの声で切り上げられた。



「あれ、ホルマジオ今から出掛けるの?」
「ああ、任務だ」
玄関で奇妙な服を来たホルマジオに会って足を止める。ごそごそと靴を履くホルマジオからはどことなくピリピリとした雰囲気が漂っていて、それに不安を覚えて、気を付けてねと言えば暫し動きを止めてじぃっと顔を見つめてきた。
「どうしたの?」
「……、いや。ああ、名前」
「何?」
「無茶はするなよ」
「え?」
どういう意味か分からずに首を傾げる。
「お前が倒れたら困るからな。家事も程々にな」
「う、ん」
「それから、リゾットに迷惑かけるんじゃあねェぜ」
「分かってるけど……、どうしたの急に」
「いや、別に」
突然別れの言葉みたいなことを言って、ホルマジオはじゃあなと背中を向けて玄関を出て行ってしまった。その背中に嫌な感じがする。やだ、やだ。待って、行かないで。固まったまま動けずに、嫌に警鐘を打ち鳴らす心臓に冷や汗を流しながら閉じられたドアに祈る。戻ってきて、行かないで。そう願っているとドアに思いっきり何かがぶつかる音がして、ホルマジオのいてぇっ!という声が聞こえた。
慌ててドアを開けると、背中を擦りながらドアを思いっきり睨みつけているホルマジオがいた。
「ど、どうしたの?」
「いや……名前、何かしたか?」
「私?ううん、何も」
「そうか……、ああ、じゃあなんでもねェ。ほら、勝手に外に出てんじゃねーよ」
「あ、うん。……いってらっしゃい」
「おう、行ってくる」
まだ何か周りを警戒しながらホルマジオは歩いて行ってしまった。



その夜、夕食の後にギアッチョはくまのキーホルダー、イルーゾォは可愛いくまのぬいぐるみをくれた。どうして二人そろってくまなのかは謎だけれど、十分それは嬉しくてありがとうとお礼をいう。ギアッチョにぐちゃぐちゃと髪の毛を掻き回されてむすっとすれば、イルーゾォがそれを笑いながら治してくれて。それからふとホルマジオがいないことに気が付く。あれから帰ってきていないみたいで、リゾットに今回の任務は長いのかなと聞けば、苦い返事で曖昧に濁されてしまった。それがまた妙に胸をざわつかせて、その夜は不安を押さえ込むように必死にくまのぬいぐるみを掻き抱いて眠りについた。



つぼみの祈り
(どうかこの嫌な予感が外れますように)


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