「最後まで選べなかった私とは違う。大助さんは、選べる人だもの」
「私より亜梨子を選んだ。そうでしょう?」
 モルフォチョウを殺すことで、亜梨子を救おうとした。生きている人間を優先したと言えば正統性は保てるけれど、虫憑きでない人間を“虫”から解放させようとしたと言えば聞こえはいいけれど、花城摩理と一之黒亜梨子を天秤にかけた上で、明確に後者を選んだことは変わりない。
「大助さんが、私と交わした約束を、亜梨子のために破ろうとしたことに変わりはないのよ」
 ねぇ、そうでしょう。
 責めるような言い方で断言する。取り繕うことなど許さないと語る瞳から視線を逸らし、頷く代わりに眉を潜めた。
 否定はできない。大助の取った行動は、そういうことだ。
 迷いはあった。けれど、他の誰でもない亜梨子自身に止められなければ、大助は攻撃を止めようとはしなかっただろう。それが事実だ。
 黙っていると、何がおかしいのか花城摩理がクスリと笑う。
「ごめんなさい、糾弾したいわけじゃないの。少しだけ羨ましくて、微笑ましかっただけ……」
 ごく自然な、少女らしい笑み。
「一号指定の悪魔さんでも、誰かを好きになることがあるのね」




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