空を飛ぶ船に乗船して、大分たつ。
賑やかな毎日。
今までディーネといるだけだった日々は無くなり、穏やかとは言い難いが楽しい日々。
ここに、ディーネも一緒ならば言う事は無いのだけれど。
空を見上げ、風に髪がなびいた。
甲板は最近のお気に入り。
高い所は怖いけれど、見晴らしがすごく良い。それとほんの少しだけ下心があるのだ。
「テレーゼ、何してるんだ?」
「カイトさん」
くるくると元気良く動きながら駆けてきたのは、私がこの船に乗船するきっかけになった人。甲板にいると必ず、会える。
「ここから見る景色は、とてもいいですから」
「ああ…確かに。知ってるか?夕焼けもすごい綺麗なんだ。あんなに綺麗な夕焼け、俺見た事無くてさ」
これだけ綺麗な青空、カイトさんの言う通り、夕焼けはとても綺麗なんだろう。
見てみたいです、と答え、その隣にカイトさんとディーネがいる事を願う。
三人で見たら、一人で見るよりきっとずっと綺麗な筈だ。
「空を飛ぶ船だなんて、なんだか夢の国に来た気分です」
「夢の国かぁ…そういう童話あったよな。夢の国を信じてる子供だけが、夢の国にいけるって言う。歳をとらない夢の国でさ」
言葉を聞くにつれ、前ディーネに読み聞かせてあげたひとつの童話が頭に浮かぶ。
あれは確か、
「ピーターパン…でしたっけ?」
それそれ、と名前が思い出せなくて気持ち悪かったらしいカイトさんが声を上げた。
ピーターパン。
カイトさんの言った通り、夢の国に子供が連れて行って貰える話しだったと思う。
読んだのは昔の事だから、あまり記憶が無い。
「ならカイトさんは、ピーターパンなんですね」
「?」
何を言っているのかわかっていない顔だ。
悪戯するようにくすくす笑う。
「だってカイトさんは、私を夢の国に連れ出してくださいましたもの」
夢の国に連れて行ってくれるのがピーターパンならば、この夢の国に連れて来てくれたカイトさんもまた、私にとってのピーターパン。

仲間がいて、家族のような方達がいて、……カイトさんがいる。
空を飛ぶ船での、夢の国。

「俺、なんかすごいものになっちゃったなあ」
「はじめまして、ピーターパンさん」
困った顔をするカイトさんに、追い打ちをかけるように微笑みかけた。
今カイトさんの隣にいれる事が、本当に本当に夢のようなのだ。
「よろしければ…夢の国に、このままいさせて下さい」
――ああ。そう頷いてくれた笑顔が、心から嬉しい。
今、誰よりもこの男性が愛しかった。
「夕焼け、一緒に見よう」
「はい」
「楽しく遊べる場所もたくさん行こう」
「…はい」
「ずっと箱入りで、外の世界を知らなかった、誰でも無い…テレーゼの為に。俺がまた、夢みたいな場所に連れて行くよ」
なんて、私は今幸福なんだろう。
世界中の子供達のピーターパンを独り占めし、これ以上無い程の幸せを噛みしめている。
「それとさ、ディーネが帰って来たら、ディーネも一緒に。だって、俺達の家族だからな」
「――はい。ディーネは私達の家族ですから」
そう、あの子にも味わわせて貰いたい。
かけがえの無い、私の家族。

…ディーネに、ちゃんと言いたいの。
家族が増えたのって。
私はこのピーターパンさんに、恋をしました…って。








ピーターパンに恋をした





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