僕一人がぎりぎり入れる隠し扉に押し込められた日。
視覚がきかない暗闇の中、外から聞こえる銃声と立ち込める血の匂い。あの日から暗闇や閉ざされた場所に異常な恐怖を抱くようになった。
夜でも電気は付けっぱなし。座ったまま本を開いた姿勢で、いつの間にか眠っているのが通常の睡眠状態となっている。ベッドはあっても無くても一緒だ。






ライカの部屋の電気が消えた。僕の使っている部屋から明かりが差し込むため、暗闇にはなっていないだろう。
「ごめんライカ、眩しくて」
隣の部屋へと声をかける。
「やっぱり、カーテン付けようか」
同室になった日も言った言葉をもう一度繰り返す。
「いや、いい。寝ようと思えば眠くなくても寝れるからな。明かりが入ってくるくらい問題ない」
「そう? ……君がそう言うならいいんだけど」
ライカからもやはり同じ答えが返ってきた。僕が暗所恐怖症と閉所恐怖症を持っている事をわかっているから、夜でも明かりがついていることに対し何も言わないでいてくれている。
申し訳ないなと思うけれど、暗所や閉所への恐怖心がなくなる訳では無い。



ブツンッ

突如襲った暗闇に心臓が跳ねた。
「ひ、な、何……っ」
「ジェフティ。多分雷の影響での停電だ。……大丈夫か?」
「だ…だいじょうぶ、………っ」
ハア、と自分の荒くなった息が聞こえた。手を闇雲に動かし、置いてあるペンギンのぬいぐるみを抱きかかえる。それまで持っていた本もぬいぐるみと一緒に腕に抱いた。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
叫びそうになる声と震えそうになる体を必死に押し殺す。




「お前いつもそんな格好で寝てんのか? ちゃんとベッドで寝ねえと疲れが取れねえだろ」
僕の神経症を知らないラーにどんな適当な理由を言おうかと考えあぐねた。できればこいつには知られたくない。
「自分のベッドが嫌なら俺の部屋で寝ろ。俺様のベッドはふかふかで気持ちいいぞ」
「ちょっ――おい!」
腕を掴まれ無理やりにラーのベッドへと連れて行かされた。抵抗する暇も無く電気が消える。
「っ電気! 電気、つけ」
て。と言い切る前で暗闇の中にいる時特有の恐怖心が無いことに気づく。
「ほら、寝んぞ」
温かい。暗闇は今でも怖いのに、何で今は平気なんだろう。ラーの部屋だから、だろうか。
(ベッドで寝るの、いつ以来だろう)
こんなに気持ち良く瞼が重くなったのは本当に久しぶりだ。








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