一つ、星が流れた。それを合図にしたように、大小様々ないくつもの光が空を切る。視界いっぱいに広がる星空に、ここにいる誰もが目を離せずにいた。三年前。今と同じように、汚れるのも気にせず砂浜に寝転り、星を見上げた中学三年の夏。あの瞬間が、今、確かに重なった。瞼の裏に焼き付いたまま決して離れることのなかった瞬きが、溶けていく。一つ、また一つと星が流れるその度に、自分に乗せられていた重石がなくなっていくような感覚。ああ、終わるんだと思った。四年前から続いていたモルフォ蝶に関する事件は、任務は、ようやく終わりを迎えたのだ。早く終わらせたいと思っていたはずの任務。それは、いつしか終わらなくていいかもしれないとさえ思う日常へと変化していた。そして、明確な終わりを示さず中断された任務は、事件に関わった人間全ての心を捕らえたままに、時だけが過ぎていた。それが、終わった。確かに、辿り着いたのだ。決して、一直線に走ってこれた訳ではないけれど。三年もの時間がかかってしまったけれど。あの時夢見た世界とは、ほんの少し違った形ではあるけれど。前を見据えて、一瞬躊躇った足を踏み出すことを誓い、目指そうと決めた場所。そこに、オレは辿り着けた。


 夜明けが近くなり、ようやく星が途切れる。余韻に浸るように寝転がっていた者も身体を起こし始めた。今日集まった半数以上が、二年前までオレが居候という形で寝泊まりしていた屋敷に泊まっていくらしい。かなりの人数だが、あの豪邸ならば、これくらいの人数は余裕で入るのだろう。

「大助はどうするの? 泊まっていく?」

 そう尋ねてきた少女に、首を振る。

「いや、帰るよ。詩歌が待ってる」

 オレの帰る場所は、もう鹿威しの響く屋敷ではない。それがひどく寂しい。
 もう二度と、響いてくる彼女の足音を夢うつつに聞いては、決して快適とは言えない目覚めを得ることはできないのだ。容赦なく蹴られた通学路を歩くことも、無茶を先読みしては放課後に校舎内をかけずり回ることも、手を握りながら夕暮れの街を歩くこともできない。いくつもの思い出が、温かさが、受け取った優しさが、膨れ上がっていった愛しさが、思い出される。
 怪我を負って任務から帰ったオレを、「バカ大助」と言うためだけに玄関で待っていた。言ってほしい時に、言ってほしいことを簡単に口にしてくれた。怯えながら、迷いながら、勇気を振り絞り差し出してきた手を握り返したあの日のことを、覚えている。傷付き、ボロボロの姿でお互いの肩に寄りかかりながら足を踏み出したことを覚えている。
 一日が夢みたいだった。過ごした一年は奇跡のようだった。あんな日々は、二度とこない。二年前、あの場所にいた、巻き込まれた人間だけが知っている。
 少しだけ名残惜しかったのも事実だが、いってらっしゃいと微笑んだ少女に一刻も早くただいまと言ってあげたかった。
 今頃、千晴や茶深とテレビでも見ているかもしれない。三人でもう眠ってしまっているかもしれない。けれど、あの家に帰りたい。少女が待っている、あの場所に帰りたかった。

「またね、大助」
「またな、亜梨子」

 二年前とは全く違う心で、想いを掲げ、少女のいる場所に背を向けた。
 帰ろう。
 自分が見つけた、ただ一つの居場所に。








夢の終わり






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