朝、六時


サスケの一日は"ラジオ体操"から始まる。








…〜〜〜〜♪

〜〜〜〜♪♪

腕を大きく上にあげて〜のびのびと背伸びの運動から〜♪

はいっ♪

いち、にい、さんっ、しっ


「ごう、ろっく、しちっ」


手足の運動〜♪


「いっち、にっ、さんっ、しっ!
ごう、ろっく、しちっ、はち!

いっち、にっ、さんっ、しっ!
ごう、ろっく、しちっ」


腕を前へ♪

外回し!内回し!


「ごう、ろっく、しちっ、はちっ!

いっち、にっ、さんっ、しっ!
ごう、ろっく、しちっ、はちっ!」


〜〜〜〜〜〜♪♪

〜〜〜〜♪

〜〜♪



……………










「は〜…
やはり、朝のらじお体操は気持ちがいいでござるな。」

ぐ〜〜っと背伸びをしながら
サスケは、いつものきりりとした顔をほころばせてつぶやいた。

サスケは毎日らじお体操を欠かさない。
朝の六時に、屋敷の誰よりも早く起きて
ラジオ体操をはじめる。

年寄りの物知りじいさんよりも寝覚めがいいのだ。


「それにしても、今日の空は雲ひとつない。
真っ青で、綺麗でござる!

こんな日は洗濯物を干してから、何処かへ散歩に出掛けるのが吉!でござる。」









*******





洗濯物を終えて、散歩に出たサスケ。
太陽はあたたかく風も涼しい天気で、野良猫たちも朝からごろんと道端で眠っている。


「おはよう、猫どの」


サスケは猫の元へしゃがみこみ
喉元をなでてやると、ごろごろ〜っと気持ち良さそうな鳴き声を出した。

その様子を見ていた他の猫も、撫でて欲しそうにサスケの元へとやってきた。
サスケの足に顔をすりすり、こすりつけてくる。


「むむ、撫でて欲しいのでござるか。
よ〜しよしよし、気持ちいいでござるか〜」


サスケに返事をするかのように、にゃ〜っと気持ちの良さそうな声を出す猫。

その猫の甘える声を聞いて他の猫たちもぞろぞろサスケの元へとやってきた。


「わっ!猫どのがこんなにも!」


サスケの足にすりよるたくさんの猫たちを一生懸命撫でつづけるサスケ。
その一生懸命さ故に猫たちはサスケにお腹をみせておねだりしてくる。

そんな猫たちに困りながらもひたすら撫で続けるサスケであった。







*********





「ふうぅ…大変だったでござる…」


なんとか撫で終えて、猫たちに別れを告げたサスケはいつもの散歩道を歩いていた。

すると、いつもの道に小さな黄色が見える。


「タンポポでござる!」


早足でそれにかけより、しゃがみこむサスケ。
あまり花や葉の知識が組み込まれていないサスケが唯一知っているタンポポ。

サスケの想い人のいろはに教えてもらったのがそれだった。


「(いろはどのに渡しにいくでござる!)」


サスケは自分の頭の中にいろはがを浮かばせて摘んでいく。


『わぁ…!サスケ、これ私のために…?』

想像のいろはの表情がみるみるうちに明るくなっていって、サスケの表情もほころんだ。


ブチッ ブチッ

ブチッ ブチッ

ブチッ ブチッ


一心不乱に摘んでいくサスケ。
いろはに喜んでほしいから、その純粋な気持ちの行動だが
何故か次第に想像上のいろはの表情が曇っていく…。


『たくさん摘んだらかわいそう…』



「はっ…!そうでござるな…!」



どこからともなくいろは声が頭によぎり、サスケはひとりで頷いて、
丁度いい本数でまとめ上げ、走り出した。






















「はて…どうしたものか」


いろはの喜ぶ顔が見たくて、彼女の勤め先に走ってきたサスケであったが


「忙しそうでござる」


丁度お昼の時間帯ということもあり、いろはの働く店のおそば屋さんはいつものように大盛況である。

バレないように、入り口から少し顔を覗かせれば、いそいそと仕事をしながら、しかし笑顔を絶やさないいろはの姿が。

そんないろはをみてサスケは少し頬を赤らめるが、彼女の邪魔をしてはいけないと思い、時間を改めて来ようと思った
そのとき…


「そのチョンマゲは…サスケ?」

「わっ!」



自分を呼ぶ声が聞こえてサスケは振り返ると…さっきまで覗き見ていたいろはがにっこり顔でサスケの元にやってきた。


「いろはどの!」


咄嗟に持っている物を後ろへ隠すサスケ。


「やっぱりサスケだった!」

「あわわ…見えていたのでござるか…恥ずかしい…」

「ふふっ、チョンマゲが見えてたよ、
ところでどうしたの?」


いろはと話せたことがうれしくて、思いのままにタンポポを渡そうとするサスケ。
けれども忙しそうな店内を見て、いろはを独占してはいけないと思い…動かそうとした腕を停止させた。

そんなサスケの姿から察したのか
いろははサスケに目線を合わすために膝をついて、にっこり笑いかける。


「…あと10分後に休憩時間があるから、あっちの茶店でサスケとお話ししたいな」

「!」

「だめ?」

「だめなんかじゃないでござる…!」


みるみるうちに表情が明るくなっていくサスケをみて、いろはも自然にもっと笑みがこぼれた。
裏表のない、純粋なサスケにいろははいつも元気をもらっていることをサスケは知らない。










近くの茶店にきた2人はいつもの席に座って、いつものお菓子を注文する。


「サスケ最近ようかんばっかり食べてるね」

「ようかんが最近のまいぶーむなのでござる」


食べるでござるか?と、サスケはいろはの返事を聞く前に一口サイズに切り分けた。

そのお皿をいろはのほうに手渡そうとするが、いつまでたっても受け取ろうとしないいろはにサスケは首をかしげる。


「……いろはどの?」

「……あぁ!ごめんごめん、あーんしてくれるんだと思ってひたすら待ってた」

「どえぇっ!?」

「ははっ、じょーだん」


冗談と言っても恥ずかしいのか、サスケは少し頬を赤らめたままうつむいてしまった。

(からかいすぎたかな…?)

そんなサスケを可愛いと思いつつ、反省をしていろははサスケの頭を撫でようとゆっくり手をあげれば
いろはの手が触れるまえにサスケが眉をキッ!とさせて顔をあげる。


「…あーん でござる」


照れ隠しなのか、怒っているような表情といつもより低い声で
さっき切り分けたようかんをいろはの唇にグイグイ押し付けるサスケ。

まさか本当にやってくれると思わなかったいろははポカーンと口を開けてしまって、その隙に無理矢理ようかんを押し込まれてしまった。


「ふぐっ…!あ、ありがとうサスケ」

「おいしいでござるか…?」

「サスケがあーんしてくれたからいつもより百倍おいしいよ」

「!?なんですと!
今の行為にそのような効果があるのでござるか?」

「う〜ん…サスケもやってみる?」


目をきらきら輝かせてこくこくとうなずくサスケの口にさっき注文した三色だんごを運ぶ。

思ったことを言ったにしても、サスケが同じように思ってくれるかいろはは少し不安になった。


「ふむ…味は変わらないような気が…」

「そ、そうだよね…」

「でも、大好きないろはどのに食べさせてもらったので…なんだかいつもよりもおいしく感じるでござる…」

「ぶっ!!!」
(サスケ…大好きって…!うれしいっ!!)


心の中で叫ぶいろはの声はサスケに届かず…。
いろははにやける口元を隠そうと、下唇をぎゅーっと噛んだ。



「あっ!そうでござる!
拙者はいろはどのにこれを渡しにきたのでござるよ」

「?」



あれから懐にずっとしまいこんでいたタンポポを取り出して、サスケは束をいろはに差し出した。
少しだけしなっているがまだ元気に咲いている。

差し出された物に目を丸くするいろはは予想外のことに驚いて、ゆっくりとサスケに目をあわせる。



「サスケ、私にくれるの?」

「もちろんでござる!……迷惑でなければ…」



少し俯きながら照れくさそうにするサスケ。
そんなサスケを見ていろはは衝動を抑えきれなくなり、タンポポを掴むサスケの手を自分の手で優しく重ね合わせた。


「!!…いろはどの…?」

「サスケ、本当に嬉しい…」


まさかこんなにも喜んでくれると思わなかったサスケはいきなりのことに困惑の気持ちと嬉しい気持ちの半分半分。

けれどもいろははこれまでサスケのそばにいて、どんどん人間らしい回路になる彼のことを心の底から嬉しく思った。









『…物知りお爺さん、サスケには敵を倒す回路しか組み込まれていないの?』

『そうじゃなぁ…カラクリに人間並みの自我を持たせることはさすがのわしにも難しい』

『どうにもならないのかな…
いろんな物を見て、笑ったり泣いたり怒ったり、だれかといっしょにいて幸せに感じたり出来ないなんて、こんなにも悲しいことはないよ』

『ふぅむ……。
多少なりともここにいるカラクリ全てには自分で考える回路を組み込ませているのじゃ。
そこを上手く成長させてやれば、出来んこともない』

『ほんと?』

『だがのぅ、可能性はかなり低いぞ』

『でもそれでも、サスケにはもっと生きる喜びを知ってもらいたい』

『いろは…』

『サスケといつか笑って過ごせるように…』












「いろはどの、いろはどの、」

「…サスケ」

「あの、拙者、恥ずかしいでござる…!」

「……ふふふっ、そうだね、恥ずかしいね」

「…?いろはどの?!どうして泣いて…」

「嬉しくて……」

「??……」


ずっとサスケの手を握っていたいろははタンポポを受け取ってから手を離して涙を拭った。

でもここまでサスケが人間らしくなったことが嬉しく、拭っても拭っても涙が収まらない。

そんないろはを黙って見ていることが出来ず、サスケは小さな腕でいろはを抱きしめた。


「! サスケ…?」

「なぜいろはどのが泣いてるのか…今の拙者にはまだわからないでござる…

でもいろはどのが泣いてると拙者も悲しくなってしまうでござるよ。
どうか笑顔になってくだされ。」

「うん、うんありがと、サスケ」


サスケのまぁるい手がいろはの涙を拭って、いろはに笑顔が戻る。


「あのね、嬉しすぎて泣いちゃった
悲しいわけじゃないんだよ、サスケが私にこんなことまでしてくれて…すごく幸せで、ついつい泣いちゃった」

「そうだったのでござるか!ふむふむ…感動しすぎると涙が出ると…記憶したでござる!」

「それとね、好きな人とこんなに近い距離にいるとね、…恥ずかしい」

「む?……どわわーーーッ!!!!」


サスケはショート寸前のように顔を真っ赤にさせて、いろはの腰から急いで手を離した。


「は、恥ずかしい、これまでで一番の恥ずかしさでござる、、記憶しておくでござる、」


ガチガチに固まったサスケをみて、いろはも頬を赤く染めながら優しく笑った。









∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

いろはちゃんは物知り爺さんの弟子的なかんじ(?)で働きながらいろいろ教えてもらってるみたいなかんじで(?)
爺さんがサスケを作った時もいっしょにいてて、ずっとサスケといるからサスケのことがだいすきで、
もっとサスケに生きる喜びをしってほしいとおもったからなんやかんやしてるっていうお話でした。

1年前くらいに書いて、ずっと下書きに保存したまんまだったから全部書いてみました。
めっちゃ長かった…



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