我に返った時には、力の限りその変わらない小さな体躯を抱き締めていた。
 彼女に会ったらまず何を言おう? 何をしよう? やっぱり「久しぶり」、これが一番無難かもしれない。別れの挨拶も無しに勝手に三年間も眠りやがってと怒鳴ってやろうか。それから、彼女が眠っていた三年間の出来事を一つの出来事も漏らさずに語って聞かせてやろう。死にそうで辛くて泣いて逃げ出したくても、お前に言われた通りオレは死んでないよ。だから少しくらいは誉めてもらおうではないか。奴隷から昇格して待遇もアップしてもらって、もう黙って殴られてなんかやるものか。でもまずは、おはようと一言挨拶しよう。
 彼女の姿を見るまではずっとそんなことばかり考えていたのに、三年前と睫毛の一本も違わない彼女の姿を見た瞬間言葉を失った。
 ここに来るまで考えていたことなんて全て頭から抜け落ちて、驚いたように自分の名前を呼ぶ彼女の声を呆然と聞くことしかできなかった。懐かしい声。三年もの歳月が流れていくうちに、いつの間にか彼女の声も忘れていたことに気が付いた。
 その声に答えないまま無我夢中に駆け寄って、衝動的に抱き締めて、掠れた声で名前を呼んだ。ここにいることを、自分の身体全て使って確認するようにすがり付く。わかってたことだけどさ、お前本当小さいな。クラスでもかなり低い方だったよな。あれ、一番小さかったっけ? はは、さすがに三年もたってるとあんまり覚えてないんだよ。でも小柄だとは思ってたし覚えていたけど、こんなに小さかったっけ。オレが成長しただけか。
 考えていた言葉なんて何一つ出てきやしない。ただひたすら、彼女の名前を呼ぶ。三年前から一回も呼ばなかった。一度だって口に出さなかった名前を繰り返す。亜梨子。亜梨子、亜梨子。オレ生きてるよ。そんでお前はちゃんとオレの前にいる。お前の夢見た世界とオレの夢は、ちゃんと繋がったんだ。今、この瞬間に。

「また明日ねって言っといて、三年もかかってんじゃねぇよこのバカ!」
「あら、私にしてみたらあれは昨日の出来事だわ」
「何だその屁理屈、カレンダー見ろっての」
「それを言うなら、貴方だって起きた人間にはまず挨拶をしなさいよね」
「あ」

 そうだ、まず言わなければならないことがあった。
 名前を呼ぶより抱き締めるより先に、「また明日ね」って、約束したのだから。

「――おはよう、亜梨子」

 抱き締めていた名残で肩に置きっぱなしになっている手が、今更になって気恥ずかしくなってきた。とりあえず少し離れて、それから、全部話そう。
 昔言えなかったことも、全部話すよ。お前のどこが好きかも、それよりも多い嫌いなところも、それも無視してしまえる程に好きだったことも。前髪で顔を隠したりもしないし、自分の話しになった途端話題を変えたりもしない。だからちゃんと聞いてほしいんだ。時間がかかるかもしれないけれど、いいよな? だってこれからは、きっと限りなく長い時間が続いているのだから。俺達には、また明日があるのだから。




夢の続きのその先で








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