抜き出した片足、 | ナノ
ふわふわとした意識の中で、どこからともなく声が聞こえてきた。そういえばお昼の片づけが終わった後、リビングで寝ちゃったんだっけ。じわじわと現実に引き戻されるまま、まだ暗い視界の中で聞こえる声にだけ耳を澄ました。誰が話しているのか曖昧な意識の中で判断はできないけれど、ただ落ち着く人たちの声。ああ、わかった、リゾットたちだ。そろそろと目を開けようとしたとき、ようやく彼らの話声がはっきりと聞こえ出した。
「ソルベと……ジェラート、か……」
ソルベとジェラート。聞き覚えのある名前に目を開くのをやめて誰だったかを思い出す。そうだ、私がまだ両親と暮らしていた時に近所にいたお兄ちゃんたちだ。すごく優しくて、私を可愛がってくれていた彼らは、そういえばリゾットたちと同い年くらいなんじゃないだろうか。もしかしたら知り合いなのかもしれない。世間というのは狭いものだ。
「あいつらが殺されてからもう、二年か……」
「ああ。あいつらのためにも、さっさとトリッシュを探さねーとな」
その言葉に、バッと飛び起きる。今までのふわふわした感覚はどこへやら、心臓が激しく暴れまわっていた。私の横に座って驚いたようにこちらを見るリゾットと、向かいのソファーに座っているホルマジオとメローネ。この三人だったのか。
「うわっ!?」
「名前……、いつから起きていた」
「さ、最後のあたり、えっと、殺されて、くらいから」
本当はソルベとジェラートの名前あたりからだけど、どうせその辺はまともに聞いてないからいいだろう。こちらを見下ろすリゾットの目をじっと見つめ返して、未だ嫌に痛む心臓を押さえながら縋り付くように尋ねる。
「お、お兄ちゃんたち、ころ、殺されたの……?」
「お兄ちゃん?」
「そるべ、と、じぇらーと」
名前を口に出した途端、彼らは表情を変える。驚くメローネ、苦々しい顔をしたリゾット、怪訝そうなホルマジオ。目の前が涙で滲む。
「……名前、お前あいつらのこと知ってんのか?」
「ちっちゃいころに、たくさん、遊んでもらってた、の」
「マジかよ……」
今にも涙を溢しそうなわたしの頭をホルマジオが優しく撫でながら尋ねて、そうに答えればリゾットがより辛そうに顔を歪めて私の方を見た。メローネでさえ真剣な表情をしているのだからもう答えは分かっているようなものだけれど、それでも信じられない気持ちが強くて。
いつもソルベとジェラートはふたりっきりでいて、他に友達とかいないのかと思うくらいだった。私も日本人顔だから、中々幼い頃は受け入れてもらえずにひとりでいることも結構あって、そういうときにいつも二人は構ってくれいていた。片方ずつ、二人に手を繋いでもらって歩く夕方の道が大好きだった。そしてある日突然彼らはいなくなったけれど、それと入れ替わるように友達が増えたから、会うことも気にすることもなくなっていたんだと思う。それでも忘れないほど大好きな友人には変わりない。
「ねぇ、本当に、殺されたの……?」
涙声で尋ねる私に三人はしばらく黙ったままだったけれど、一度目配せしてリゾットが深く息を吐いた。そして、
「ああ」
とだけ言った。暗いその目に宿った色は真剣そのもので、頭の中は真っ白になった。分かってはいたけれど、それでも肯定されると堪えきれなくなった涙が目から流れ落ちる。聞いたのは自分なのに、その答えに何も言えなくなってただ泣き続けた。誰が殺したの、と聞こうとしたけれど最初の会話から考えてきっと、トリッシュの父親なのだろう。その事実さえ胸を締め付けて余計に涙が止まらなくなる。どうして。あんなに優しい人たちだったのに。
「名前、泣くな……」
ずっと泣き続けているとリゾットがそっと抱きしめてくて、暖かいその胸に縋り付いて強く抱き込まれた腕の中で息を吐き出す。どうして、どうして。優しく慰めてくれるリゾットの胸の中、私はぐるぐると回る感情を消化できずにいた。



もしもの日
(トリッシュ、)
(あなたは父親に合わない方がいいのかもしれない)


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