あたしには、いくつか好きなものがある。
 まず、猫が好きだ。
 それから、今あたしが髪につけてる鈴が好きだ。
 理樹と、あのバカ二人も好きだな。
 野球も嫌いじゃない。
 
 きょーすけは、いつもやることが唐突だ。猫を拾ってきたのもいきなりだった。あいつの考えてることはよーわからん。
 よーわからんから、理由を聞くのは無意味だともう理解している。あたしは猫を受け取った。暖かかった。「可愛いだろ?」そう聞いてくるから、あたしは答えた。「ああ、かわいいな」。

 どこで見つけてきたのか、きょーすけが小さなすずをくれた。髪留めになるらしい。あたしはされるがまま、のびていた髪をひとつにくくられる。首を動かすと、ちりんと鳴った。
「すずって漢字わかるか?」
「わからん」
「『鈴』って書くんだ」
「あたしの名前とおんなじだな」
「そう、おんなじだ」
 綺麗な音だろうと、きょーすけの指が鈴を弄る。ちりん。音が鳴る。ちりん、ちりん。音が響く。初めてきいたときは少しだけうるさいと思ったはずのその音は、よーわからんがきれーに思えた。ちりん。
「鈴の姿が見えなくても、この音が聞こえればすぐに見つけられるだろ?」めいあんだと笑うきょーすけ。ちりん。首を縦にふる。それは、きょーすけがあたしの名前を呼んでいるように聞こえた。

 正義の味方、リトルバスターズをけっせーするとかなんとか言ってつれだされた。外はこわいのがいっぱいだ。くちゃくちゃいやだったが、手を繋いでいるから大丈夫だと言うから仕方なくいっしょに行った。
 『喜び』も『哀しみ』も、いろんなことがあたしを待っているらしい。
 知らない道を行ったり来たりして、いっぱいの猫をみつけながら、ひとに道を聞いて家までかえった。こわくてこわくてこわかったときょーすけの手をぎゅっと握ったら、ふりむいたきょーすけがあたしに言った。
「でも、悪くないだろ?」
 ちりん。
 あたしは首をふった。
「……わるくないな」



 あたしには、いくつか好きなものがある。
 だけどそれは全部、元をたどればたったひとりに行き着いてしまう。
 生まれたときから、そばにいて。
 物心ついたときから、手を繋いでいて。
 当たり前に、あたしの世界の中心で。
 心臓の辺りがもうむちゃくちゃに、くちゃくちゃに、きゅーってなる感覚を、あたしは言葉にできない。みおやくるがやなら知っているのだろうか。今度聞いてみよう、そうしようと、あたしは頷く。ちりんと、鈴が鳴った。
 うー、まただ。
 この鈴の音を聞くと、きゅーってなってたのがぎゅーって感じになる。
 きょーすけに、名前を呼ばれたとき、みたいに。
 心臓がもたん。あいつはあたしを殺す気か。
 ちりん。
 ずっと音を鳴らしているのに、あいつはまだ気づいてくれない。
 ちりん。
 早く気づけ、バカ。合図だろ。あたしの姿が見えなくても、この音が聞こえればすぐに見つけられるって言っただろう。あたしがどーにかなる前に、早くあたしの音に気づいてくれ。
 ちりん、ちりん。
 あたしの胸は、今も鳴りっぱなしだ。
 そして、あたしは耳をすましていないあいつにこう言うんだ。

「バカ兄貴」

 いつだってお前の前では、ひときわ大きく鳴っているのに。










ちりん。








鈴の音色



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