特環に所属している虫憑き同士の電話は、通常では記録として全て録音しておかなければならない。そもそも連絡を取り合うこと自体あまりなく、私用でかかってくることは珍しかった。
 未来へ続く戦いにしか興味がない“戦士”が、普段なら口にすることなどない昔の思い出話を語り始めるのも、それと同じくらいに珍しい。

 ――ボクが肋骨を折ってやったんだったね。
 ――ああ、覚えてるよ。手加減無しでやりやがって。

 懐かしむように笑う少女の声を電話口から聞けば聞くほどに、大助の胸には説明のつかない違和感が募っていく。
 違反である、私用の電話。
 見るべき未来がもう存在しないように、振り返るばかりの思い出話。

『ボクと言う優秀な相棒を失い、槍使いの少女と言う相棒を失ってもなお、キミは一人で戦い続けているのかい……?』
「誰が優秀だ、誰が! ったく、いつも俺にまで攻撃しといて、よく言うぜ……。それに、アイツは別に相棒って訳じゃないって言っただろ? まず、もうアイツの話しを出すなって――」

 ……どいつもこいつも、と小さくため息を吐く。
 ワンコといい“霞王”といい、“ねね”や“C”からもあの槍使いの少女の話題が出ることは、少なくない。
 あの少女は本当に多くの虫憑き達に影響を与えていたのだと、今更になってよくわかった。

『おや、激しい抗議だね。でも却下』

 くすくすと、楽しそうに笑うのが電話越しに聞こえる。
 ……なあ、何でこんな電話をしてきたんだ、なんて。
 その質問を口にしてしまったら、この電話は切れてしまうのだろう。
 同じ特環に所属し、戦いに身を費やしてきた虫憑きが倒れていく姿を、大助は幾度となく目にして来た。
 目にして来たからこそ、その質問の答えが予測してしまえる――。

「……いつまでも戻って来ないワンコに、言われたくねーよ」

 二度と、戻っては来ないのだろう。
 もう。
 きっと。
 永遠に。
 勝手にいなくなったと思えば、そのまま戻って来ないままなんて。それじゃあ犬じゃなくて猫だろうが、と切れてしまった電話口に呟いた。
 ……バカワンコ。









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