次は右? 次は左? それとも真っ直ぐ行っちゃうかしら?
 先の展開がわからないというのは面白い。小説の次のページを捲るあの楽しみが、連載漫画の次の週を想像した時のようなあの待ち遠しさが、私のペンを動かさせる。何が起こるのかわからない、何が待っているのかわからない、面白おかしい未来への期待で胸が膨らむ。そういう物語というものは、続きを見ないと満足しない。できることならばどんなラストを迎えるのかまで見ていたいけれど、そこまで言うのは欲張りというものだ。だからせめて、次の展開。右に曲がるのか左に曲がるのか、それとも真っ直ぐ進むのか。たった一瞬の時間だとしても、ほんの少しでもいいから物語の先を見てみたい。
 そう思うのは、読書家でもそうでなくとも変わりはないだろう。
 ドラマだってリアルだって、面白いものをもっと見ていたい。楽しいことをもっと続けていたい。その欲求はきっと人類全てに共通していると私は思う。
 モルフォ蝶。
 花城摩理。
 一之黒亜梨子。
 不規則に飛び回り、人を誘い惑わせる。
 その銀色の輝きに、私も魅せられてしまった。
 続きが気になる、どうなっていくか見ていないと気がすまない、そんな物語に惹かれない訳がない。
 ねぇ、貴方もそうなんでしょう?

「あら、今日はいったい何の御用で」
 これはこれは珍しい来客。ついこの間も“三匹目”と何か特定の虫憑きについて調べに来たと思ったらそう時間もたたない内にまた訪問してくるなんて、今までにない間隔で顔を合わせています。嫌だわ、こんな変態とこんなに短い間隔で顔を合わせていたら変態が私にも移っちゃう〜。
 しかも何なんでしょう、顔を隠すように巻かれているあのタイやテープは。あんなのが街を歩いていたら特環じゃなくても捕まえますよね。
「それに、この間はもうこの街を出ていくと言っていましたのに。貴方にしては随分と長くとどまっていますね?」
「ああ、まあな。面白え奴を見付けた」
「成る程。もうしばらくは貴方の顔を見なくて済むと思っていたのに、残念です。それよりも、その面白い奴とはもしやこの間の美少女達のことでしょうか? にひっ」
 数人いましたが、思い出すのはやはりあの槍使いの少女でしょう。敵である筈の、それも顔を合わせることも初めてである私の言うことすら鵜呑みにするピュアっぷり。確かに、面白い人でした。あれには私も気にいってしまいましたから。
「花城摩理さんはもういいんですか? そんな成りで実は一途、というのが貴方のウリだと思っていたのですが」
「ああー駄目だ駄目だ。花城摩理、あれは期待外れだな」
 心底ガッカリした表情で、ハルキヨが顔を歪ませた。
「それによく言うだろ? 初恋は実らないってな、ありゃ本当だぜ」
「にひっ。意外と乙女思考、悪くないですね。嫌いじゃないですよ。……ちょっと! 本を読むのはいいですが、乱雑に扱わないでよ! ただ本を読みに来たわけでもないんでしょう?」
 本を取って適当にパラパラと捲ってみてはガサツな手つきで本を戻すハルキヨに、手元にあった眼鏡ケースを投げ付ける。後頭部に命中し、ハルキヨがうっと呻いてから丁重な手つきで本を戻した。よろしい。
 まったく……ハルキヨだって本は結構読むのに、どうしてそんなに雑に扱えるのか私には理解できません。
「っとそうだった、今日はテメェを誘いに来たんだよ」
「つまらない誘いでしたら結構ですよ」
 笑い、眼鏡を直す。すると、ここまで来てつまらない話しな訳がないだろうと言いたげにハルキヨが口角を吊り上げた。
「ペルセウス座流星群って知ってるか? その日、大喰いとやり合おうって話しだ。俺と“かっこう”、むしばねのリーダーまで揃えてそんなことぬかしやがった。まったくバカみたいな話しだぜ。アイツが言い出すことは、全部な」
 何を思い出しているのか、ハルキヨが燃えるような瞳を細ませる。その赤い瞳の奥に秘められている期待が、私と初めて会った時とは少しだけ変わってきていると思うのは気のせいなのだろうか?
 この変態にここまで気に入られてしまっては、あの槍使いも苦労する。
「にひっ――強い虫憑きは多ければ多い程いい、と。そういうことですか。ええ、わかりました。いいですよ、もちろんオーケーに決まっています。インドア派の“司書”でも役に立つというというのなら、喜んで行きましょう」
「ハッ、いいのか? そんなに簡単に頷いちまって」
「ハルキヨ、私を何だと思っているんです? “司書”であるこの私が、あんなに面白い物語を見届けない訳がないじゃない」
 小説の次のページを捲るあの楽しみ。連載漫画の次の週を想像した時のような待ち遠しさ。
 そんな面白おかしい物語の続きを見ること――それこそが私のペンを動かす、原動力なのだから。
 歪んだ笑みで笑い返す。
 まるで、クレヨンで描いた挿絵の絵本みたいなお伽噺。剣を持った勇者が、悪の魔王を倒しに行く。そんなファンタジーを現実でやってしまおうとしている、それも虫憑きでもない人間がいるというのに、今更本を閉じてしまえなんて酷な話しだ。
「知っているでしょう。私、物語の続きは知らないと満足しないんです」
 彼女が右に曲がるのか左に曲がるのか、それとも真っ直ぐ進むのか。
 それだけのことでいいから、もう少しだけこの物語を見ていないと気がすみません。
 私も、この物語に魅入ってしまった一人なんですから。







ラスト50ページ






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