自分のものだと主張する赤い跡を首筋に残し、顔を離す。
今付けた跡を“所有の証”だと告げたらきっと嫌そうな顔で低い声を出すんだろうな。
それよりいつもシャツを開けているから、ライカ辺りに見られ、僕が付けたとバレる方が怖い。
まあラーの事だ、また女性とでもと思われるのがオチだろうが。

「跡、あんま付けんなよ」
「今位いいだろう」
いや、まあ。とラーが何とも言えない表情と返事をした。
恋人関係(一応そう呼んでいいのだろう)になったから、ラーとしても縛り付けようとする僕を拒む事も、あまりできないのだろう。
「僕は、好きだよ」
ラーが、と付け加える事は照れくさくてそのまま続けた。「だから貴方には何をされるのも構わない、し、ただ僕を置いて離れて行かないなら。それだけで」
「ああ、わかってる」

絶対に離れないよとその証が欲しいだけで、僕が貴方を所有したら離れられないでしょう。






首筋に所有の証のキスをする






約束は破らないと常々言うが、僕としては反論する気満々だ。
あの時一度破ったじゃないか!そう言ったのはラーが約束を破った理由を知る少し前だったと思う。
悲しみ以上に裏切られたと激怒し、それでもまだ好きだと思う混乱した頭で一言そう叫んだ。
エジプトのデモンズイコン帰還後、約束を破った理由を知ってからも、ラーと約束する度あの時の事がフラッシュバックする。
今度こそ本当に、僕を置いて消えてしまうんじゃないか、と。

「約束する」
「破らないでよ」

何回も受け答えし慣れ親しんだ二文字の筈なのに、まだ不安に駆られる胸を押さえつけた。
苦しくなった喉から息を吐く。
「約束、だからね」
「ああ、約束だ」
手を取られ甲に唇を当てられた。
子供騙しみたいな約束の誓いの儀式に、騙されてやらない事も無い。






手の甲に約束のキスをする





「今までありがとう」
最後の別れみたいにラーの頬にキスをした。
「別に、これからだって一緒にいんだろ」
「一緒にいても全てが違うよ。接し方も雰囲気も。壁ができる」
ラーがマスターになった後、二人きりの時ですらこうしていられる保証は無い。むしろ二度と今の様な接し方は出来ない最悪な保証付きだ。
「ラー、お願い。一度だけ名前を呼んで。それから苦しい位抱き締めて。頬にでいいから、キスをして」
同じ気持ちを抱いていられる今の内に。
息も出来ない位にお互いが愛しいと思える今の内に。
ずっと名前を呼んでいてほしい。
ずっと抱き締めていてほしい。
何度も、何度も何度もキスしてほしい。
それでも割り切らなければいけないこの気持ちに、最後の幸福を与えてほしい。
きちんとさよならできるように。
「……ジェフティ」
ラーの優しい声にぎゅうと胸が苦しくなる。
とても大切で愛しいものを呼ぶように、まるで夢のようにラーが僕の名前を口にした。
抱き締めてくれたラーの広い背中に腕を回す。
キツくて痛くて息苦しくて、暑苦しくなる程のこの体温が愛しくてラーの胸に顔をすり寄せた。
体を強く抱き締められたまま顔を持ち上げられ顔を上げると、頬にキスをされ、口に何度も触れるだけのキスをされる。
昔から戸惑う度に惹かれた。おかしい位に。
「頬にでいいなんて言うなよ」
もう一度、強く抱き締められた。
「――今まで、ありがとう」
溢れそうな言葉と涙を抑え込んでさよならを口にする。
二度とこの体温を感じる事は出来ないのだ。





頬にありがとうのキスをする




足先に忠誠を誓うキスをした。
今までの関係が崩れ去る、沸かなかった実感がその瞬間に沸いた。
ああ、この人は身分が違うのだ、そう思い知らされて。
その場で泣くなんて馬鹿な真似はしなかったけれど、まだ割り切る事もできない位には子供で、足に添えた手の爪を立てた。
僕達以外には知られる事無かった行為。
ラーは周りに気付かれないよう僕に悲しそうに笑いかけた。





足先に忠誠を誓うキスをする






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