誰のものかわからない血を服や手にべっとりと付けた殺人鬼は、「今日の夕飯はどうしようか」と質問するくらいの軽い口調で、目の前にいる女の死に方をその女自身に質問した。
「なあ、お前はどうやって殺されたい?」
 ぼう、とラッドに付着している血を眺めていたルーアは、二回目の質問でやっと口を開く。
「首を絞めて」
 狂った質問にルーアは小さな声で返答した。
 端から見たら何ともおかしな会話だが、ルーアやラッドにしてみればこの会話をしている時が一番の幸せなのだ。
「おーおーそうかそうかそうか。いやな、お前はナイフでぐちゃぐちゃにして欲しいとか言うモンだと思ってたんだが」
「昔ならそう答えたかもしれないけれど……今は、ラッドに殺されるのが夢だから」
 うっとりと目を細める。
 似合わない幸せそうな顔にラッドは気を良くしたのか、スーツに付いた血もそのままにルーアの顔に手を添えた。
 冷たいナイフより、この温かいラッドの手で首を絞められたいと思う。
 今ルーアの頬に添えられている手が首に掛けられ、その手に力が込められていく。その瞬間を想像しただけで、ルーアは今にも達する程の快感を覚えた。
「ベッドに入る前からんな顔すんなよ。まあなあ楽しみだよなあ? 俺も今から楽しみだぜ?」
「うん」
「一気に折るより、少しずつ折った方がいいよなあ」
 コクリと首を縦に振る。
 ミシ、と骨が音を立て、首を圧迫され目から涙が零れ落ちるのだ。幸せで流す涙はその時が最初で最後になるに違いない。指が食い込み血が溢れるだろう。首を折られる前に腹を割かれてもいい、凶器なんて無粋な物は使わず、ラッドの手で。そして最後に、ラッドに愛を囁かれながらゴキリと首の骨が折れる音を聞くのだ。
「ゆっくり、死ぬ瞬間を感じさせて」
「オーケーわかった。ゆっくり、ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりお前を楽しく殺してやる」
 殺人鬼は愛しそうに、いつか手を掛ける首に口付ける。
「真っ白な教会で真っ白なドレスに真っ白なスーツで結婚式だ。愛する女の血でその白を全部全部赤く染めるんだ。愛してるぜ、ルーア」
 真っ白な教会には、きっと赤が映えて綺麗だろう。神聖とすら感じるその光景を思い浮かべ、ルーアは一層その日が楽しみになった。
 「愛してる」とキスされたことよりも、自分をどうやって殺すか考えていてくれたことが、ルーアは嬉しい。幸せだと、感じずにはいられない。
 そんな女は、世界中を探してもルーアただ一人だ。
 愛してるなんてただの前戯。睡眠も、食事も、身体を動かし、生きることさえも、ルーアにとってはただの前戯なのだから。
(……もっと、本能で示して)
 生気のない顔のまま、頬をほんのりと染めて幸せそうに笑った。

 まるで子供が遠足を待ちわびるように、女は自分の首が折れていく音を聞くことを待っているのだ。








「愛してる」なんて、ただの前戯
(もっと本能で示して)
┗お題提供:ことばあそび





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