――なあ、薬屋って一之黒と付き合ってんの?

 クラスメイトのその一言に、接しやすく話しやすい優等生という薬屋大助の仮面が剥がれ落ちなかっただけで賞賛に値すると思う。
 思わず口から出かかった「はあ?」という言葉を飲み込み、どうしてそう思うの、と首を傾げて見せた。
「だって仲良いし。それに、一緒に住んでるんだろ」
「住み込みで使用人やってるだけだって。同じ家で暮らしてるって言っても、みんなが想像してるようなことは何もないよ」
 そう言うも、男子生徒はなかなか納得しない。
「年頃の男女が同じ屋根の下にいて、何にもないってすごくね? 一之黒って結構可愛いし。意識しないのかよ」 苦笑いのままやんわりと否定しながら、絶っっっ対ねえよと心の中でだけ顔をしかめる。
 確かに綺麗な顔はしているが、性格ブスは御免被りたい。それならおしとやかな九条さんの方が百倍可愛い。
 それに、あの幼児体系のどこをどうやって意識するというのだろう。大人っぽい体系をしている西園寺さんとかなら、意識するのもわかるけれど。
 あの亜梨子が恥じらいに頬を染めるなんて想像もできないし、実際男を意識したことがあるのだろうか。
「明るくていいと思うんだけどな。まあ、西園寺みたいにプロポーションはよくないけど」
 ただ可愛気がないだけの性格を明るいと評価するこのクラスメイトに、大助としては尊敬すら覚えた。
「……正直に言うと、好みじゃないんだよね」
「ふうん? 実はお姉様系が好きとか?」
「あはは、違うよ。オレさ、もっと大人しくて女の子らしい子が好きなんだ」
 落ち着きがなくて乱暴で、女の子らしさなんて欠片もない奴は、まず異性として見れないだろう。
 守ってやってんのに感謝もしない、一言のお礼すらない。挙句、突っ走ってはまた守られてるような奴なんて話しにならない。
 赤くなるどころか、異性を意識したこともなさそうなお子ちゃまは論外だ。ラブとライクの違いを知っているのか、真剣に聞いてみたい。
「守ってあげたくなるタイプって言うのかな。ちょっとしたことでも赤くなる仕草って、やっぱり可愛いと思わない?」
 自分勝手で高飛車で傲慢。
 苦手な要素を併せ持つ一之黒亜梨子のことが、オレは大嫌いなのだ。










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