『僕の愛しい人…いろは』











──たしかにそう聞こえた


自分の耳を疑ったが、次に言った男のことばをきいてそれは確信に変わる





「ああ…愛しいいろはよ

あのまま生きていれば僕以外の男をすきになってしまうかもしれない
あのまま生きていれば僕以外の男にさらわれてしまうかもしれない
あのまま生きていれば僕以外の男に…殺されてしまっていたかもしれない…


これでよかったんだ
間違って、いなかった

他の男に取られるくらいなら
僕が殺してしまえば…、いろははずっと僕のものになる


もう誰もいろはを取れやしない
だって僕が、僕の手で、殺したんだから

ああ…ああ…
僕の…愛しい…人…。




僕も今からそっちに……」















男は懐から刃物を取り出して、腹にあてる



ぶすり、といっちまいそうなその光景を

おいらは自分でも驚くほど冷静に見ていた。










きらりと刃物がひかる、




あいつが死んだっておいらはなんとも思わねぇ




けど、












『あの人は元気かなあ』



『私の大切な人…』












━━━━キィンッ!!



「っ!!」








カランカラン、


落ちたのは、刃物とおいらが投げた小判





おいらの頭んなかに、
やさしい顔で笑ういろはちゃんが浮かんで


気付けばあいつの手元めがけて小判を投げていた








男はおいらに気付いて、腰をぬかす







「だ、誰…だ…」




こいつが死ぬのはどうだっていい





「くるな……くるな!!」




だけど、





「ひぃっ!!」















━━━━━━━━…、















死にてぇんならおいらが殺してやったってよかった


だけどそんなことを、いろはちゃんは望んじゃいない


いくらこいつが自分を殺した奴なんだってわかったとしても

憎んだり呪ったりしねぇだろう。








「おめぇは生きて、罪を償いやがれ」





落とした刃物を蹴っ飛ばしたら
橋の下へと落ちてった。















*******
















「………なんでいさっきから」



行く宛もなく歩いていると、
ガンガンとひどい頭痛が続く


それに加えて、おいらのまわりを照すかのようにふよふよ浮いてる青白い火の玉




「しらぬいか?」




おばけは怖くて、しらぬいはなんで怖くないのか、

それはおいらが今までの旅でめいいっぱい退治してきたからだ





いつものおいらならキセルでこいつらをやっつけちまうけど
頭が痛すぎてそれどころじゃなかった


それに、こいつらから敵意を感じない



おいらをどこかへ導いてるみてぇだった









(━━━━━ゴエモンさん)



「…!?」



(ゴエモンさん…)










いろはちゃんか…?










しらぬいが示した道は、茂みの奥


木々を避けて通れば
真っ暗だった道が急に明るくなる


そこには、おいらを呼んだいろはちゃんが座り込んでいた



「ゴエモンさん…!」


「いろはちゃん…、あ、頭!イッテェ…!」


「ごめんなさい…!わたしがここまで呼んだから…」




いろはちゃんの透けてる白い手がおいらの額にあたると、すぅっと頭痛はウソみてぇに消えてった。


けど、いろはちゃんのせいなのが
さっきから身体が重くて立ってるだけで精一杯だった。





崩れるようにおいらは座り込むと
いろはちゃんは心配そうに顔をのぞいてくる。


心配なんか、そんなもんいらねーっての。





「…さっき会ったぜ、いろはちゃんの恋人に」


「…はい、見ていました」


「!……そーかい」




いろはちゃんの表情は変わらない



けど、少し、声が震えていた






「あの人に、殺されてたんですね」


「…」


「えへへ、知らなかった」





笑っているのに、眉がさがって

薄い唇は震えている。


どんな言葉をかければいいのか、なさけねぇけどわからない。


透ける小さい身体も震えていて

次第にいろはちゃんの大きな瞳から涙がこぼれてった。




「いろはちゃん…!」


「っ!」




言葉がでねぇから、抱きしめた。
それしか出来なかった。

当然おいらの腕は幽霊のいろはちゃんをさわることなんて出来やしない。


けど なんでか、いろはちゃんのあったかい体温を感じれるような、気がして…。




「ありがとうございます、ほんとうに…
わたしなんて赤の他人で、ましてや幽霊なのに…」


「へん、んなもん関係ねーよ」





申し訳なさそうに、でも照れながらいろはちゃんはそう言う


まだ拭いきれない瞳で、おいらを見上げて…














「実はわたし人間じゃないんです…」















「え?」














何を言い出すんだ?



「わあってるよ、幽霊だろ?いまさら脅かそうったって…」


「幽霊は幽霊なんですけど、死ぬ前は人間じゃなかったんです」


「へ?」


「だから、こうなってしまったのも当然の報いだなあと思って…」



「……………へ」







???














******





それからおいらは頭が働かないまま、一生懸命いろはちゃんの説明を聞いた。




「あの人を偶然見かけてから、ずっと胸がどきどきしてしまって、
これが人間界でいう"恋"なんだって知りました。


でも、わたしは妖怪で
彼に近付けば怖がられてしまう。


だから、人間に化ければ近付けると思って、必死に何度も練習しました。」



「…」



「練習して、うまく化けることが出来た姿が、今のわたしなんです。


そして、運よく彼と恋人になることも出来たんです…。


…でも、そんなことぜったいしていいことじゃない。
だからきっとバチがあたったんですね」



「よ、妖怪…。」



「彼には正体を隠して、たくさん嘘をついて…、ほんとうに…ひどいことばかりしてしまいました…。
自分のことがほんとのほんとに嫌いです」



「おいおい…そんなに自分を責めんなよ」



「…、すみません、ありがとうございます」




正直目の前のこの子が妖怪だなんて信じらんねーけど…
けど確かに、いろはちゃんに違和感を感じたことはあった。


人間味がないっていうか、なんか、よくわかんねぇけど…。
おいらが普段から妖怪を相手に戦ってたから
何かを感じれたのかも





「…ゴエモンさん、わたし成仏できそうです」


「えっ?それまた急だな…。いっちまうのかい」


「はい、今ならいけそうなかんじがします…!」


「ぅおっ!!」



いろはちゃんのまわりがきらきら光だした。
成仏するときってこんなかんじなのか…?




「ゴエモンさんには本当にお世話になりました。
また、死期の世界でお会いできたらうれしいです」


「死期の世界って…んな縁起でもねーこと…。
へへっ、でもまあそのうち行くことになるから、また会おうな」


「はい…!また…!」




今までのいろはちゃんの中で、いちばんの笑顔で消えていく。



…………ん??


いろはちゃん…?




なんでい、その……



「いろはちゃん……そのしっぽ……」





ボンッ!!!!!



「おわッ!!なんでいこの煙!?
なんも…見え、ねぇ……」








***********






「ゴエモンどの!!」


「ぐうぉぉおお〜…」


「ゴエモンどの!!」


「ぐがぁぁああ〜…」


「ゴエモンどの〜〜!!!」


「…………………んあ…?」


「やっと起きたでござる〜!
こんなところで何をしてるでござるか!」


「あ…?サスケ?なんでいおめえ…何してんだ…?」


「それはこちらの台詞でござる!
どうしてこんなところで…しかも枯れ葉に埋もれて寝てたのでござるか〜!」



「えっ?……………、



何してんだおいら…」





















*******







「ん〜〜、思い出せね〜」


「飲みすぎたのでは?」


「いんや、酒は強いほうだしなあ…」



サスケが起こしてくれて、

状況を把握しようと思ったけど
全然よくわかんなかった。


でっけぇ木にもたれながら座って
すっげぇ量の枯れ葉を掛け布団代わりにしたかんじで

よだれたらしてぐーすか寝ていた。







バカだ。


ただそれだけでい。








なんか最近そんなんばっかじゃねーか…


昨日なんか寝小便かましたしな…


あれはほんとに一生の恥でい



はあ…寝小便…。





「ゴエモンは〜〜〜ん!」




ぅお!

寝小便のこと考えてたらエビが現れた。

またおいらの弱味につけこんで何か買わせたりしねぇだろうな



「探したんでっせ〜!ゴエはんち行ってもおらへんから…わてさみしかったわ〜」


「ゲーッ!気持ち悪ぃ!くっつくなエビ!」


「ゴエモンどのは何故か外で爆睡していたでござる」


「え?なんでぇな?家追い出されたわけちゃいますやろ?」


「おいらもなんでそうなったか全っ然おぼえてねぇんだよな〜」


「ふ〜む」


「あれちゃいまっか?
最近よくでるっちゅう妖怪のしわざ…。
ひゅーどろどろ…


なんちゃって」



「あ!!??」



「な!なんですのん!?」




なんかおいら…、すっげぇ大事なこと忘れちまってる気がする…


なんだったか…


ふ〜む…












━━━━━ゴエモンさん!








!!





「そうでい!いろはちゃん!」


「いろは…ちゃんどの…?
はて?どなたでござろう?見せ物小屋の娘さんでござるか?」


「んなわけあるか!
それにおめぇ、顔色ひとつかえずに見せ物小屋とか言うんじゃねえ!」


「いろははん?そんな子はぐれ町にいてました?」


「てやんでい!瓦版に載ってた子でい!
昨日その子のこと、おめぇといっしょに話したじゃねぇか!」


「え〜そんな話してまへん、昨日はおみっちゃんとこいって三色団子選手権してたやないでっか〜」


「え?」


「そうでござるよ
結果はやはりエビス丸どのの圧勝だったでござる」


「…え?」


「エビス丸どの、全くペースをおとさずあれを完食してしまうとは…どんな胃袋でござるか」


「わての腹ん中はぶらっくほ〜るですわ〜」





………………


いろはちゃん…



いろはちゃん






…?




「いろはちゃんってだれでい…?」















ひらひら


ひらひら




「!なんでいこりゃ…」



空からなんでか木の葉が降ってきて
手に取ると文字が書いてあった




「えーっと、なになに…"ありがとうございました"…?


なんのこっちゃ??」







*おしまい*










∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


おわりです!
読んでくださってありがとうございました!

結局いろはちゃんはなんだったのか

たぶん、化けたぬきか化けきつねだったんじゃないかと思います。たぶん


ゴエはんがなんでいろはちゃんのことを忘れちゃったのかと言うと

いろはちゃんが成仏するときに
いろはちゃんが、人間界にいたことをなかったことにして成仏していったからです。

わたしの文才ではそのことを書けませんでした(;_・)

よく考えたらこれ夢小説でもなんでもないや

でもたのしかったです、、

ありがとうございました*


宇佐美より





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