懐かしい幼き日、まだ二人が一日中一緒にいた頃。
「ジーク、隠れんぼしましょう」
私がすぐにそう言い、始める事にになるのが日常だった。
お母様がいなくなるあの日まで、毎日毎日、飽きもせずに。
家のお庭でも、近くの公園でも、街と言う早大な広さでもやった。
私はいつもうまく隠れていたつもりで、大人も見付けられなかった場所にいるのに、何故かジークだけは私をすぐに見付けて来た。
「見付けた、ミリアム」
「またジークの勝ちなのね」
差しのべられた手の平を握り返しながら、頬を膨らませるのが常。
一度だけ。
私は高い場所に行きすぎて、一人では戻れなくて誰も見付けてはくれなくて。
どうしよう、戻れなかったら。そう考え、怖くて怖くて泣き出しそうになった時。
「ミリアム」
「ジーク」
「迎えに来たぞ」
いつも少しだけ悔しく思った差し出された手の平は、その時は頼もしく思えた。
「うん」
少しだけ生意気な、でもそれが愛しくてたまらない私の大切な――。



*



ここに一人でいて大丈夫かと、今から大切な戦いに赴くらしいカイトに心配される。
「大丈夫よ。どこにいても、ジークが私を見付けてくれる筈だから」
「すぐに、戻る…」
「ええ、いってらっしゃい」
いつも私を見付けてくれていたのは、ジークだったの。
どんなに隠れても、どんなに私が遠くに行っても、いつの間にか探しあてていてくれる。
また絶対、来てくれる自信がある。
だから、今は不安なんか無い。
ジークがいる限り、不安なんかある訳が無い。
遠くに走り去るカイトを眺め、体がよろめく。
(せめて、見付けてくれるまで)
…持ち堪えなきゃ。
呼吸が苦しくなる体で、地面に座り込む。
「ミリアムっ!!!」
「…ジーク?」
「馬鹿ヤロウ…捜したんだぞ」
「ふふふっ…やっぱり、迎えに来てくれた」
聞こえて来た、声。
微笑み、手を取ろうと…する前に、体が倒れた。
もう体が限界な事は、良くわかっていた。
先ほどからいつ倒れてもおかしくはなかったけれど、せめてこの声を聞くまではと。「ミリアム…守れなくて…ごめん」
「うん」
「最期の時…そばにいられなくて、ごめん」
「うん…」
涙混じりの顔と声。
掴めなかった手を握りしめてきた。
温かい手の平に力を込めたつもりだけれど、あまり力は入らなかったかもしれない。
「もう、無理はするな。休んでもいいから…。今度はちゃんと俺がそばにいてやるから…だから…」
瞼が重い。
感じるのは、幼い頃から感じてきた手の温もりだけ。
「……」
言葉がもう出なかった。
私はまた、あなたとは少し離れた場所に行く事になったのね。
でも、また。
「ミリアム…?」
私とあなたの二人なら、また会えるわよね?
今は少しだけの…お別れ。
「ああ、ゆっくり休んでくれ。姉上…」

ジーク、今から隠れるから、捜してね。
すぐ見付けたらまた私の負けだけど…必ず捜して来るのよね。
ジークが私を見付けるまで。

……待ってるから、見付けてね。








きみとぼくのふたりなら
(また必ず会える、だから少しのお別れをしよう)
┗お題提供:夜風にまたがるニルバーナ






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