夜のフクロウが鳴く頃。
サスケはいつものように物知りじいさんと自分用の寝床を用意しようと襖をあけると、そこには風呂敷に包まれた四角い何がが置いてあった。
「これは…?」
持ち上げてみると想像以上に重く、風呂敷の結び方も甘かったのでバササーっと床に落ちてしまった。
風呂敷から出てきたのは大量の本。
あわわ…
とサスケが拾い上げて表紙を見た途端、やかんが沸騰したように顔を真っ赤にさせて、屋敷中に響きわたる大きな声をあげた。
「じいさーーーーーん!!!!」
するとドタドタと足音をたてて物知りじいさんがやってくる。
「なんじゃサスケうるさいわい!」
"ぱじゃま"に"ないときゃっぷ"までかぶり、就寝準備万端の物知りじいさんが、サスケの悲鳴を聞いて寝床までやってきた。
そんなじいさんを見てサスケは、キッ!と鋭い眼光を飛ばし、風呂敷から出てきた大量の本を指さす。
「なんでござるか!この…この…!破廉恥な本は!?このあいだ処分したはずでござる!」
あまりの怒りにいつもツンツンなちょんまげがいつも以上にツンツンになるサスケ。
「ど、どわーッ!あとで隠そうと思って忘れてたーッ!」
「なッ!?隠そうと…!
まったく!何回処分しても懲りないでござるな!」
丁度明日は"本・雑誌・古着"のゴミの日でござる…!
と、もう処分する気満々のサスケに、じいさんは焦りながら説得できる方法を考え始める。
「(むむ…、昔はこんなことで怒らなかったというのに…。ゴエモンたちと旅を始めてからというもの、破廉恥なことは"えぬじー"なことだと記録してしまったか…ええいサスケめぃ…。いや、ゴエモンでは無いのぅ、きっとヤエちゃんが…。
そんなことより今はサスケからあの【限定特典付き☆ぴちぴちばにーちゃんず】をなんとしてでも取り返すことを考えねば…。)」
渋い顔つきで長くて白いヒゲをクルクル絡ませて作戦を練っているじいさん。
そうこうしているうちにサスケは床に散らばっていた破廉恥な本を麻紐でくくり、明日の朝に持っていく準備まで整えていた。
「とりあえず、明日の朝まで拙者が預かるでござる!」
プリプリ怒ったままのサスケを横目に、物知りじいさんはハッ…と何かを思いつく。
「(ここはあの"おまじない"じゃ…)」
「サスケはなんにもわかっとらん!」
「??何がでござる」
いきなり声を荒らげたじいさんに驚きつつ、サスケは問いかける。
じいさんはそんなサスケをしめしめと思いながらも表情には出さずにそのまま話を進めた。
「サスケよ、ワシはな!自分の夢を操る修行をしているのじゃ」
「なんですと?!…しかしこの本となんの関係が…」
「枕の下に好きな女の子の雑誌や写真を置いておくと、その子が夢にでてくるというおまじないを知っておるか?」
「そうなのでござるか!?知らないでござる!」
「サスケもまだまだじゃ。ワシは自分好みの女の子を夢にまで出させて、なお自分を抑圧する精神修行をしているんじゃよ」
「!!」
物知りじいさんは自分で語ったよくわからない持論に自分自身でハテナを浮かべながらも力強く言い放った。
わけのわからない説得だがウソを言っているわけではない。
だからと言って、こんな持論でサスケが納得するわけ……
「さすが拙者のじいさんでござる!」
(そうじゃ…サスケは人を疑う心を知らんのじゃった…。)
自分が生み出したカラクリながら、騙されやすすぎて不安になる物知りじいさんであった。
**********
次の日、サスケは物知りじいさんが拵えた『からくりカメラ』を持って町に出た。
昨日の騒動のあと、サスケはじいさんにカメラを貸してほしいとお願いしたのだった。
『拙者にも夢に出てほしいお方が…その…いるのでござる…。だからカメラを貸していただきたい!じいさんッ!』
それを聞いたじいさんはなんじゃと!?とまた騒ぎ立て、どこの娘じゃ?名は何と?サスケばかりズルいわい!と喚きたて、サスケはどうどう…なんとか落ち着かせた。
『まぁサスケも年頃であろう…明日は赤飯を用意して待っておるからの』
じいさんはそう言い残して、昨夜は寝てしまった。
「赤飯のくだりの意味がわからなかったでござるが…それはともかく昨日のじいさんの話が本当なら拙者の夢に…!」
いろはどのが…拙者の夢に…!
気になっている相手の顔を想像しただけでサスケの頬がボッと赤くなる。
それだけのことで"しょーと"してしまわないようにサスケは顔をブンブン左右に振り気を取り直した。
いろはは山奥にある物知りじいさんの屋敷から町へ出た"パーツしょっぷ"で働いている娘で、
物知りじいさんからのおつかいでネジやボルトを買いに行ったときに仲良く話すようになったサスケの想い人だ。
いろはと話すようになってからのサスケは、また会いたい、顔がみたい、彼女の話が聞きたい、と思うようになり、頻繁に
『なにか買ってくるものはないでござるか!?』とせがむようになった。
とは言っても毎日部品のおつかいがあるわけもなく…。部品以外のおつかいのときはわざわざ遠回りをしてでもいろはのお店の前を通り、いろはの姿をチラ見してはバレないうちにダッシュで帰る日々をサスケは過ごしてした。
「いろはどのに毎日あいたいでござるが、それは叶わぬ願い…。
しかし夢で会えたとしたら…たくさん話せて一緒に散歩にもいけて、それから…」
サスケの妄想の中ではいろんなことが繰り広げられ、いろはと手を繋いだり追いかけっこしたり、終いにはキスまで…
「って、ワーーーー!!?
拙者は何を考えているのでござるか!?こんな破廉恥な!これではじいさんと一緒でござる!」
めいいっぱい繰り広げられた妄想にサスケはまたブンブン!と顔を左右に振って気を取り直す。
「平常心平常心……」
真っ赤になった頬に自分の手でバンバンとビンタをおみまいして、いろはのお店へと向かった。
*
・
*
・
*
・
・
・
お店の前についたサスケは、途中のおまんじゅう屋さんで買った手土産を持ってお店の中を覗く。
中にお客さんはおらず、いろはが大量の伝票と睨めっこしていた。
「(…いた!)」
恐る恐る覗き込んだつもりのサスケだったが、青い髪のちょんまげの存在感のおかげでいろはにすぐ見つかってしまった。
「…あ!サスケくんだ!」
「わわっ!こっ、こんにちは」
「こんにちは」
いろははにっこり笑ってサスケのすぐ前にしゃがみこむ。
お互いの顔の近さにサスケはたじたじになって、なかなか視線を合わせられない。
しっかりせねば…!と決意し、とりあえず手土産のお饅頭をいろはに手渡した。
「これっ、よければ食べてくだされ!
いろはどのの口に合うといいのでござるが…」
「はっ…!これってもしかして…」
「?」
サスケからもらった手土産の袋の中を覗きこんだいろはは瞳をキラキラ輝かせる。
「これ…!すいーつしょっぷ"幸"の新作・てぃらみすまんじゅうだ!ずっと食べたかったの!サスケくんありがとう!」
感動のあまりいろははサスケの手をガシッと握った。
想像を超えたいろはの喜び方に、サスケは顔を真っ赤にしてわなわなしてしまう。
「(あわわわわ……なるたる幸せ…)」
ずっと握っていたいと思っていたが案外すんなりと手を離されてサスケはふと我に返る。
仕事中だったいろはは、後でいいや!と作業を中断して、さっそくお饅頭をお皿に盛り付けていく。
「サスケくん一緒に食べよう?お茶用意するからそこに座っててね」
「! かたじけないでござる!」
言われた通りにお店の中にある長椅子に座って、先程のいろはの喜びようを思い出しては顔がほころぶサスケ。
そんなサスケに気付かずにいろはは熱いお茶を用意していると、あっ…と何かを思い出した。
「そういえば、このあいだサスケくんみかけたよ」
「えっ?」
「うちのお店の前すっごい速さで駆け抜けて行っちゃったから、声かけれなかったけど…」
それを聞いて一時停止するサスケ。
「(どえー!!いろはどのをチラ見していた日のことでござる!まさか見られていただなんて…)」
さっきまでほころんでいたサスケの顔がサーっと青ざめ、途端に自己嫌悪に陥っていく。
けれどいろははサスケがチラ見していたことは気づいていないようで…
「あのとき声かけられなかったから…
久しぶりにサスケくんに会えて嬉しいなぁ」
えへへ、と付け加えて、いろははそう言った。
その言葉にサスケはまたも顔をボッ!と赤くさせた。
今日一日サスケの表情の切り替えが忙しい。
「せ、拙者こそ!ずっといろはどのに会いたかったでござる!」
勢いに任せて言ったサスケの言葉にいろはも頬を赤らめたが、サスケは一言一言伝えることに必死すぎて気付いていないようだった。
「(嬉しい…。サスケくん本当にかっこよくて大好きだけど、そんなつもりで言ってないよね…。自惚れないようにしないと…)」
お互い両思いだというのにお互いが鈍感な似たもの同士なので、なかなか前に進まないふたりなのであった。
そうこうしているうちにお茶の用意が出来て、いろははサスケの隣に座った。
サスケの買ってきた"てぃらみすまんじゅう"を食べながら、昨日あった話や、お互いの家族のこと、散歩中にみた花や猫のことなどたわいも無い話をしていった。
楽しく話をしているうちにサスケは本来の目的をすっかり忘れている。
ふたりともお饅頭を食べ終わり、
ズズズ…とお茶をすすったあと、いろははそういえば…と口にした。
「今日はおつかいで来てくれたの?」
「……………」
「(忘れてたでござる…)」
自分が情けない…。
そもそも、写真を撮らせもらえるような話の切り口を考えていなかったサスケは、またも自己嫌悪に陥った。
せっかく楽しく話していたのに、いきなり
『いろはどのの写真を撮らせていただきたい』だなんて…あまりにも変態発言なのでは…?
うぬぬ……。とサスケは難しい顔で終わらない考え事をしている。
そんな様子のサスケにはてなを浮かべながらいろはが口を開いた。
「今日会ったときから思ってたんだけど、それってもしかしてカメラっていうやつ?」
「へっ?そ、そうでござるが…。(マズイでござる!拙者が変態からくり忍者だと…!)」
いろはの言葉にサスケの被害妄想がどんどん膨らんでいく。
『やだ…サスケくん…そんな人だと思わなかった…!もう会いたくない!』
ガーーーーーーン!!
も、もうダメでござる…。
サスケの脳内でははやくも終焉を迎えていた。
が、いろははそんなことを考えもせず、手土産をもらったときと同じように瞳をキラキラさせて言った。
「私カメラ見たのはじめてなの!
すごいねぇ!一緒に撮りたい!」
「いっ?!一緒にでござるか?!」
「うん!駄目?」
サスケはまたも、想像の斜め上を行く嬉しい展開に思考回路がおいつかないでいた。
しかもいろはから目を見つめられて、駄目?なんて聞かれてしまって、体内の回路がいつも以上にはやく動作してしまう。
「駄目じゃないでござる!いろはどのと一緒に撮りたいでござる!」
「ほんと?うれしい!
じゃあ、もっと近寄ってもいい?
フレームに写りきらないもんね?」
「はっ?!は、はいぃぃ!!!」
じいさん、拙者、この上ない幸せを今噛み締めているでござる。
だって、今、いろはどののほっぺたと拙者のほっぺたがくっつくくらいの距離にいて…一緒に写真を撮っているのでござる…
「自分たちで撮るのって難しいね〜
見てみてサスケくん!これ半分しか写ってないよ〜、あははっ」
撮ってすぐにジーーーッと音を立てて写真がプリントされる、あまり写りの良くないからくりカメラの写真を眺めていろはは楽しそうに笑っている。
ふたりの顔が写りきらなくて、失敗続きの写真を何十枚も撮ってしまっていたが、いろはもサスケもそれで満足だった。
「(サスケくんとこんなに近付いちゃって…はぁ…本当に最高、生きててよかったぁ〜…)」
「(もうこの世に悔いはないでござる…)」
プリントされた写真に写るサスケの顔は、仏様のように穏やかで今にも天に召してしまいそうな表情であった。
*********
カラスが鳴く頃、
いろはとの大量の写真を懐いっぱいに詰め込んだサスケは屋敷に帰ってきた。
門を開き、屋敷の戸を開けると、玄関には3人分の草履が置かれてあった。
「誰でござろう?……ただいまでござる!」
広い屋敷に響くように大きな声でサスケは言うと、奥の部屋からドタドタドタドタ!と複数人が走ってくる音が聞こえてくる。
「サスケーーーっ!!」
「サスケさんおかえりなさい!」
「ずっと待ってたんやでぇ〜!」
「わわっ!ゴエモンどの、ヤエどの、エビス丸どの!!どうしてここに…?」
サスケの疑問に答えずゴエモンたちはニヤニヤしながらそろってサスケを奥の部屋へと誘導する。
「?、???」
「まぁまぁ、細かいことは後で後で〜、はよ行きまひょ!」
よくわからないまま居間へとつれていかれると、大きなちゃぶ台一面に豪勢な"でぃなー"が用意されており
大量の赤飯が入った器を持った物知りじいさんが台所からやってきた。
「おぉ〜!サスケよ、戻ったか
ほれほれ早ぅ席につくのじゃ、今夜は赤飯ぱーてぃじゃぞ!!」
「「「いえーい!!」」」
「せ、赤飯ぱーてぃとは…?わからないことだらけでござる…。
どうしてゴエモンどのたちがここに?何故赤飯で何故ぱーてぃなのでござるか??」
「何故って決まっておろう!サスケに初めて好きな人が出来たお祝いぱーてぃ!
めでたい日といえば赤飯!そういうことじゃ!」
「な、なるほど…。(どういうことでござる?)」
「はりきりすぎて料理を作りすぎてしまっての、ゴエモンたちにも来てもらったのじゃ」
「はぁ…。」
よくわからない説明を受けたサスケだったが、納得しておかないと話が進まないと諦めてよくわからないまま席についた。
サスケに続きゴエモンたちもそれぞれの席についたとき、ゴエモンが笑いながら口を開く。
「いや〜、じいさんが
『今日は赤飯なんじゃ!早う来るのじゃ!』っつ〜から、てっきりおいら、サスケに月のものがきたのかと思って早とちりしたぜい!」
その瞬間隣の席にいたエビス丸がどこから取り出したのかわからないハリセンでゴエモンの顔を叩いた。
スパァンッッ!!!
「ブッ!!!!」
「ゴエはんいらんこと言わんといて!」
「す、すまねぇ…今の発言は確かにまずかったよな…。だ、だからっておめぇ…本気でやらなくたって……」
「…?
月のものとはなんのことでござる?」
「まっ、まぁいいじゃない!!早く食べましょサスケさん!」
冷や汗を書きながらヤエちゃんがフォローしてくれたことにより、月のものの説明を回避して、赤飯ぱーてぃが夜通し行われた。
このぱーてぃに集まったみんなのお目当ては無論赤飯ではなく、サスケが持ち帰ってきた写真と、写真に写っている女の子、いろはである。
数々の日本の危機を救ってきた大事な仲間の、初めての好きな人がどんな人なのか気になってしまうゴエモン一行なのであった。
おしまい
【一覧へ】