語り得ぬものについては、沈黙しなければならない。 ―― Ludwing Josef Johann Wittgenstehn『論理哲学論考』 ―― 沢井村に来て数日、羽咲も故郷での生活に順応し始めているようだった。 見渡す限りの緑。ケーブルテレビを見るために一時間は自転車を漕ぐ必要もあれば、携帯の電波も立たない山の中だ。自称ジャーナリストである木村はもちろん、生まれも育ちも沢井村であるはずの由岐でさえインターネットが繋がらないことを日々嘆いている。 「でも羽咲ちゃんいると遊び甲斐あるね。ジャスーコ楽しかったね」 「羽咲もはしゃぎ疲れて眠ってるよ。こっちに来てからは、俺がいないと眠らないなんて言って放さなかったのにな」 「そうだねー、皆守一人占めされっぱなし。うわんっ」 布団に寝そべり、枕を抱き締めたまま転がる由岐の声は、言葉とは裏腹に楽しげだ。 理由は明白。羽咲にも自分の姿が見えることが嬉しいのだろう。 これまで、由岐を見ることができるのは俺だけだった。 かつて、間宮卓司――否、悠木皆守の肉体に混在していたときでさえ、由岐の姿は俺と卓司にしか視覚できないものだったのだ。それが、今になって水上由岐本人の姿形で羽咲と接することができるようになったのである。 「そりゃ、喜ぶよな……」 俺だって嬉しかった。 由岐がただの、脳の不具合ではないと言われたようで。 認められたようで。 「幽霊なのかなんなのか、よくわからんが……」 隣に座ると、由岐が呆れ顔で身体を起こす。 「なんだよぉ、まだそんなこと考えてるのか?」 「そんなことか……自分のことなのに呑気だな、お前は」 「呑気だよ。だって重要なのは、私がどういう存在なのかじゃないもん」 頭を肩に預けてくる。 その僅かな重みに、肉体すらもを錯覚する。 「それに私、わかったからさ。どうして、皆守の元に帰ってこれたか」 「え?」 とんでもないことをさらりと言わなかったか、今? 思わぬ発言に勢いよく振り向きそうになってしまい、慌てて自制する。 由岐はそんな俺の反応を楽しむかのように見上げ、小さく笑った。 「皆守は忙しいなぁ」 「誰のせいだ……」 「教えてあげてもいいけど、聞いたらもっと忙しくなっちゃうんでない?」 「いいから言え」 「前言ったでしょ。私達は、すべてがつながってるって」 血だけじゃなく、血管から脳にかけて、身体のすべてがつながっている。それは、一つの身体に属していたから。入れ替わりが起きても、その身体は俺のものだったから……。 けれど、それ以上のものがあると言われたことを思い出す。 「心がつながってる……か?」 「うん。私達の心がつながってるから」 「それが、どう関係するんだ?」 「ん? あれ? あれれ? 今度は照れてくれないのかよぉ。ちぇー、あのときの皆守はあんなに可愛かったのになー」 「うっ、うるせぇバカ! さっさと続きを話せ!」 聞いたらもっと忙しくなるの意味をようやく悟り、顔を背ける。 その後も由岐は数秒間ぶーたれていたが、小さく、柔らかな手を重ねてきたかと思うと、静かに瞼を閉じて語り始めた。 「皆守はさ、あのとき、あのC棟で、私の存在を感じてくれたよね。それをまだ、覚えてくれてる?」 忘れるわけがなかった。 信じて送り出してくれた彼女の存在を、忘れられるわけがない。 握り締めた手のひらは、記憶していたよりもずっと小さくて。とても細くて、とても柔らかかった。 今重ねられている手と、一切の変わりなく。 「私、ずっとあんたのそばにいるって言ったよね。皆守がそれを信じてくれたから、私はここにいるんじゃないかな……」 確かに、あのときの俺は信じた。 いや、今この瞬間も、信じている。そして、これからも尚、信じ続けるのだろう。 そばにいるという、由岐のただ一言を。 けれど、それは。 「……非現実的すぎる」 「よくあるじゃん。心の中で生き続ける! みたいなさ」 「それこそ、お前は俺の幻覚だと言っているようなものだ」 「だってさ」 震えが伝わる。 「だってそうじゃないと……」 「そうじゃないと?」 「いつ、この素晴らしき日々が終わってしまうのかわからない……」 由岐の瞳が、切望に滲んでいた。 俺が心から消してしまわない限りは、この時を永久に続けることができる。そう、言いたいのだろう。 「じゃあ、今そうやって考えてる由岐は何だ? 考えてる由岐は存在してる」 「脳活動だよ。その一部が、他人各として認識しているに過ぎない」 多重人格と似たようなものだ、と付け加える由岐。 「つまりは“私が考えてる”ことは、私の存在証明にならない」 無意識に、手を握る力を強くした。由岐は目を伏せ、苦笑する。 「……そんな怖い顔しないでよ、冗談だ」 「……」 「ううん、冗談じゃないかもね……。私だって、どうして私が存在するのかわからない。幻覚かそうじゃないかなんて、きっと誰にもわからないよ」 手の力を恐る恐る緩めると、由岐のほっそりとした指が、固く強張った指を一本ずつほぐすようにして撫でていく。 「全ての存在は、たった一つの魂によって作り出されたものかもしれない。もしかしたら世界には、魂は一つあれば十分なのかもしれない……」 「……由岐」 「私は、これを否定した……。けれど、否定できる要素がないことが、怖かったんだ……。あれから、あの明晰夢の後に、誰かとそんな会話をした気がする……よく、覚えてないんだけどね」 最後の一言について、俺はまったくの理解が及ばなかった。けれど、大切なのは、そんなことではないのだ……。 「……ごめん。どうでもいいって言ったのは、私なのにね。大事なのは、こんな風に考え込むことじゃない。大切なのはさ……」 優しく触れる指を、再度握る。腕や、肩が触れ合い、そこから発する熱を頼りにそうっと全身を寄せあっていく。 「あ、皆守……んっ」 唇を重ね、吐息一つ聞き逃すまいと由岐の存在すべてを手繰り寄せる。シーツを掻くように、布団ごと由岐の身体を強く抱く。 「由岐はここにいる。それだけは、何があろうと変わらない」 ただ、それだけが……。 「うん……そうだよ。そうなんだよね……」 数センチの距離で、吐息が混ざる。舌で舌を愛撫し、口付け、唇の先を掠めるだけのじゃれあいを言葉の合間に繰り返した。 「私にとってはさ……。こうして、皆守といられる……それだけが、真実だ……」 二つの鼓動が共鳴する。 唇と共に、心が重なる。 「ん、ぴちゃ、ちゅっ……はぁっ」 張り詰めた男性器を、誘うように赤い舌が愛撫する。 由岐はチロチロとカリや裏筋をなぞっては舌を引っ込め、もどかしく顔を歪める俺を見て悪戯っぽく笑った。 「んふふ……イきたそうだねぇ、皆守」 先走りで濡れた先端部分を、指先でつつかれる。 「ほら、びくびくしてるよ……」 「い、一々言わんでいい……」 「ぺろっ……ちぅっ、ふふ……」 「……っっ」 上がりそうになる声を我慢する。 焦らされ続け、かつてないほど固く勃ち上がった俺のものを、由岐の手が優しく握る。 「このまま、上下に擦りまくったら、どうなっちゃうんだろうね?」 「知るか……っ」 「あは、手の中でびくって……想像した?」 「お前、いい加減に」 「ほれほれ、私に思いっきり抜いてもらいたいんだろ? 素直になれよぉ、青少年」 「うあっ!?」 パクリと先端を食まれ、無意識に腰が浮いた。 温かい由岐の口内が、じんわりと俺の快楽を引き出していく。 「んぅ、んふ、ぢゅぅっ……れろれろっ」 根元近くを緩やかに擦りながらも、口をすぼめて吸い付いてくる。 震えるほどの快感が背筋を這った。血流が下腹部に集中する。 「うっ……ゆ、由岐、まっ……くぁ、あっ!」 限界だった。 意識のすべてが、快楽の奔流に押し流される。 大量の精を由岐の口内に放ち、何度も大きく息をする。 「……っ、んくっ、んぐっ……んぶっ! げほっ、げほっ!」 何度も喉を鳴らしていた由岐だが、飲みきれず口を離してしまう。 お互いに息を整えたときには、由岐の顔は俺の精液で白く染まっていた。 「いっぱい出たねぇ……。羽咲ちゃんが来てからご無沙汰だったし、溜まってた?」 「わ、悪い」 髪にまでへばりついたそれを手で拭ってやると、由岐は俺の指ごとしゃぶりとってしまう。 驚きに目を丸くした俺を見て、微苦笑。 「やっぱり不味いね、これ」 「なんでわざわざ飲むんだよ……」 「だって、男の子って飲んでくれたほうが嬉しいもんじゃないの? 間宮卓司の持ってたエロゲだと、そんなのばっかり……わっ」 由岐の身体を、布団の上に押し倒す。 スカートがめくれ上がり、下着が丸見えになったその姿は、もうすっかり見慣れてしまった。 「こんなときに、他の男の話をされるほうが、その……嫌だ」 「皆守、顔真っ赤だよ……」 「誰のせいだ、バカ」 「うん、ごめん」 たかが名前を出された程度。 それでも、不快になるのだからしょうがないだろう、と思う。 羽咲じゃないが、俺も相当嫉妬深いのかもしれない……。 太ももの付け根に触れると、由岐のそこは下着越しにもわかるほど濡れていた。指が滑り、粘ついた音が耳まで届く。 「あ、あっ……」 由岐が焦ったように視線をさ迷わせる。 「ちょっ、直接触られるより恥ずかしいっ! 下着も汚れる!」 それはもう手遅れだった気がするが。 「気分の問題だ! いっいいから直接……あっ、ひゃあっ」 言葉を待たず、下着を足首までずり下げる。 膝裏を持って強引に開脚させ、濡れた性器を擦り合わせた。 「あんんっ、ひあっ……皆守、回復早すぎっ……」 「お前こそ、嘗めてただけで濡れすぎだ……」 「あ、あんっ、あんたが溜まってたように、私だって、私もさ……あぁっん……ずっと、我慢してっ……はぁぁっ」 入口を滑り、大きくなった彼女の陰核を擦る。それを何度も繰り返すと、由岐の声はどんどん上擦ったものに変化した。 「あうっあうあうぅ……あくっ、ああっ、だめっ、胸触んないでぇ……だめだめっ……っちゃうよぉ、こんな、簡単にっ……」 力を強くして腰を動かす。 固く主張する胸の先端を吸い上げ、柔く噛む。堪えるように由岐の手が俺の腕を掴むが、いつ張り詰めたものが切れるかわからないくらいにぶるぶると震えている。 「やあっ、とっ、皆守……待って……」 「いいよ、イッても……」 「そ、そうじゃなくて……ちゃんと、いれてもらいたいよ」 にっこりと微笑んだ由岐が、ちゅっと音をたてて俺の頬に口付けた。 「……皆守を、感じたい」 「由岐……」 逸る気持ちを抑え、入口に先端を潜らせる。 由岐の中は柔らかく蕩けているのに、締め付けは強すぎるほどだった。 お湯に浸かったような熱さが俺を包み、絡み付く。 「んん……っ、は……ああうっっ」 誘われるままに腰を落とすと、由岐の背がびくんと跳ねた。何度か膣内が痙攣して、俺を掴んでいた力が唐突に抜ける。 「もしかして……いれただけでイったのか?」 「あは、は……初めてしたときは、あんなに、痛かったのに……はぁっ……」 「いいことだろ……多分」 「はぁ、ん……えっ、やっ、ああっぁっ!?」 気が抜けているだろう今を見計らって、最奥を突き上げた。 ぐいぐいと押し上げ、揺すり、息を整えて出し入れする。 「いぃ、いきなり、激しすぎるよぉ、皆守ぇっ……イッたばっかりなのに、こんなぁ……っ」 「俺の……で、気持ちよくなってくれてるんだから、嬉しいよ……」 「あ、当たり前だよ……皆守だもん……皆守なんだもんっ……ずっと好きで、ずっと側にいたいって思っててっ、ようやく、あぁ、叶ったんだ……からっ!」 胸が詰まる思いがした。 そうだ。 ずっと側にいたいと、願っていたのは同じだった……。 一瞬後にも、由岐が由岐でなくなってしまうかもしれない……あの時、そんな不安の中で、俺は初めて由岐の温もりを抱いた。けれど今は。 「俺だって、由岐を感じていられる、それだけでっ……」 強く抱き合い、敏感な粘膜を擦り上げて感情と快楽をぶつけ合う。 由岐の足がぐいと俺の腰に回り、もはや一ミリの隙もなく肌が合わさる。 「由岐の中、気持ちよすぎる……っ」 「あっ、あぁっ! とも、皆守ぇ、ああ、んんんっっ」 次第に腰の動きが大きく、早くなり、それを由岐の足が押し戻す。夢中で、浅ましいほどに求めあう。 一つになる。 存在すらもが、混じりあう……。 そんな、ありえない錯覚をも覚えた。 今、この時ばかりは、同じ世界を見ているような……。 「皆守、中に出して……」 耳元で囁かれる。俺は返事をする代わり、由岐を抱く腕により一層の力を込めた。 抗いがたい快感の波に身を任せる。 焼ききれてしまいそうな熱が尿道を駆け抜けていき、最奥に溢れ出す。 健気に吸い付いてくる由岐の中もまた、絶頂を教えるように収縮した。それに合わせて悲鳴のような声を上げ、全身を震わせる。 「あぁ、出てるの、わかるっ……皆守が入ってくるっ……ああぁ、ふあぁぁぁっっ」 俺は、俺の全てを受け止め、包んでくれる存在に、すがり付く……。 二回目だというのに、未だ収まらない射精に意識が薄れた。 それは、かつて人格が切り替わるときに味わった消失感に似ていた。 ――違う、俺は間宮卓司に作り出された人格じゃない……。 「由岐姉……」 細く、柔らかな腕に抱かれる。 いつだってこの手が、俺の存在を繋ぎ止め、導いてくれた……。 (まるで、ヒーローだ……) 言えば、「私は女だからヒーローにはなれないよ」と笑うだろうけれど。 (“死なない”がヒーロー特権なら、“幽霊になって戻ってくる”はなんだろうな……ヒロイン特権とでも言うのか?) 「ははっ……」 頭が沸いているとしか思えない、馬鹿らしい考えだ。 しかし、あまりにしっくりきすぎて、自然と笑みが溢れてしまう。 「……どしたのさ? 出しすぎておかしくなった?」 「バカ、違う……。ヒーロー特権があるなら、ヒロイン特権があってもおかしくないと思っただけだ」 由岐は一瞬だけ驚きに目を見開いたが、さっと眉を下げてしまう。 「……それこそ、バカだよ。皆守は羽咲ちゃんのヒーローでしょうが」 「Wヒロインものとか、あるだろ」 「二人とも、俺の翼だーってやつ?」 「ああ、なんか、そういうのだよ……」 今度こそ、俺が由岐を守りたいのだ。 もう二度と、この素晴らしき日々を掴んで離さない。 無理を通して道理をねじ曲げる。それを成し遂げるのが、 「皆守は……私の、ヒーローなんだ……」 「ああ……」 「ヒーローすごいな……ヒロイン、二人いていいんだ……」 「羽咲は妹だけど……俺が好きなのは、お前だけだからな……」 「じゃあ、私のために、ヒーロー特権行使してくれる?」 「俺にできることならな……」 「沢井村にネット繋いでぇ」 「できるか!」 「なんだよつれないなー」 笑いあう。 顔を近付けてくる由岐に、そっと唇を触れあわせる。 「じゃあさ、皆守の赤ちゃんちょうだい」 「……っ!? な、なに……っ」 「皆守にできることなら、してくれるんでしょ?」 「そ、そうは言ったが……っ」 「それに、今だって、皆守の精子がいっぱい私の中に入ってるよ?」 「うっ……」 先ほど出した白くどろりとした粘液が由岐の中から溢れてくるのを見て、顔が熱を持った。 「私は皆守の赤ちゃん、欲しいなぁ」 「お、お前なっ」 「呪われた生を……私は、皆守と一緒に祝福したいよ」 「……!」 それは、生まれたての、赤ん坊の夢だ。 祝福に包まれた世界で、生まれたことを呪っている赤ん坊の泣き声を、終わらせることができない……。 かつて見た夢。 『――その意味が今日すべて明かされた』 何故、生まれた赤ん坊の泣き声を止めてはいけないか……。 何故、人は自分以外の死を悼むのか……。 そして、その悼みは、決して過ちではなく……。 正しき、祈りなんだってさ……。 星空の下で語られた、由岐の言葉を……俺は、一字一句思い出すことができた。 世界は祝福で満ちている……。 今の俺になら、その意味がわかる。 赤ん坊の泣き声を終わらせることができなかったことが、人の持つ原罪であり……だからこそ、それが善意なのだと……。 人が生きるということは、原罪という形の善意なのだと……。 「死は人生のできごとではない。ひとは死を体験しない。永遠を時間的な永続ではなく、無時間性と解するならば、現在に生きる者は永遠に生きるのである」 「この世界の苦難を避けることができないというのに、そもそもいかにしてひとは幸福でありうるのか……」 俺は、その答えを知っている。 星空の下で、由岐が見つけた答えに、辿り着いた。 「……幽霊にも、子供ってできるのか?」 「さあ? 今日大丈夫な日だからって言われるままに中出ししちゃったときくらいの確率?」 「わけがわからん……」 「歳とらない脳内彼女に、成長する脳内子供? どうしよう皆守、カオスすぎるよっ」 「もうなんでもいい……」 結局のところ、この一言だけが真実なのかもしれなかった。 一年後はもちろん、一日後、一瞬先ですら、どうなるかわからない世界が広がっている。 いつか消えてしまうのか、いつまでもこの幸福な時間が続くのか……それは誰にもわかりはしない。 怯えていても、仕方のないことなのだ。 例え終わるとわかっていても、人は幸福を呼ぶと言われる葉があったら、それを探さずにはいられない生き物なのだから……。 「……まあ、いつかな」 「え?」 「いつか、子供を抱いて、泣ければいいよな……」 呟くと、由岐は虚をつかれたように呆けた顔で「どうしたのさ、急に」と俺の顔を眺めまわした。 「皆守がそんなこといってくれるなんて思わなかった。由岐姉びっくり」 からかうような口調と、照れの混じる声が合っていない。 恥ずかしがっているのを隠すようにおどける由岐は、普段より何倍も可愛らしく見える。 俺は隠しきれない羞恥を顔に滲ませながらも、ふっと頬を緩めて微笑んだ。 「だって、たった一つの思いを刻み込まれてるんだろ」 すべての人、すべての生命が、その刻印に命じられて生きている。 「今の由岐だって、それは変わらない」 幸福の刻印を命じられた一つの魂として、存在している――。 ヒロイン特権、万歳だ。 ご都合主義だって構わない。 ちょっとくらい、いいだろう? 「幸福に生きよ! ……なんだからさ」 ここから始まるのは、水上由岐を含めた素晴らしき日々だ。 |