抜き出した片足、 | ナノ
「名前」
こんこんと軽いノックと一緒に優しい声が聞こえる。いつの間にか夢の世界に落ちかけていた意識はそれによって引き戻された。のそりとベッドから立ち上がりドアを開けるとリゾットとホルマジオが立っていたから、どうしたのかと尋ねれば出掛けないかと聞かれた。驚いて目を見開く。いいの?と聞けば、構わないと返ってきた。いつも通りの表情からは何も読むことはできなかったけれど、どこか優しい目をしていたから結構心を許してくれているのかもしれない。
すぐに行くと言って二人をリビングに追い返してクローゼットを開いた。浮かれる心のまま選んだ服はついこの間リゾットに買ってもらったワンピース。気合い入れ過ぎかなと思いつつも二人の前に立てば、二人は目を見開いてから笑って見せた。
「どう、かな?」
「いいんじゃあねェのか」
「ああ、よく似合っている」
二人が褒めてくれたことに顔を綻ばせつつ玄関に出るとそこにあるはずの私の靴がなくて、その代わりにヒールの高い靴があった。どういうことだと振り返れば、それを履くように促された。誰のだろうと思いながら靴を履けば、心を読んだかのように私のだとリゾットが笑った。
「これもリゾットが?」
「いや、そいつはプロシュートからだ」
「プロシュートが?どうして?」
「……プレゼントしたかったんだろ」
微妙な顔でリゾットに答えを曖昧に濁されてしまい首を傾げる。横でホルマジオが笑っているのが気になるところだ。いいから行くぞと出て行ってしまったリゾットを小走りで追いかければ、後ろからホルマジオはゆったりとした歩調で追いついてしまった。ちくしょうコンパスの差か。



どこに行くのか尋ねるタイミングのないままついていけば、いくつかの店を巡った。その度にリゾットかホルマジオが店主らしき人とこそこそと話をしているのをみてピンときた。きっと情報収集をしているのだろう。昨日聞いたポルポという名前を思い出す。やっぱり嫌な予感。
そうして何番目かに入った雑貨屋さんのような店で、同じように店主のもとにリゾットが話をしに行く。それを横目で確認してから店内を見回せば可愛い小物がたくさん置いてあった。少し見ても大丈夫だろうかとふらふらと髪留めのあるスペースに移動する。最近前髪が伸びてきて気になっているのだ。綺麗に並べられているひとつひとつを眺めて目を細める。
「なんだ、欲しいのか?」
唐突に背後から声が聞こえて驚きながら振り返れば、ホルマジオが立っていた。
「びっくりした……。うん、ちょっと前髪が邪魔で」
「ああ……確かに伸びてるな」
さらりと私の前髪を撫でると、ホルマジオは店主に一声かけてからたくさんの髪留めの中からひとつをとった。あれ、リゾットがいなくなってる。どこにいったんだろう。きょろきょろしていればホルマジオにこれなんかどうだ、と声を掛けられた。そちらに目を戻せば、可愛らしい花がいくつかついた髪留めを持っていた。
「名前は黒髪が綺麗だからな、これくらい鮮やかな方が似合うんじゃねェか?」
「うん、それ可愛い」
ホルマジオが笑いながら前髪を止めてくれて、近くにあった鏡を覗き込めば確かにしっくりとくるデザインだった。いいかも、と呟けばじゃあそれで決定な、と言ってホルマジオは止める暇もなく会計に行ってしまった。確かに私お金持ってないけど……!慌てて追いかけようとすれば後ろからぐい、と腕を引っ張られた。
「買ってもらっておけ」
「リゾット!けど、」
「お前が金を持ってないのはオレたちのせいだろう。出させてくれ」
少し表情を緩ませながらリゾットにそういわれてしまえば、もう従うしかなかった。素直に頷けばそれでいい、と頭をぐしゃぐしゃと掻き回すように撫でられて、抗議の声を上げる。そうこうして戯れているとホルマジオが戻ってきて、そのまま夕飯の買い物だけをして家に帰った。やっぱり荷物は持たせてくれなかった。



家に戻るとすでに全員揃っていて、腹減ったの大合唱をくらってしまったので急いで夕飯を作って、全員でそろっていただきますをする。最初はわたしだけがしていたのだけれど、いつの間にか皆真似してするようになっていた。
「あ、プロシュート靴ありがとう!」
「ああ、気に入ったか?」
「とっても!可愛いし歩きやすかったよ」
「そりゃあよかった」
ヒールが高いくせに歩きやすいあの靴はきっと高価なものに違いない。本当に貰っていいものかと思っていたが、嬉しそうにプロシュートが笑っているからここはありがたく受け取っておくことにしよう。
「ホルマジオも、髪留めありがとうね」
「何回目だそれ。まあ、どういたしまして」
帰り道も何回も言ったけれどもう一度そういえばくすくすと笑ってホルマジオはパスタを口に運んだ。
「えー!プロシュートもホルマジオも名前にプレゼントしたの?」
メローネがわざとらしく驚いてそういった。ああ、と何食わぬ顔で返す二人に、オレもなんかあげるから待っててね、なんてメローネは怪しく笑んだ。嫌な予感しかしないから、変なものはやめてよねと先に言っておく。横でギアッチョもイルーゾォも何か考えているようだった。



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