自分が本当に正しいことをしているのか、

何が善で、何が悪か
だんだんわからなくなってしまった。




∞∞∞∞∞∞∞∞





今日はお仕事がお休みで、一日中だらだらしながら答えがでない考え事をしていた。

せっかくのお休みなのに
こんなこと考えたくない。
もう頭からこんなもやもやしたもの出てってほしい…。


お昼に目が覚めて
おなかがすいたからごはんをたべて
まただらだらして…。




『食べたあとにすぐ横になったらウシになるよ〜』




昔、お母さんによく言われたことが頭によぎった。
ウシになったことは一度もない。

そのあとに
明日からまたお仕事だってことが頭によぎって
わたしの頭の中はさっきの考え事を再開させた。



そうこうしているうちに
お昼だったはずが、そろそろ夕日が沈みそうになっていた。
全く有意義じゃないお休みの使い方をしてしまって後悔。


負の連鎖……。



「…お散歩してこようかな」




むっくり起き上がって
着崩していた着物の帯をぎゅ!っとしめて、ゲタを履く。

歩けば、可愛い女の子が鳴らすカラカラした足音じゃなくて、ズッズッと摺り足の音が鳴った。






∞∞∞∞∞∞∞∞




わたしは
橋の下に座って石っころを川にぽちゃん、ぼちゃん!投げ続けてる。


「あれ…お散歩じゃなかったっけ…」


お散歩するつもりが橋の下の川辺に座り込んで
無心で石っころを投げてた。




わたしの休日
これでいいのかな?

わたしなにやってるのかな?

わたしなにがしたかったのかな?

なんであんなにがんばったんだっけ?

なんで

なんで


守るつもりが

悲しい顔をさせてばっかりなんだろ?



?????





ぼちゃん!!!



石っころじゃなくて
岩みたいに大きい石を投げた。

その音が大きくて
わたしに近付く足音に気づけなかった。




「こ〜んな可愛い子がこんなとこでなにしてんでぃ」

「…!」

「悪いやつに襲われちまうぜ、早く帰んな」




ぎょっとした。


ぎょっとしすぎてしばらく息をするのを忘れた。

わたしは目をぱちぱちさせて開いた口を開きっぱなしにさせてた。




「ど…、どうしたんでぃ」

「…びっくり、した」

「そりゃあそうか!
なんてったって、天下の大泥棒のゴエモンさまが現れちゃあびっくりするよな!」



仁王立ちをして高らかにそう教えてくれた。



そう!


わたしの目の前にいる人は悪いはずの大泥棒。



……でも

義賊なんだって。





いまのわたしの考え事に最適な人だった。


神さまってほんとにいるんだ…。
こんなときにゴエモンさんと巡り合わせてくれるなんて。







「…んで、家出かい?」

「え?違います。ちょっと考え事しながら石っころを投げてただけです…」

「石っころてか…でっけぇ岩だったけどな…。


ま!
そんなことは良いとして。
家まで送るぜ。危ねぇしな」




ん、



わたしに手を差しのべてくれたゴエモンさんの手をわたしは眺めるだけで、
沈黙が続く。


なんでこんなにゴエモンさんって……




「……?どーした?」

「なんでそーやって、助けてくれるんですか?」

「え?なんでって……。
んなこと考えたこともねーよ」



腕を組んで
う〜〜んと唸るゴエモンさん。


ゴエモンさんって悪い人のはずなのに、いい人なんだ。


わたしは……その逆だ。




「誰かが困ってたら体が勝手に動いちまうんだよな。



…だれかを助けることで、罪を犯したとしても。
それでもおいらは自分が悪いことをしたってつもりはないぜ」



ニカっと笑うゴエモンさんは、すっかり夕日が沈んで暗くなったのに
とっても眩しく見えた。


とっても、かっこいい。




わたしより身長が高いゴエモンさんがもっともっと大きくみえて、
きらきらしていて。

眩しくて、眩しくて、
見て…いられない…。






「……わたしも、そう、なりたかった…!
それが…なによりの…夢だったのに…!!」



ぼろぼろ落ちていく涙が石っころに染みを作る。

もやもやしたものが涙になって出てしまったみたい。

「お、おい…一体どうしちまったんだ…?」

「……わたしが、してきたことは、善のようで…悪だったのかな…?
わたしがしてきたことは、ぜんぶぜんぶ、なんだったんだろ…?」




えぐえぐ、泣きすぎて呼吸が出来ない
こどものように泣きじゃくるわたしをなんにも言わないでゴエモンさんは背中をさすってくれた。


わたしは、かっこよくないなあ…。





「なあ、おめぇさん何に悩んでるのかは…知らねぇけど…
自分がやってきたことを自分で否定しちゃあいけねぇよ」


ぽんぽんあたまを撫でてくれるゴエモンさんを見上げれば、眉毛を下げて笑ってくれた。



「おめぇさんががんばったんならムダだったことなんてなんにもねぇよ。
それに……きっと、おめぇさんがやってきたことで笑顔になったやつは山ほどいるぜ」



だからもう泣くことなんかねぇよ。




優しい義賊のゴエモンさんに慰めてもらえて
わたしは笑顔になった。


わたしも、困ってる人を本当に助けられるようになりたいな。








「ゴエモンさん、ありがとうございました」

「こんなことくらいでお礼なんかいらねぇよ」

「えへへ、
……ゴエモンさん。


わたし…本当は、
あなたとは反対の立場なんです」

「…え?どういうことでい?」

「本当は、あなたを捕まえなくちゃいけないんです」



わたしが懐から取り出したものを見たゴエモンさんは



「ゲッ!!!」



顔を青ざめて半笑いしていた。



「勘弁してくれよ〜!」

「ごめんなさい。でも今日はお休みなので捕まえませんよ。」



それに……ゴエモンさんを捕まえることは、きっとおかしい。





おわり。


∞∞∞∞∞∞∞∞

女の子はお役人でした。



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