※捏造・未来ネタ









 好きじゃない。俺はアイツを好きなんかじゃあない。これは愛じゃない。俺はいつもアイツに迷惑ばかり掛けられていて、彼女のために自ら何かしようと思ったことはなかった。俺はいつもアイツに救われてばかりいて、ただ彼女のことを想うだけだった。見ているだけ。自分の中で感情を募らせていくだけ。本命を聞かれた時、もしかしたらもしかして彼女も自分のことを想っていてくれているんじゃないだろうかと勘違いも甚だしい期待を抱いたりはしたけれど、自分から気持ちを伝えようとは思わなかった。
 彼女のために何かしたかった。それでも俺は何も気付けず、最後まで見ていることしかできなかった出来損ないだ。
 憧れや羨望に限りなく近い。それは愛とは程遠い。胸を張って、彼女が好きだと言う権利は俺にはない。

「こんな気持ちになったのは、初めてだったんだ。詩歌と初めて会ったとき、一目見たときから守りたいと思った。うつむきがちに、控え目にしか笑わない姿を見て、オレが心の底から笑わせてあげたいと思ったんだよ。自分でもすげー恥ずかしいこと言ってるのはわかってるけど、オレ、詩歌のことが好きなんだ。本気で、これ以上、ないくらいに」

 握った少女の手は、三年前から何も変わらない。小柄な身体に見合ったその小ささも、武道を習っているとは思えない柔らかさも、じんわりと染み込んでくるような温かさも、あの頃から何一つとして――
 中学生から高校生になり、体つきも変化した自分とは違う。
 彼女の時間だけが止まったまま、三年の月日が流れてしまった。
 懐かしい温もりが、様々な感情が胸の奥を突き動かす。何もかもが変わらずにはいられなかった自分自身に、ほんの少しだけ嫌気が差した。
 けれど、変われたことが嬉しいと思う。

「……何で、それを私に言ったの?」
「何でだろうな。なんとなく、言わなきゃいけない気がしたんだ」

 人と関わろうとせず、なのに愛されたいと我儘に駄々をこねていた自分。それに気付かせてくれたのは、この少女だ。見失いかけていた何かを思い出させてくれたのは、この少女だ。
 俺でも、温もりを求めていいのだと教えてくれたのは、この少女だから――

「亜梨子」
「大助?」

 自然と、笑みが浮かんだ。
 そんな大助を怪訝に思ったのか、少女が首を傾げる。

「詩歌との待ち合わせ、そろそろでしょう。早く行ってあげなさいよ」
「お前こそ、アイツと待ち合わせしてるんだろ」
「ええ」

 ……亜梨子へのこの想いは、一生言葉にすることはないだろう。
 伝えることもなければ、伝わることもない。
 生まれて初めて、人を愛せた。俺を必要としてくれる、居場所を見つけた。夢を、叶えることができた。
 それでも俺は、どれだけの時が過ぎようとも、あの事件を忘れることはないだろう。
 たった一つ、小さな白いベッドから始まった、銀色に輝いた日々を。
 別々の道を歩む。別の誰かを好きになる。
 別の居場所を、見つけたとしても。
 変わらず、輝き続ける。

 離した手のひらの中、残った温もりを未練がましく握り締めた。
 立ち上がり、またなと手を振り、背を向け、別れ、空を見上げる。今にも雪が降り出しそうだ。ホワイトクリスマスになるかもしれない。
 控え目に笑う少女のことを思い出し、なったらいいな、と大助もまた顔を弛ませた。
 オレは待ち合わせ場所へと急ぐ。






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