底抜けにお人好しで、誰にでも手を差し伸べては厄介事に自分から足を突っ込んでいく性格が何より苦手だった。
 おしとやかで女の子らしければまだいいのだが、強気で上から目線でものを言うような我が侭女はもってのほかだ。苦手を突き抜けて嫌いなタイプ。
 それでも女性らしい豊満な体つきをしているのなら、自分も男だ。それは魅力的だと思うし多少は欲情してしまうだろう。だがそれもなく、胸は平坦なままで明らかな幼児体系だったらどこに魅力を感じればいいのかわからない。
 人によって好みはある。中には物好きもいる。なので世間全ての男性が同意見ではないだろうが、少なくとも、オレはそう考えていた。

「……見てるだけで苛々するのに、関わるなんて真っ平ごめんだ」
 見慣れた少女の背中を遠目に見ながら呟くと、隣を歩く少年が呆れたように鼻で笑った。
「その性格、以前お会いした時とお変わりないようで」
 小学生の分際でのうのうと皮肉を口にした少年は、同じように前を歩く少女を見ている。といっても、自分が見ていた少女の隣を歩いている、小学生くらいの少女を――だ。
 髪を二つに結った幼い少女は黒い羽のついたリュックを背負っており、遠目からだと小悪魔のように見える。今皮肉を言った少年の彼女で、以前、公共プールに行った時に俺が捕獲した虫憑きでもある。
「その様子だと、まだあの人と付き合ってないんですか?」
 あの人というのが、オレの悩みの種である(オレの前を歩いている)少女のことだとわかって顔をしかめた。
「なんでそうなるんだ……? 小学生から恋愛脳かよ、うぜーな」
「……やっぱり、まだ我が侭なだけだと思ってるみたいですね」
「我が侭以外に何があるってんだ」
 少年が、彼女である少女のことを「我が侭なだけじゃない」と言っていたことは覚えていたが、その理由はわからないままだ。少年の彼女のことも、任務で監視している少女のことも、大助にはただの我が侭女にしか見えない。
「……放って置けないとか、目が離せないとか、普段と違う様子に何か思ったりしたことはないんですか?」
「俺の任務はアイツの監視だ。放って置ける訳がないし、目を離したら任務にならない」
 少年がまた、呆れたように笑う。
 睨むと、「おお怖い」と肩をすくめた。小学生らしからぬ行動に内心舌打ちする。お前は何もわかってないと言いたげな顔が無性に腹立たしい。
 ……くそ、アイツといい、最近ムカつくことばっかりだ。俺が離れたら何やるかわかったもんじゃねぇし、危ないことに首突っ込むし、予想の斜め上を突っ走って行きやがる。
「すっげーめちゃくちゃなことやられても、それでも関わっちゃうんですよ。最後に笑われたら、もう苛立ってたのもどうでもよくなってまた同じ目に遭うんです」
「マゾなんだろ」
「違います」
 ……わかんねー。
 少年からの問いを思い出す。
 放って置けないとか、目が離せないとか、普段と違う様子に何か思ったり……ね。
 確かにアイツのことは放って置けない。何をしでかすかわからなくて目が離せないし、普段あれだけ元気なのにその時風邪を引いていたオレより顔色を悪くして帰ってきた時には、まあ、少しだけだが心配した。けれどそれは、少年に答えた通りだ。任務だから。アイツの様子が気になってしまうのは、それだけだ。
 それ以上の理由は――ない。
「……苛ついて仕方ないのに、我が侭を聞き続ける理由は何なんだ?」
「その理由は、小学生でも知ってますよ」
 その現役小学生の台詞である。

「惚れた弱味、ってやつです」

 ……あり得ない。
 歩くたび軽やかに跳ねるポニーテールを視界の端に映しながら、オレは鼻で笑ってやった。







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