魔物に付けられた腕の傷を、師匠と呼べる人物が手当てする。
魔物に傷を負わされた場合、適切な処置が必要だ。
処置の仕方は知っていたものの、傷は腕。
微妙に不器用だった自分はうまく手当てできそうもなく、同行していたヴァンに手当てしてもらったと言う訳だ。
「ほれ、終わりだ」
包帯をキツく巻かれ、その腕を思い切り引かれた。
「痛い」
「こんな程度で済んで良かったと思え。文句があるなら、もっと痛くすんぞ」
文句を投げ掛けた自分に対し、ヴァンは謝る様子も無く「痛くする」と言う言葉通り腕を持て遊ぶ。
「嫌がら無いとは、つまんねぇな」
「痛いの、好きなんだ」
悪戯程度の気持ちでヴァンが腕に刺激を与える度、眉をしかめる位の痛みが走る。
痛いのは、嫌いだ。
ただ何と無く、ヴァンから何かを与えられる行為がもう少し続いてほしかっただけ。
「マゾなのか、お前」
面白い物を見る様に、ヴァンが覗き込んできた。
特にそんな訳では無いが(痛いのは嫌いなんだから当たり前だ)本音を言うのも面倒で頷く。
まだ幼い餓鬼なのにな。マゾの意味知ってんのか?痛そうな顔してんのに気持ちいいのか。
愉しそうに笑いながら喋り掛けて来るヴァンに全部適当に返答し、試す様に太股に爪をたててきたヴァンからの痛みに意識を向ける。
これ以上爪をたてられたら、太股を裂かれるんじゃないかと思う位痛くて嫌だった。
「そういう貴方はエスみたい」
「そうかもな」
ヴァンの手を剥ぎ取り、自分の顔の側へと腕を引いた。
「首絞めるのも気持ちいいのか?」
「さあ。された事無いし」
手が首にかかる。
抵抗する気も無い。
既に自分が何をしていたのかよくわからなくなってヴァンを見上げると、昔愛しく思っていた人間が重なった。
性格は違うと思うのに、どこか似てる。
「…痛いって言うか、苦しいかな。これは」首を絞められ、遠くなった様に聞こえる自分の声。
鼻がツンとし、泣きたくも無いのに目に滴が浮かぶ。
「……ハ、」
息苦しい。
ほんとうは、痛くされるのなんて好きじゃなかった。
少しだけ、今僕の首を絞めてるこの男から何かを与えてほしいと。
また、ヴァンの顔にもう一人の顔が被る。

もう誰が愛しいのかさえ、わからない自分はどうかしているだろうか。
緩められた手と息苦しさがなくなった喉が、少しだけ残念だった。






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