昔から男の子と一緒に遊んでいたから、それなりに身体は丈夫だと思っていたし、
チャンバラごっこなんかをしていたときは近所のワルっ子をやっつけたりして…よくお母さんに怒られていたっけ。

だから、自分の身に何かが起きたとしても、自分で対処出来ると思っていたのに、。



手に持っていた提灯の灯りは運悪く消えてしまい、薄暗い林の中
気味の悪い青の炎が私を取り囲む。



「(これが本に書いてあった人魂…?)」


悠長にそんなこと考えてる場合じゃない
他の物の怪が私に気付いてしまう前にはやくここから逃げ出さないと…!



家出なんてするんじゃなかった。

こんなところで物の怪たちに襲われるくらいなら、望まないことでも受け入れてしまっていれば…。








*******




走るたびに草むらが揺れる。
どこまで走ってきたのかわからない、けれど物の怪はなんとかまけたみたい。

はぁ、と息をきらして地べたに座ればはだけた着物から自分の汚れた足が見える。

もうこの足で、どれだけ走ってきたんだろう

ここがどこかもわからない。

私はこれからどこに行けばいいの

あぁ…お母さん、お父さん、ごめんなさい。
馬鹿な娘でごめんなさい。

……

…ゴエモン…ごめんね。




「おいコラいろはッ!!」

「ッ!?」


ビクッ

自分の呼ぶ声が頭上から聞こえて
いきなりのことにサーッと血の気がひいた。


私の後ろにある木の上から たんっと飛び降りる音が聞こえて、すぐに目の前は赤になった。


「何してんだおめぇは!!」

「……、」

「おいらやいろはのおやっさんがどれだけ心配したか…!」



ゴエモンの言葉が胸にぐさぐさと突き刺さる。
何も言い返す言葉なんて、ない。
自分でもわかっていた、馬鹿なことをしているってことは…。



「っもういい…帰るぞ」


立てるかい、

そう言って私に差し出してくれたゴエモンの手を、どうやったって握れない。


やっぱり私は、受け入れられない。

ごめんなさい……帰れないよ。


「ごめんなさい…」
















「…おいらだって嫌に決まってんだろ」

「……ゴエ、」

「自分の女取られんのを!!
どんな顔して見とけってんだよ!!!」

「っ!!」













『いよいよ明日ね、いろは』

『母さんの教えを忘れないようにな』

『…うん、ありがとう、お母さん、お父さん』








『なんでい、めかしこんで。いろはらしくねぇな』

『ほんとに、私らしくないよね』

『そんなことあらへん!よぉ似合ぅてますわいろははん!綺麗やわぁ』

『そうかなぁ…ありがとう』












『…なぁ、いろは


幸せになれよ』













「おめぇのことはおいらが一番知ってんだ!他の男なんかに渡してたまるかよ…!」

「けどおめぇは容易く受け入れちまって、おいらの気持ちもしらねぇで、」

「おいらん中ではけじめつけたっつぅのに!おめぇが…逃げるから….
おいらもこの気持ち隠せねぇよ…」

「いろは好きだ、帰したくなんかねぇ、あいつになんかおめぇを渡さねぇから!!」


痛いくらい抱きしめられればゴエモンの感情がちくりちくりと伝わって溢れる涙が抑えれなかった。

私だってそうだ、ゴエモンの傍にいたい。
でも見合いをしたことも婚約をすることももう決まってしまったことだった。


逆らうことなんて…出来なかった。

でも、このまま好きでもない人と一生いるくらいなら…。


「ゴエモン…好き、ぅ……ずっと一緒に、いたい……っ」

「……遅ぇんだよいろはは…」



涙が止まらない私の目尻に口付けするゴエモンも、青い瞳が潤んでいる。

こんなに愛しい彼から離れたくない、

ふたりでどこか遠くへ行ってしまいたい。


「もうぜってぇ…おいらから離れんな」

「ん…!」


いつの間にかはだけた自分の鎖骨にゴエモンはきつく吸い付いて赤い痕を作った。

鎖骨、首元、胸元、、私を自分のモノにするようなしるしを。


「は…もう何処にもいけないようにたくさんつけて欲しい…」

「っ…おめぇ…知らねぇからな…」



お互いの存在を確かめ合うように抱き合って、泣きながら夜があけていく。




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