この関係が、俺達にはきっと一番合っているのだろう。
 保育園からの幼なじみは、いつも誰かを引き連れていた。生まれ持った魅力なのか、怜司が初めて見た時から彼女を囲む群れは変わらずそこにあり続けた。彼女が一人立っているだけで、気がつけば周りには二人、三人、四人と、いつ集まったのかと言うほどの人が集まっていく。困っている人間を見るたび人助けに奮闘し、また彼女を囲む人間は増えた。
 彼女はいつでも笑っていた。けれど、怜司にはいつも彼女自身が助けを求めているように見えた。
 立花利菜は、そんな少女だった。





「またサボり?」
 屋上にいると、利菜はふいに顔を出す。昔からそうだ。集団の中心で笑っていたと思えば、ふらりと人垣離れた場所にいる怜司の隣へとやって来る。
「あたしがいなくて寂しかった? レージ」
「別に」
素っ気ない返事をすると、利菜はふふっと笑いながら屋上の柵に体を預けた。
「あたし、レージのそういう所、好きだわ」
 ――気負わなくていいもの。
 そう呟いた。
 二人以外誰もいないというのに、怜司にしか聞こえないよう小さく溢された言葉は、吸っていた煙草の煙と共に掻き消える。
 何かに気負いながら生活しているのだろうか。
 周囲にあれだけ人がいれば何かしらあるだろうな、と思いもするが、あまり人と接しない怜司には想像のつかないことだった。
「なんだか疲れちゃった」
「何かあったのか?」
「ん……まあ、色々。かてーのじじょーってやつもあるし、色々よ」
「ふうん」
 やはり興味なさげに返された言葉に、利菜は眉を下げて微笑んだ。
 利菜がたまにたわいもない話しを振り、怜司が適当に相槌を打つ。あとはただ無言のまま、いつもそうしているように、二人で煙草の煙と流れる雲を見つめた。
 無言なのに居心地が悪くならない空間。頭を空にできる場所を求めて、利菜はオレの隣に来るのかもしれない、と怜司は思う。
 考えてみれば、怜司は利菜の家族関係についてはほとんど知らない。利菜自身、意図的に話さない節もある。そんなことは彼女が話したければ話せばいいと思っている怜司も、特別掘り下げて聞こうとはしなかった。怜司にはそれを知らなければいけない権利も、知りたいと思う欲求も好奇心もない。
 ただわかるのは、利菜が「あの人達」と呼ぶ利菜の友人(?)も、同じ血が流れているはずの家族さえ、利菜の“居場所”にはなれていないということだけだ。
 オレの隣は、利菜の居場所にはなれていないのだろうか。
 利菜の気持ちなどわからないけれど、約束もせず呼びもしていないのにこうして隣にいるのなら、一番近い位置にはいるのかもしれない。
 怜司が隣にいる少女について思考している間、少女は何を考えていたのだろうか。瞬きをし、緩やかに髪をなびかせながら、少女はやはり怜司にしか聞こえないように呟いた。
「あたし、ここにいるわ」
 少しでも風が吹いていたら聞こえなかったかもしれないと思うほどの、か細い声。
「……ちゃんとここで、生きてるのよ」
今度は、宣言のようにハッキリと口にした。自分に言い聞かせているようだ、と感じたのは、怜司の勘違いかもしれない。
「ああ。オレの隣で、確かにお前は生きてる。立花利菜がここにいるのを、オレが知ってる」
考え、息をし、心臓が動いている。
 今、オレと会話している。
 何かを思い、何かを感じている。
 何かを夢見ている。
 ――また、何か悩みがあるのだろう。利菜に何も語られていない、頼られていない怜司には関係のない、厄介事が。

「大丈夫か?」
「――うん。まだ、大丈夫」

 それでも、利菜はまたここに来るのだろう。またひょっこりと、オレの隣に。
 オレはいつでも、ここにいるのだから。







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