「おめでとう」
 思えば、亜梨子は昔から嘘を吐くのが苦手だった。
 顔に出て、誤魔化そうとすればするほど、動揺が透けて見える。
 変わっていない。そのことに、胸が突かれた。
「おめでとう、大助――」
 中学三年のあの夏に、心が還った。
 焦げ付くような熱さと、制御できない強い衝動に、亜梨子の腕を掴んで抱き寄せる。
 かつての自分はどうやってこの希求を抑えていたのだろうと思う。それほどまでに、一之黒亜梨子は薬屋大助を構成している。
 そうして。
 俺は二度と返らないはずだった過去を取り戻し、何よりも求めてやまなかった居場所と共に現在を取り巻くすべてを、失ったのだ。



ここからのお先真っ暗逃避行



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