※現代人のOL(夢主)の家のパソコンから自由に行き来できるゴエモンとエビス丸の話。(アニメ版みたいな設定)
仕事終わりの金曜日。
お気に入りのブラウスを着て、人が集まる地下街を待ち合わせ場所に、彼を待っていたいろはのスマートフォンが鳴った。
" ごめん、行けなくなった…"
ディスプレイに表示された通知をみていろはは、ハァーっと落胆する。
「(なんとなくそんな気はしてた…)」
昨日、彼に"明日楽しみだね!"とメールを送ったいろはだったが、その返事が今の今までいっこうに返ってこなかったのだ。
この人は、いつもそう…
都合の悪いことが起こるとだんまりを決め込んで、直前まで連絡してこない…。
……
いやいや…仕事が忙しいし…。
いろいろあるもんね…いろいろ…ね…
何かトラブルが起きたのかもしれないし…
行かなきゃいけない接待があるのかも…
……………
…………
"大変だね、がんばってね"
テンプレートのような返事を送って、スマートフォンを鞄にいれた。
その後すぐに鞄がバイブで揺れたが、もう見ないようにした。
どのみち"ありがとう"とか"ごめん"しか書いてないでしょう。
お互いに、感情を隠して、見なくてもわかるような上辺だけのやりとりを毎日繰り返していることに、いろははうんざりしていた。
満員電車でもみくちゃにされながら、最寄り駅に着いたいろははコンビニに寄った。
店内のカゴをひとつ取って、缶ビールをガンガン入れていく。
「(明日休みだし今日はヤケ酒しよう…)」
適当につまみもカゴに入れて、可愛い女の子のレジを避け、やる気のないオジサンのレジに並んだ。
私とは対照的に流行りのメイクをして、髪も綺麗に整えてて、未来があって、キラキラしてて…
………
自分とその子を並べると余計に悲しくなって。
いつの間にか、年齢確認もされなくなったことにも気が付いて、無心で会計を済ました。
******
自宅の扉を開けると、暗い室内につけっぱなしのノートパソコンの明かりがみえた。
重たい扉をガチャン!と音を立てて閉めると、ノートパソコンから「あれっ?」という声が聞こえる。
「ただいまぁ…」
挨拶と同時に真っ暗な部屋の電気をパチリとつけると、ノートパソコンから青いツンツンの頭がボコッと出てきた。
窮屈そうによいしょ、と身体を完全にパソコンから出すと、不思議そうにいろはを見る。
「おかえり!いろはちゃん今日遅くなるって言ってなかったっけ?」
「その予定だったんだけど…」
「いろははんおかえり〜」
ツンツン頭に続き、ほっかむり頭のエビス丸がゴエモンよりもさらに窮屈そうにパソコンから出てきた。
「ふんぬッ!!ほんませまいですわこの入口……日に日に通りづらくなるんでっけど…」
「おめぇ今日だんご80皿食べてたからだろ!しかもオイラのカネでよ!」
忌々しそうにエビス丸を指さしていろはにそう言うゴエモン。
いつもなら爆笑モノだが、いろはは笑う気力もなく、困ったような顔をするだけだった。
「どないしたん、その情けない顔!
またドタキャンでもされたんでっか?」
「お察しの通り…」
「おいおい、前もされてなかったっけか?」
「仕事が忙しいみたいで…」
「だからってこれで何回目だよ?」
「それ、ほんまに仕事なんやろか?」
「…」
「そういう口実なんじゃねぇの?」
「…」
「うっ…」
考えないようにしていた"もしも"のことをゴエモンとエビス丸にグサグサ言われ、抑えていた涙がボロボロこぼれていくいろはに、ゴエモンはあたふたしだす。
「わーーーッ!エビ!おめぇが泣かせた!」
「えぇ!?なんでや、ゴエはんが口実とか言うからでっしゃろ!……
って、そんなんええねん、いろははん!泣きたいときは泣いたらええんでっせ!」
「そ、そうだぜいろはちゃん、余計なこと言ってごめんな?」
「いや、余計なことじゃなくて事実だし…?いや事実かどうかわかんないけど……」
好きな人を疑いたくないから、言われること全部肯定して、
"がんばってね"、と笑顔を作るのはもう疲れた。
「今日はヤケ酒なんで…」
ガコッ!
と、両手に持っていたビニール袋をテーブルの上に置く。
ゴエモンとエビス丸はそのビニール袋の中を覗きこんだ。
「これ全部飲む気かい…?」
「あたりめぇよ…」
「いろははんヤケんなって江戸っ子口調になってる…」
いろはは大量の缶ビールの中から2つ手にとり、ゴエモンとエビス丸に渡した。
******
「だいたいいろはちゃんはさー、相手に合わせすぎなんだよ…いつもいつもよォ」
「それはわても同意見やわ」
「…どのへんが?」
プシュッと音をたてていろはは2本目の缶ビールを開けた。
ゴエモンとエビス丸もビールの味に慣れていないが、いろはのペースに遅れないように口をつける。
「性格もそうだろ、服装も相手に合わせるしー、髪型もさぁ、長いのが好きだって言われたから今伸ばしてんだろ?こないだまで短かったのにさぁ」
「そやでいろははん!
それに彼氏はんと電話してるときも余所行きの声で喋りますやん、わてらとおるときはそんな声出さへんのに!」
「だって可愛くみられたいじゃん!」
「それがあかん〜言うてんねや」
「偽って側にいても虚しいだけだろ?!」
「…………」
「もっとワガママになりゃいいのに」
「…嫌われたくないから」
「そんなんで嫌う奴なんか最初からいろははんのこと好いてへんやん」
「そーだぜ、嫌われたんならいろはちゃんの外ヅラしか見てなかったってことだ」
「…あ〜〜…」
今のいろはにはゴエモンとエビス丸の言葉ひとつひとつが図星で、グサグサと心臓に突き刺さる。
確かに、今、毛玉のついた部屋着に着替えて乱雑にまとめあげた髪で、めざしを酒のアテにしながら缶ビールを飲み続ける姿が本来の自分なのだ。
外ではそれなりに身なりに気をつけて、言葉遣いも丁寧に、大して面白くもない異性の話に大げさなほど相槌をうって…
一体いつからこうなったのか?
「ほんとに図星なんだけど…」
「だろ?」
「何回も同じこと繰り返しててほんと自己嫌悪…」
「自己嫌悪はせんでええけどもっと素を出さなあきまへんなー、わてみたいに!」
「エビ、おめぇはありのまま生きすぎなんだよ…ふんどし姿で急に踊り出したりさぁ…いろはちゃんを見習えって…」
「ほんならわてといろははんを半分半分にしたら完璧な人間の出来上がりや!」
「ハハッ、ほんとだね」
「おっ!やっと笑ったな!」
エビス丸の発言に笑顔になったいろはをみてゴエモンもニカッと笑う。
改めてそう言われるといろはは照れてしまって、3本目の缶ビールを開けた。
いろはに負けじとゴエモンもビールをぐっと飲み干して、新しい缶に手を伸ばす。
エビス丸はそんな光景をみてにっこり微笑んだ。
「まぁ…なんだ…背伸びなんかしなくてもいろはちゃんはちゃんと可愛いんだから、もっと自信持てっつーこと…」
「!」
恥ずかしいのかゴエモンは顔を若干赤面させる。
可愛いだなんて、面と向かって言われたの何年ぶりなんだ…といろははゴエモンの言葉を聞いて感激した。
「なんやゴエはん照れてますのん?」
「は?!照れてねーよ!酔ってるだけでぃ!」
「ほんまかいな…。せやけどこの"びーる"っていうお酒はシュワシュワでお腹に溜まりまんなぁ〜」
「そうそう、おいらも気になってたんだよ、江戸じゃあこんなハイカラなもんねぇーからなぁ」
「あっちは日本酒が主流だよね?うーん簡単にいうと日本酒はお米から作られてるけどビールは麦でできててそれのシュワシュワ版的なやつ………」
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「くかーーーっ」
「寝ちゃった…」
「飲みすぎですねん、ゴエはん」
その後なんでもない話を深夜まで続けた3人だったが、ゴエモンの睡魔が限界を迎えて缶ビール片手に机に突っ伏して眠ってしまった。
そんなゴエモンの隣にずっと座っているエビス丸はゴエモンとは打って変わって飲み始めから全く顔色が変わっていない。
アテのスルメイカを食べながら余裕の表情である。
「エビス丸はお酒強いね」
「そのお言葉いろははんにそのままお返しますわ」
「あは、確かに」
2人とも笑いあって、エビス丸の隣で爆睡しているゴエモンを見る。
「ゴエはん、こうみえていっつもいろははんのこと心配してるんでっせ」
「え?」
「わてと一緒におるとき、いろははんいろははんてうるさいくらいですもん!」
「ほんとに?なんて言ってんの?」
「今日デートの予定でしたやん?いろはちゃんうまくいってんのかな〜とか悪い男に引っかかってねーかなぁとか…ずーっと言うてますもん」
それを聞いて、いろはは嬉しいのと恥ずかしい気持ちでいっぱいになり思わず両手で顔を覆う。
自分がいないところで、自分を思い浮かべていてくれる誰かがいるということがいろはは本当に嬉しかった。
「もちろん!わても心配してまっせ!ゴエはんには及びまへんけど……」
「…嬉しい…ほんとにありがとう……ゴエモン…寝てるけど……」
「いいとこで寝るんやから…このお人は…」
ははは、とお互い笑いあう隣でゴエモンはむにゃむにゃと何か寝言を言っていた。
おわり。
オチなしでスミマセン!!!
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