「アーサーさんって意外と歌うまかったんだな」
「まぁな。姫が好きでな、よくガウェインとランスロットと連れて行かれたものだ」
「へぇ……」
 皆は用事があるから、と二人でカラオケに来てみたらこんな話しを聞けるなんて。
 アーサーさんが歌がうまいと言うのも少し意外だった。
「あ、次俺な」
 自分で入れた曲のイントロが流れ始め、マイクを持つ。
 歌いつつ画面に流れる映像を見ていると、恋愛系の曲だからだろう。俳優と思われる男女が口付けを交わしており、見慣れない(したこともない)光景に一瞬声が途切れた。
 急いでまた歌い始めたが、アーサーさんがからかうみたいに笑う。
「なんだ、キスを見るのは初めてか?」
「見たことくらいあるよ! した事はないけど……アーサーさんはしたことあるんだろっ」
「そりゃあこの歳ならな」

 ……わかってた、けど。
 あんまり、想像したくない。
 アーサーさんと他の女の人との、キスなんて。

「カイト」
「え? なにっ……」
「――これでお前も経験者だ」
「………はい?」
 何、何、何。
 え、何だ今の、アーサーさんの顔がいつの間にか近付いてて。一瞬だけだったけど、柔らかい感触を唇で感じた。
 ……煙草の匂いがした。
 何をされたかわかった瞬間、自分の顔が耳まで真っ赤になるのを感じる。
「な、なっ何するんですかアーサーさんっ!?」
「してみたいってもの欲しそうな顔してたからな」
「してませんよ!」
 何でこんなことを平気で、真顔で、またからかうみたいに少し笑って、ずるい、ずるいずるい。
 パンクした頭でただのBGMと化していた音楽を聞きながら、この曲はもう二度と歌えはしない――と、どこか冷静にそう思った。







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