※未来ネタ・亜梨子も起きてて虫は消滅した世界








 久しぶりに二人で会うことになった。お互いの都合が合う日にたまに会ったりすることはあったが、いつもは他の人間も大勢いる中でだから彼女と二人きりでというのは珍しい。


「そういえば、ハルキヨが今お前の家にいるって本当か?」
 愛理衣や寧子、アンネ等は昔から仲が良かったからか度々会っているようで、たまに話しを聞く。大体は元気にしてたとか、どこどこに遊びにいった、とかそんな話ししか聞かないのだが、少し前にそんな話しを聞いたのだ。ハルキヨが住み着いているから、一之黒家に行きたくない、とかなんとか。
 あの男が一つの場所に留まるということはなかなか想像しにくいことではあるが、あり得ない話しではない。違う街に旅立とうとしたハルキヨを赤牧市に留めさせた過去が、亜梨子にはある。どんな会話をした結果そうなったのかは未だ謎のままだ。
「そう……そうなのよ。一ヶ月くらい前かしら、急に来たと思ったらそれからずっと居座ってるのよね。体のいいホテルだとでも思ってるんじゃないかしら」
 しかもいつの間にかお父様やお手伝いさんとも仲良くなってるし、と愚痴を溢す。……完全に三年前のオレと同じ状態のようだ。魅車八重子に協力していた理由が亜梨子だった男だ、花城摩理の一件以来、すっかり彼女にご執心なのだろう。
 付きまとわれているらしい当の本人が気付いているのかどうかはわからないが。
「俺がお前を起こしてやったんだから、これからはお前が俺を起こせ……とかなんとか。意味がわからないわ」
「……ハルキヨがお前のこと気に入ってんのはわかりきってるだろ。お前はどう思ってんだよ」
「え? どう――って」
「仮にも男と女が一つ屋根の下に住んでるんだし、何か思わないのか?」
 以前ではとても話題にはしなかったような内容。少しは大人に近付いたからかもしれないし、自分にはもう最愛の恋人がいる為の変化かもしれない。
 珍しいものでも見るように目を見張っていた亜梨子だったが、ん、と言葉とも溜め息ともつかない音を漏らし少しだけ俯く。
「よくわからない、わね。そりゃ、私だって女の子なんだから人並みに異性を意識したりすることもあるけれど。恋愛なんてしたことないもの。どこからどこまでが友達で、どこからどこまでが恋愛としての“好き”なのかわからないのよ」
 その様子はまるで、今現在自分の中にあるハルキヨに対する気持ちが何なのかわかりかねているように見えた。
 ……驚きだ。何がって、コイツも人並みには女の子らしかったということが。
 なんだかなあ。オレに対してはあんな女みたいな顔見せなかったくせに。別に未練なんてある訳じゃないが、微妙な心境だ。
「……いいんだけどさ。オレにはもう、自分の居場所があるんだし」
「何でここで貴方の話しが出てくるのよ」
「いや、別に」
 うーん。モヤモヤとしたよくわからない感情をどう表現すべきか。失恋とか、そんなんじゃないんだけど。
「お前との関係って、未だによくわかんないんだよなぁ」
「もう奴隷じゃなくなっちゃったものね。なんたって、詩歌の恋人なんだから」
「お前だって」
 恋人候補、いるみたいじゃねぇか。変態だけど。
 と、その言葉は、正体不明のモヤモヤとした感情に遮られ、声にならずに終わる。
 ――未練か。
 三年前。亜梨子に対し、異性への想いがあったことは否定しない。だがそれは初恋という訳ではなかったし、今もその気持ちがあるかと問われれば答えはノーだ。
 だからこの未練は、亜梨子という一人の女の子に対してではない。これは多分、昔の自分に対する罪悪感だ。一度去った人々が、流星群の夜に夢見た未来がすぐ側にありながら――そこではない他の居場所を見つけてしまった、今の、オレからの。
「……起こしにいけなくて、悪かった」
「バカね。それより大事な約束があったんでしょう?」
「ああ。詩歌との約束は、破れない――破りたくなかった」
 三年前とは、違う感情。
 不思議な気分だ。
 ただの同居人で片付けられるほど、お互いの存在は小さくなかった。友達とは少し違う。相棒という程かっこいいものでもない。恋人云々言う以前に、亜梨子は大助を意識したことすらないだろう。
「友達以上恋人未満奴隷以下、って感じかしら」
 ――私達の関係って。
 そんな亜梨子の呟きに、思わず吹き出す。
 言い得て妙だ。ここまで、オレ達にぴったりの言葉があるとは思わなかった。
「何よ、文句あるの?」
「いや、ねぇよ。――それでいい」
 ま、いいか。
 友達でも相棒でもどっちでもいい。亜梨子が選んだ方になってやると、そう言ったのはオレなんだから。








友達以上恋人未満奴隷以下






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