自慢ではないが、自分は人より性行為の回数が多い。と、思う。
 虫憑きになるとされているのは、大半が思春期の少年少女達だ。中学生から高校生程の年頃の子供が、突然まともな生活を送れなくなる。それは本人達にとってかなりのストレスだ。
 ストレスを発散する為に戦う者もいれば、虫憑き同士慰め合う者もいる。心で、例えば身体で。そんな“ストレス解消”をする虫憑きは、特環の中では珍しくない。お互い情はなくても、三大欲求であるそれは充分にストレス解消になるというものだ。
 そしてそれは、大助も例外ではない。

「これも特訓のうちだよー」
 背中を合わせて戦える(気を付けていないと、見境がなくなったソイツに後ろからざっくり……なんてこともあったが)、俺の初めての相棒だった少女はそう言った。
 小学校を卒業し終わっていたか中学校に入学していたか、覚えていない。だけどまあそれくらいの時期だ。
「虫憑きは人間とは決して繋がれないのだー。だからこれは特環内部、虫憑きのちょっとした秘密だねー。汚い大人達と同じことをしていると思うと嫌になるけど、結局考えることもやることも、大人も子供もそう変わらないのだよー。何? 初めて? 安心するがいい、ボクも初めてさ。自分より弱い相手となんかする気にはならないからねー。さあ、脱ぐのだ脱ぐのだー。ボク達もこれからは汚い大人の仲間入りだよー」
 お互い初めてなりに快感を貪り合った。うまくいかなくて、たどたどしく身体に触れあって。感じたことのない快楽にお互いすっかりのめり込み、途中からはかなり強引に求め合った。
 終わった頃には疲れただの腰が痛いだの汗が気持ち悪いだの、ムードなんて全くない言い合いが続いた挙句いつの間にか眠ってしまった。終わってしまうと呆気ない。テレビや漫画で見るような特別な思いや感覚はないんだな、と思ったことを覚えている。
 けれど、気持ちが良かった。身体を重ねるということは。
 性欲が満たされるだけではなく、他人と繋がるというそれが大助には心地いい。
 “自分を必要としてくれる居場所が欲しい”。そんな自分の夢を、一時だけ叶えているような錯覚。快楽と肌の熱で誤魔化して、今だけは誰かと繋がっていられると思い込むことができた。
 これはただ欲求不満を満たしているだけだと自分に嘘を吐いて、人の温もりを求めている。初めての少女以外とも、そんな行為が続いた。
 中学2年。ホルス聖城学園で起こった、モルフォ蝶に関する任務についていた時は、誰かと肌を重ねることはあまりなかった気がする。処理の為にもたまにはしていたけれど。それより任務が忙しかった。
 いつもいつも大助を振り回し、大助自身もいつの間にかそのペースに乗せられて、かけずり回っていた記憶しかない。大助がセックスに求める性欲以外の何かが満たされていたのかもしれないと、今なら思う。
 だってその任務が終わった後は、以前以上にする回数が多くなったのだから。一人の少女が大助の側からいなくなってしまった空白を、欠けた穴を、埋めるみたいに。

「猿だよなぁ」
「思春期なんだよ」
「動物園から猿が逃げたしてマス!」
「うるせーぞこのやろう」
 黙れ、とソプラノの声を自らの唇で塞ぐ。微かに漏れる声は普段の乱暴な口調で話している少女と同じとは思えない。流れる金髪を軽く鋤いてやると、気持ち良さそうに蒼い瞳が細められた。
「猿でもいいから、もう一回」
「任務は?」
「今日は休暇」
「オレ様は数時間後には戦闘訓練が――んっ」
 もう一度、唇を塞ぐ。
 何度も、何度も。どれだけの回数肌を重ねたとしても未だ満たされることない渇きを、癒すように。自分を誤魔化す。いつまでたっても届かない夢に、この瞬間だけは手が届いてると思い込んで。慰め合う。お互いに、利用し合う。
 まあいいだろう。それは、相手をしている少女だって同じだ。

「あと数時間もあれば充分」

 この悪魔、と呟かれたのは聞こえないフリで。








虚しさだけが残る






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