「へぇ〜!これが日本のお祭りか〜」
祭り囃しの音、賑わった人々の騒音にかき消されかけながらサラが楽しそうに声を上げた。
提灯や電球で飾り付けられた神社に、その大きな瞳が輝いている。
今日は勉強の合間の息抜きと言う理由で、日本に居た者達は夏祭りに来る事となったのだ。
日本の祭りなど来た事がなかった皆は興味津々で、本当は勉強を続けたかったジェフティやライカも仕方なく折れた。
「あっあれ面白そう!あれ何々!?」
「あれは射的と言って…」
サラが近くにある店を指差す。
すると、日本人のライカがサラの指差した出店の説明を始める。
カイトとライカは唯一の日本人。
その為、カイトより説明のうまいライカは来た時から説明役だ。
「姫!あまり勝手に動き回らないで下さい!」
走りにくい筈の浴衣姿で、ちょこまかと人混みの中をかけていくサラ。
そんなサラを必死にガウェインが追い掛けて行く。
「あ、ライカ君、あれは?」
サラから解放されたライカは、今度はビスタに腕を引かれている。
「型抜きだな。だが、あれは細かい作業だからお前には――」
「ねェねェテレーゼさん!やってみましょうよ!」
型抜きに興味を持ったらしいビスタにライカが制止の声を上げるが、ビスタはそれを聞かず後ろにいたテレーゼに声をかける。
「あ…ハイ!」
喧騒に萎縮しているのかと思ったテレーゼはまったくそんな事は無いらしく、興味を持った顔でビスタの後について行く。
サラと同様、ビスタは浴衣でもいつも通りに歩いて行くのに対し、テレーゼはそうでも無い様だ。
しきりにアップにした髪を気にしながら、動きづらそうに下駄を鳴らし歩いている。

「んじゃ、俺達も行こうぜ」
ジェフティは一人楽しむ様子も無く、不機嫌そうな顔でラーを睨む。
「楽しむ気になんてなれない」
「何言ってんだ、祭りだぞ?」
ラーが笑い周りを見渡す。
飾り付けられた神社、美味しそうな食べ物、楽しそうな出店。
確かにそこだけ見れば、ジェフティだって楽しめたのだろう。
けれど、ジェフティはラーの姿と自分の姿を眺め、更に不機嫌さを露にした。
「…大体、どうして僕がこんな格好をしなくちゃならないんだ!?」
ジェフティの格好は、やはり皆と同じ様に浴衣だ。
それが男モノなら問題は無い。
だが、ジェフティが今纏っているのは女モノの浴衣。
「お前が自分で着たんだろ」
「誤解を招く言い方をするな!ラーとビスタが、あんな事をするからっ!」
あっけらかんと言い放つ、浴衣を着る原因となった人物にジェフティが吠えた。
皆が「どうせなら浴衣を着よう」と言い出し、店で試着していた時。
ジェフティはこれ、と渡された物を男モノだと躊躇いも無く思い、試着室に入った時だった。
服を脱ぎ浴衣が女モノなのだと気付いた時には時既に遅し。
ラーとビスタに服を持っていかれ、女モノの浴衣を着るしかなくなっていた。
「似合ってんだからいいじゃねぇか」
ラーの言う通り、確かに緑地に黄色のひまわり模様の浴衣はジェフティに良く似合っていた。ジェフティを知らない者が見れば、ごく普通の可愛い女の子で通用するだろう。
「動きにくいし、帯が苦しい」
最悪だ。どうして。油断した。
そう呟くジェフティの足取りは重い。
「おい、もたもたしてるとはぐれ――」
体が小さく、浴衣で動きにくくなっているジェフティがはぐれそうになるのは早かった。
人波に押し流されそうになり、ジェフティはラーの姿を探す。
「ジェフティ」
ラーに手を差し出され、ジェフティははぐれる事を恐れて手を取った。
「ごめん」
「いや。早くしねぇと置いてかれんぞ」
「うん」
人波の中、はぐれない様に唯一ラーの手を握ったまま前を向く。
「…………あれ?」
そこにはジェフティとラー以外、サラの姿もライカの姿も見えなくなっていた。

人混みの中、さっきまでいた筈のライカ達はもうすっかり見えなくなっていた。
「はぐれたな」
「どうするんだ」
「仕方ねぇ、回りながら探すぞ」
仕方なさそうに呟いたラーの言葉に、ため息を付く。
…最も、自分が悪いのだが。
ジェフティは未だ慣れない浴衣で、ラーと手を繋ぎながら歩く。
「どれも美味そうだな〜!何か食べたりゲームしたりするか」
「カイト達を探すのが目的。まあ、何かしたい気もするけど」
一つ出店を覗いて見ると、そこは女の子達が付けるアクセサリーを売っている様だ。
浴衣の時に付ける、髪止めなども売っている。
「そこの兄ちゃん、可愛い彼女にどうだい?今なら安くしとくよ〜」
「かっ…」
かけられた言葉を理解した瞬間、ジェフティは即座に否定しようとする。
しかしここで男だと否定しようものなら確実に変態扱い、悪ければ信じてすらもらえないかもしれない。
「…別にいらな、」
「これ一つくれ」
ジェフティが断わろうとしたその時、ラーが花飾りを店主に差し出す。
店主は機嫌良く笑い金を受け取り、花飾りはラーの元に渡ってしまった。
「付けないからな」
「じゃあ俺が付ける」
そっぽを向いたジェフティの頭に、ラーが手際よく花飾りを付ける。
可愛いだろ。
そう笑うと、再びジェフティの手を引き歩き始めた。
「それにしても、彼女ね…」
「妹のが良かったか」
「彼女でいいよ」
女モノなんて確かに嫌だけれど、愛しく想う人にそう言われるのは…悪くは、無い。
「素直じゃねぇな」

そうして人混みをかき分ける内、ジェフティの足取りがおぼつかなくなってくるのがわかった。
うつ向き、見るからに顔色が悪い。
「大丈夫か?人混みに酔ったんなら、休むか」
「だ、大丈夫だから…」
「大丈夫って様子じゃねぇだろ。ほら、歩けるか?」
心配するラーに心配などかけさせまいと意地を張るが、結局ジェフティはラーにもたれる様にしながら神社の裏手へと歩いた。
人がいなければ酔いも覚めるだろう。
そう思っての事だったのだが、誰もいないと思った神社の裏手から声が聞こえた。

「でも…人が来ちゃうってば…っ」

聞き覚えのある声。(この声…カイト?)
それならば、やっと発見できた。
はぐれていた時間は30分程度だろう。
ジェフティは裏手をラーと見てみれば、カイト以外に…アーサーもいる様だ。
カイトの浴衣の中にアーサーの手が入り、肩が軽くはだけている。
「……んっ…」
カイトのくぐもった声。
「うおっ!?ジジジジェフティ!見ちゃ駄目だ!」
ラーがジェフティの目を手で塞ぐ。
塞がれた暗闇の中、ジェフティは今の光景が目に焼き付き離れない。
――今の、って。
アーサーとカイトが、……そういう事を、して…。
「―――な…ッ!?」
酔いなんか、一気に覚めた。
ジェフティが叫びそうになった瞬間、ジェフティの声に重なる様に何か大きな爆発音が頭の後ろで聞こえてくる。
ラーの手がゆるまり、ジェフティもラーも、思わず音がした空を見上げた。




「カイト〜!ジェフティ〜!こんな所に居た〜!」
変に焦るカイトと呆然と
固まるジェフティに、呼びに来たらしいサラが不信気に眉を寄せた。
サラも、他の皆も。
そこにいた全員は、同じ様に空を見上げている。
ひるるるるる…
音がした後、空に形ある赤やオレンジの光りが上がった。
「これが、花火…」
テレーゼがうっとしとした表情で呟く。
その言葉に、これがそうなのかとジェフティは目を見張った。
「本当、空にお花が咲いているみたいですよ〜!」
ビスタの言う通りだ。
ここまで綺麗なものだとは思わなかった。
今までの事、一瞬全て忘れそうになる位に――。
…いや、まあ。カイトとアーサーがあんな所で…って言うのもびっくりしたけど、それは置いておいて。
「すげーなジェフティ!」
「うん…」
ラーも、サングラスの向こうにある目が輝いている。
楽しそうだ。
一瞬、今カイト達の事を考えていたからラーを意識してしまう。
カイトを振り向けば、もう乱れていた浴衣は直され空を見ている。
周りを見渡しても、ジェフティ以外は皆花火に夢中だ。

…今、全員が見ていないのなら。

「ラー、ちょっと」
「ん?」
ラーの浴衣の袖を引っ張り、履き慣れない下駄で精一杯背伸びした。
ぎゅうと目を瞑り、ジェフティはラーに唇を押し当てる。
…多分、うまく口にできたと思う。

こんなに花火が綺麗だから、カイト達があんな事してるから、あてられただけだ。
ただ、それだけ。

花火の音と喧騒が、瞼を閉じた暗闇の中聞こえた。









刹那的花色症






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