抜き出した片足、 | ナノ
「落ち着いたか?」
「ごめんね……」
名前はようやく治まってきた涙の痕を拭いながらリゾットたちを見上げる。まだ心配そうな顔をしている彼らに、力なくへにゃりと笑いかければ彼らも少し安心したように笑った。まさかお兄ちゃんたちが死んでいたとは思わなかった。しかも殺されていたなんて夢にも、だ。視線を落として深く深くため息を吐けばまた優しい手が落ちてきて、顔を上げるとリゾットが困ったように笑っていた。
「昔のソルベとジェラートって、どんな感じだった?」
名前が大丈夫そうなのを見とめたメローネがいつもの調子で話しかける。彼らの名前を聞く度にまだ胸は痛むが、それでも思い出は穏やかで懐かしく思い浮かんだ。
「優しくて、いつも二人でいて、たくさん私に構ってくれたよ」
「そんときから二人はべったりだったのかよ」
「うん、べったりだった。って、皆といたときもおにいちゃ、ソルベとジェラートはべったりだったの?」
「お兄ちゃんで構わないよ。ああ、べったりだった。デキてんじゃあねーかってくらいには」
「へー」
メローネの言葉にその姿が簡単に想像できた名前は少し笑って、それを見たリゾットの顔にも安堵の色が浮かんだ。ホルマジオは興味深げにまだ質問を続ける。
「あいつらと居てよ、何して遊ぶんだよ?」
ホルマジオの頭の中にはキレた犯罪者の姿しか思い浮かばない。確かにいい奴らだったが、子供に構う姿なんて微塵も思いつかなかった。
「えー……、遊具で一緒に遊んでくれた、かな。滑り台とか」
「滑り台!」
ぷはーっ、とメローネが盛大に吹き出して笑い転げる。ホルマジオも笑っているし、リゾットも心なしか肩が震えているように見える。想像できねぇなと言えば、名前は可笑しそうに首を傾げる。
「私からしたらその姿以外の方が想像できないんだけど……。皆といたときはどうだったの?」
「そりゃあ……」
そこまで言って言葉に詰まった。まさか暗殺のプロの中のプロでしたと答えるわけにはいかないよな。何と言おうかと迷っていると、笑い転げていたメローネがまだひーひーと苦しそうに息をしながら、ホルマジオのかわりに答えた。
「チームにいるときもずっとこっわい顔してる奴らだったぜ。あー、その姿が想像できねーくらいにはな、っぷ、」
また何かを想像したのか、再びメローネは笑いだして、名前は、怖い顔かー、なんて呟いて少し笑った。
「うん、わかるかもしれない。町の人たちもお兄ちゃんたち見たら避けてたしね」
懐かしそうに明るくそう呟くけれど、その目にはまた涙が見えた。もうこの話はやめるべきなのかもしれない。そう思ったリゾットが徐に立ち上がろうとすれば、名前は目を閉じて、変わらないねと呟いた。誰に言っているのかはわからなかったけれど、そうだな、と返せば口角を少し上げた。
「ねぇ、リゾット」
「なんだ」
「トリッシュ、ここに早く連れて来て。トリッシュをパードレに合わせちゃダメな気がするの」
「……そのつもりだ」
そっと開かれた名前の目には強かな光が宿っていて、初めてここに連れてきたときのことを思い出す。やっぱりこの目は、眩しい。そっと目を細めて名前の頭を撫でると、ふと一つ提案をする。
「一緒に、買い物行くか」
「「「えっ!?」」」
その突然の申し出に驚いたのは名前だけではなかった。ホルマジオもメローネも、これでもかと目を開いて驚いている。
「ほ、本気で言ってんのかよリゾット!」
「そうだぜリーダー、いいのか?」
「ああ、どうせ一緒に居れば逃げることもできないだろう」
なあ、名前。
ちらりとリゾットは名前に目を遣る。未だ驚いて目をぱちくりとさせていた名前は、慌てたように首を振った。
「に、逃げる気なんかないよ!」
「そうか」
にやりと珍しくはっきりと口角を上げたリゾットに三人はまた驚く。けれどホルマジオはすぐに呆れたように笑ってから、しょおがねぇな〜と言って玄関に向かった。それにメローネも笑いながら続く。リーダーは突拍子もないよね、と。リゾットもそれをいつもの無表情で受け止めながら、呆然としている名前の手を引いて玄関に向かった。
「ひ、久しぶりの外だ……!」
喜ぶ名前を傍目に捕えつつ三人のヒットマンは楽しそうにいつもの店へと足を進めて買い物をした。名前は、帰り際に買ってやったジェラートを見て、少しだけ悲しそうに微笑んでいた。



アジトに戻って賑やかな夕食と穏やかな入浴を終えると、名前はリゾットの部屋に向かった。期待と不安を胸に抱いて、コンコンと扉をノックする。
「リゾット、ちょっといい?」
「ああ、入れ」
そういいながらもリゾットが自らドアを開けてくれる。グラッツェ、と言いながらその横をすり抜けて部屋に入ると、振り返ってリゾットの目をじっと見つめた。
「どうした?」
「少し話がしたいんだけど、大丈夫?」
いつぞやのデジャヴだなと思いつつリゾットは頷いた。少し目線を彷徨わせた後、名前は一つ息を吐いて決意したようにリゾットを見上げた。
「トリッシュの、大体の居場所の見当はつくの」
「……なんだと?」
リゾットは驚いて目を見開く。名前の決意はリゾットたちに協力することだった。最初は、ひどい人たちだと思っていた。けれど日に日に優しくなっていく彼らが、どんどんと大好きになっていた。だからこそ、彼らが嫌うボスにトリッシュを合わせてはいけない気がして。名前は思いつく場所を全てリゾットに教えに来たのだ。思い当たるすべての場所を告げると、リゾットは手を伸ばして名前を抱き寄せた。
「グラッツェ。必ずここに連れてくる」
「うん、トリッシュをお願い」
「ああ、明日行ってくる」 
そういうとリゾットはもう一度グラッツェ、と囁いて名前の旋毛に口付けた。



もう少しだけ待っててね
(きっと大丈夫)
(けれど何故か、妙な胸騒ぎ)


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