蹂躙される。口内を、身体を、奥深くまで侵入され、犯される。この感覚は快楽と同時に、“霞王”にとって自分の夢を思い出させてくれる行為でもあった。
 弱者は、強者に全てを奪われても文句を言うことはできない。
 この悪魔によってそれを思い知らされたあの日がフラッシュバックし、いつか強くなって倒して見せると唇を噛み締め拳を握り締めた押さえきれないほどの感情を思い出す。
 スイッチが入ると途端に強引になるコイツの性格は、嫌でもそれを再確認させられた。
 まだ足りないとでも言うように、ひたすら求めて貪り尽くして――この悪魔が何故ここまで何かを求めてすがって、そして少しだけ冷たくして見せるのかはわからない。
 けれど、夢を思い出すためにこの行為を続けている自分が何か言うつもりはない。
 満たされない部分を何とか満たそうとしているらしい悪魔だって、同じように相手を利用していることには変わりがないのだ。
 そして、偽物だとしても一瞬の快楽を得る為に続けていることはお互い同じで、理解した上――なのだから。





「ん………んん?」

 朝。いつもと違う場所で目を覚ました。
 だが見知った天井だ。昨日戦闘訓練を終えてシャワーを浴びて――それから。
「ん〜……あー…」
 まだ頭がぼおっとするが、うん、思い出した。まあまた任務でどっかいってるかなーなんて思いつつ、そうしたら合鍵で中に入ればいいかと思考を巡らせこのマンションまでやってきたのだった。
 そうしたらちょうど任務もなく休暇をとっていたらしく、部屋でくつろぎながらテレビを見ていたところを発見。
 行くときには考えていなかったが、他の女がいなかったことは幸いだったと思う。
 そしていつもの如く喋りながらベッドの上へ――
「いつものことながら、何しに来てんだろうなぁ……」
 身体はダルいし節々痛むし。今日の戦闘訓練がダルいなあと寝返りをうつ。隣に寝ていたはずの彼がいないのは、もう起きてシャワーを浴びているか朝食を作っているか任務かのどれかだろう。
 服を着るのも面倒だったし、シャワーも浴びたかったので、布団を身体に巻き付けてベッドから下りる。気配があるから、リビングかな。
「おはよ」
「おはよう――って、何て格好してんだよ。朝食もうすぐできるから、着替えてこい“霞王”」
「“かっこう”サン、ウルサイデス。それに、昨日“かっこう”サンが激しくしやがりましたから身体がダルくてツラいんデス」
「………シャワー浴びてこい」
 朝食を作っている少年の横から卵焼きを一つつまみ、相変わらず殺風景なリビングを抜け、そのまま風呂場に向かう。
「あ、俺今日任務あるから。飯食ったら帰れよ」
「おー」
 言われなくても。オレだって、元よりそのつもりだ。
 ここにはただ、なんとなく。身体を重ねにきただけなのだから。
 視界の隅に入った、伏せられたままの写真立てに飾られている写真を、オレは知らない。だけど予想くらいはつく。……もし自分がいなくなっても、アイツ等のように、思い出として残されはしないだろう。
 “ふゆほたる”のように、アイツに特別として扱われることを望んでいる訳じゃない。
 気まぐれにこのマンションに来て、胸に空いた穴を埋めるために利用し合って、でもお互いまだ空虚なものが残ったままマンションを出る。
 それでいい。そしてきっとその行為は、お互い夢を叶える日までダラダラと続けていくのだろう。

「なあ“かっこう”」
「ん?」
「アンネって呼んでって言ったら、怒る?」
「……呼ばねえよ」
「だよな」
「もし、虫憑きじゃなくなったいつかなら――呼ぶかもな」
「……そっか」

 こうしてまた一つ、夢を叶えたときの楽しみが増えていく。でも、夢を叶えたらこんな時間もなくなるんだよなあと思うと少しだけ残念な気もした。
 自分がいない時、自分とそうするように他の女にも同じことをしていることを知っていても。
 ここは少しだけ、居心地がいいのだから。







夢を追い縋りしがみつく







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