結局いろはちゃんは、
事件の記事のことなんか気付かずに瓦版に載ってある四コマ漫画をみて大笑いしていた。
「あ〜おもしろかった。
わたし四コマ漫画の“ぬぬちゃん”がだいすきなんです」
「そ、そうかい…。(ほっ…)」
ときどきオチがよくわかんねぇことで有名な“ぬぬちゃん”。
読んで半笑いにならおいらもなったことはあるけど大笑いしたことはない…。
ってちがうちがう
ぬぬちゃんのことより
いろはちゃんがあの事件のことを読まなくてよかったぜ…
身体は動かせねえけど冷や汗かきまくって、尻までびちゃびちゃでい…。
そんなおいらの心境も知らずにいろはちゃんは笑いすぎて出た涙をぬぐって、瓦版を閉じた。
「……あの人は元気かなあ〜」
「ん?」
「私の恋人です、死んでからまだ一度もあえてなくって」
「………」
会えないのことが幽霊にとって本来普通のことなんだろーけど…。
いろはちゃんを見てると幽霊っていうかんじがしないんだよなあ。
だからといって人間味があるわけじゃあねえし、生きた心地がするわけでもねえし…。
「そいつん家には行ったのかい?」
「いいえ、なんでか…行けないんです。
…行けないんじゃなくて、私が拒んでるのかも」
「??どういう…」
「だって私が…全部……」
ボンッ!!!
「なッ!なんでい!」
視界がどんどん白くなっていく…!
おいらの意識も…だんだ…ん…
***********
「てやんでい…おいら…おいら…」
「ゴエモンはん…ほんまでっか…」
エビス丸に起こされて、ふとんから起き上がろうとすると尻に違和感を感じたんでい…。
まさかまさかとは思ったが…
「おいら…寝小便かましたってか…?」
「ええ大人やのに…」
これは…愛しのおみっちゃんにおいらのすっぴんを見られた時以上に恥ずかしい
けど、見られたのがエビでほんとによかった…
「ゴエはん、見なかったことにしときます」
「お、おう…エビ…ありがとな」
「なにゆうてますのん!わてらの仲でっしゃろ!」
「エビ…!おめぇってやつは…!」
「おみっちゃんにももちろん言いません。ヤエちゃんやサスケはんにも…」
「ああ!」
「このこと黙っとくんで、そのかわりにわての願いを叶えてほしいんでっけど…。」
「おう!なんでも言ってみな!」
「こないだわてがほしいゆうてた衣装…買うて…?」
「お安い御用で…!……へ?」
***********
ちゃりーん。
「まいどあり〜」
むさくるしいおいらとエビの二人組が
ふぁんしーな服屋から出ると、町の人の視線が痛い。
そんな視線なんか気にせずエビのやろーはおいらが買ってやった純白の“ばれりーなどれす”を抱えて嬉しそうにおどっている。
いつだったかわすれたけど、
ここの店のショーケースをみてエビが目を輝かせてた。
『ゴエはんゴエはん!あれ買うて!』
『あ?!あんなもん誰が着るんでい』
『わてやん!わてしかおらんやん!
あれ着たら今よりもぜったい強くなると思いますねん!』
『ってやんでい!寝言は寝て言ーやがれ!』
『そんな!わて本気やで!
あっ!待ってーなゴエモンはん!』
まさかほんとに買うはめになるとは…
財布はすっからかん、また無一文になってしまった。
「これでわてのふぁんがもっと増えますわ〜!ゴエはんおおきに!」
「よかったな…」
ちきしょ〜、最近ついてないぜ
寝小便かますわ、こんなもん買うはめになるわ、金縛りにはあうわ…、
金縛り…。
「そうだ!いろはちゃんは…?!」
「へっ?いろはちゃんて誰ですのん?
まさかわてやおみっちゃんのほかに愛人を…!!」
「てやんでい!んなわけねーだろ!
最近夢にでてくる幽霊でい…。
けど、なんてぇーか…夢ってかんじがしねーんだよなあ…」
「…ゴエはんそれぜったい夢ちゃいまっせ、いろははんって瓦版に載ってはった子でっしゃろ?
最近いろははんの幽霊を見たって人、よおさんいてるし」
「おめぇそれ…まじでいってる…?」
ぞわわっ
やっぱりあれは夢じゃなかったのか…
あんだけかわいい顔してても、幽霊なんじゃあやっぱり怖い
そりゃあ寝小便かましても仕方ねぇ…
「せやからって、ええ年して寝小便は…あきまへんわあ…」
「まだ言うか…エビよ…」
************
ばれりーなどれすを持って上機嫌なエビと別れれば、日は沈み、夜になっていた。
もう今日は寝ないでおこう。
また小便もらす。
…………………
けど、
昨日、いろはちゃんが最後に言ってたことが気になるんでい。
『だって私が…全部……』
全部……なんなんだ?
そんでもって、恋人のとこに行かない理由もよくわからない。
おいらがもし、死んじまったらまっさきにおみっちゃんにあいに行くけどなあ。
……………………
…………………
家にいてもやることがねぇもんで夜の静かな町を歩いていたら
橋の上にひとり……、男がいた。
夜中に歩いてるおいらが言えたもんじゃねぇけど…、あいつ…怪しい。
何か独り言をぶつぶつ呟いてるみてぇだ。
少し近付いて、聞き耳をたてれば
おいらは一瞬息をするのも忘れた
「いろは…僕の愛しい人よ…」
(──────ッ!?)
〜つづく〜
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