「だ、大助……? な、なな、なんっ……なんで……あ、わ、私っ、私……初めてだったのよ? ふぁ、ファーストキス……大助……ね、ねえっ…………」
 離されても尚残る少年の感触と温もりに、亜梨子は真っ赤になって両手で唇を押さえた。聞きたいことは山ほどあるのに、口を開こうとする度少年の息を吸いこんでいるような気分になって言葉が出ない。
 覗き見ると、平然としていると思われた大助の顔も負けず劣らず紅潮して湯気でも出そうなほどだった。真剣な表情の中に緊張と戸惑いが見え隠れしていて、亜梨子が見ていることに気付くとバツが悪そうに俯いてしまう。まるで二度目の口付けをしているような数秒の沈黙。手で擦っても、歯を立てても、舌で舐めても、唇の熱はなくならないばかりかより大助を感じる結果となり、一度のみならず幾度もそうされた錯覚に陥った。
 そうして、中庭から鹿威しの音が何度響いた時だったか。大助が前髪で隠していた顔を上げ、「亜梨子」と少女の名前を呼んで肩を掴む。正面からぶつけられた視線に、嫌だったか?
と、そう問われているような気がして心臓が跳ねる。
 部屋で寛いでいて、何か特別なきっかけがあったわけではなかったと思う。理由もなく、言葉もなく、ふと視線を感じて顔を上げた次の瞬間には視界いっぱいに少年の顔が広がっていた。驚きに飛び退こうとした亜梨子の頭がぐっと掴まれ、それでも少年の服を掴んだり足で畳を擦ったりと抵抗にもなっていない身動ぎが続いた結果、どうしたらいいかわからず力を抜いて瞼を閉ざしてしまうまで強く押し付けられたままでいた。
 前触れもなく、突然の行いだったのに、しかし嫌だったかと問われると頷けない自分がいた。恋人同士でもなければ、流される雰囲気があったわけでもない。だと言うのに、素直に怒りや悲しみを感じていないのは、何故なのだろう?
 どうか、言葉にしないでと願わずにはいられなかった。「嫌だったか?」問われてしまえば、亜梨子自身分からずにいる芽生え始めていた彼への感情に気が付いてしまいそうで――。
 瞳を潤ませる亜梨子の肩に乗せられた少年の手が、僅かに力を帯びる。背中に畳の固さを感じ、押し倒されたことを理解する。明かりを後ろにしたことで大助の顔に影が落ちたが、至近距離で見つめあっていたため亜梨子の瞳に映る光景はさほど変わってはいなかった。数センチという距離に、大助の顔がある。それだけ。ただの一人以外誰も、何も、存在しない。
「大助……」
 だから、少年の名前を呼んだのも必然だった。選択肢が彼以外ないのだから、当然だ。
「だい――」
 二度目、名前を呼ぶ前に、唇を塞がれる。一度目の衝撃が身体に戻ってきて、この時になってようやく自分が招いたとも言える状況に困惑した。抵抗できるだけの時間があったのに、嫌だったと一言告げれば終わっていた出来事だったのに、されるがままになっていた。まるで、嫌ではないと、それ以上のことだって自由にしていいと、行動で示すかのように。
「……んんっ!? ん、んぅ、んうぅぅっ……」
 口内に大助の舌が潜り込む。直ぐに離されると思っていただけに過剰なほど驚いてしまい、慌てて引っ込めにかかった亜梨子の舌を大助が絡め取る。口から大助の匂いを強く感じた。先ほどまでとは比べ物にならないほど深い口付けに、頭が真っ白になって呼吸困難に陥りかける。
 映画や雑誌でしか見たことがない、大人のキスだ。小さな頃、お風呂で溺れかけたことを思い出す。息苦しくて、熱くて、胸が詰まる。うまく思考が働かない。混ざり合った唾液が喉に溜まり、堪らず嚥下して酸素を求めた。
「んふ、ぅんんっ……ぷはっ、はぁ、はーっ……」
 息を荒げて深呼吸を繰り返す亜梨子の唇を大助が舐める。下唇を唇で挟まれ、ちゅっと音を立てて吸われるとだらしなく声とも息ともつかない音が喉から漏れた。はしたないぞ、と可笑しそうに呟かれ、恥ずかしさに視線を逸らす。
 バクバクと高鳴る鼓動の抑えが効かない。羞恥心と高揚感に身体が疼き、嫌がるどころか胸を弾ませ淡い期待すら抱いていることを自覚する。
 ――私、嬉しいの? 奴隷なのに……ファーストキスを奪われるだけじゃなく、こんないやらしいキスまでされちゃってるのに。大助の顔、すごく嬉しそうで、幸せそうで、もっとしたいって書いてあるみたいなんだもの……こんなの、抵抗できないじゃない……いつもどうでもよさそうな「自分は関係ない」って顔してるのに、今は素直に笑ってて……やっぱり、普通の男の子なんじゃない。どうしてかしら、大助にこういう顔していられると、私まで幸せな気分になってきちゃって……
 いくら周りよりも意識しない性格をしているとは言え、亜梨子だって年頃の女の子だ。異性を意識しないわけではないし、恋愛に興味だってある。こんなにも直接的に意識せざるを得ない方法を取られては、気の迷いだって生じるはずだと頭を振って自分に言い聞かせた。
 ――でも。
 彼以外の男の子にこんなことをされたら、迷わず頬を叩くだろう。
 気持ち悪いと一蹴し、恐ろしさに泣いてしまうかもしれない。
 なのに、長い月日を共に手を取り合ってきた彼ならば構わないと思っているのは、やはり――
「あ……あぅぅ」
 嫌がる素振りを見せない亜梨子をいいことに、大助の手が柔らかい膨らみに伸びた。それは亜梨子が最も気にしている一部分だったので、何も言われていないのに自尊心が傷付けられたような気がして不安気に眉を下げてしまう。
 意外にも大助の男の子らしく大きな手をしていて、亜梨子の幼い胸は簡単に収まっているのだ。「丁度いいサイズ」や「指からはみ出る」など夢のまた夢と実感してしまい、情けなさに矜持を破壊される音が聞こえてきそうなほど打ちのめされる。
「……お前のぺったん具合はとっくの昔にわかってることなんだから、今更だっての」
 今にも泣き出しそうな亜梨子を見かねたのか、大助が嘆息して宥めるように凹凸を撫でた。てっきり意地悪くバカにされると思っていた亜梨子としては、慰められると同時に何かたくらんでいるのかと疑いにかかりたくなるほど思いやりのある態度である。
「な、なによ、触らせてあげてるんだから感謝の言葉の一つくらい言いなさい。あ、有難がりなさいよね。高校生になる頃には見違えてるはずなんだから……ち、ち、小さいだとか言っていられるのは今だけなんだから……わかる?
レア中のレアなのよ? ぺったんだとか、貧乳だとか、この私がそのままなわけないじゃない……成長期だもの、そうに決まってるわ!」
「わかったから、ちょっとは静かにしろっての」
「ふゃあっ!」
 きゅっと先端をつまんで引っ張られた。静かにしろと言われた通り口をつぐんでしまう結果となり、釈然としない。服の上から――それも中に下着だって着けているのに――いとも容易く乳首を探り当てられてしまったのは、彼が慣れているからなのだろうか。それとも、亜梨子が分かりやすく主張させていたのか……頬が、耳が、火がついたように熱くなる。
 いやらしい。まだ中学生なのに、こんなことをしていいのだろうかという不安が鎌首をもたげた。だが、女の子なら誰もが夢見る「初体験」だと思うと全身に力が入らなくなって、服を脱がされようが全身を触られようが目を伏せるだけでくたりと身を預けてしまう。
 もはや抵抗する気はなかった。


------------


 ここまで大人しく、年相応に女の子らしく、従順でいる亜梨子を見るのは初めてだった。
 偶然の産物ではあったが、こんなにも可愛気のある少女を放っておかない手はない。可愛い、愛しい、自分の物にしたい、優しくしたい。その気持ちはもちろんあったが、それ以上に大助の身体を突き動かしていたのは――加虐心。
 普段は暇潰しに大助で遊ぼうとしてきては、際限なく暴力を振るう女である。すでに日常茶飯事と受け止め、文句を言うことすらしなくなってきてはいたのだが、好きなだけ今までの反撃ができそうな状況になったとあれば話は別だ。
 壊れないよう慎重に、愛情を込めて、とろけきるまで優しく接して――大助の言うことならば疑いもせず頷くようにしてやらないと。
 鬱憤を晴らす最高のチャンスを逃すほど、バカじゃあないのだ。


------------


 性器同士が擦れ合い、亜梨子は熱っぽく息を吐く。
 とうとうこの時がきてしまった。恐怖がないと言えば嘘になる。けれど、大助にならという覚悟と安心感が勝って亜梨子の心を落ち着けていた。桜色に染まった頬でうっとりと大助を見上げると、柔らかい笑みを返される。お互いに、らしくない姿をしているのだろうなと亜梨子もまた微笑みを浮かべる。
 それが合図になった。少年の腰に力が入り、
「――いっ、ぁああっ!?」
 思い切り貫かれ、亜梨子は悲痛な叫び声を上げた。
 足の間から脳天まで電撃が走ったような激痛が駆け抜け、知らず大粒の涙がボロボロと頬を伝った。冷や汗が吹き出て、完全に脱ぎ切っていない服が肌に貼り付いて気持ちが悪い。虫憑きと戦い、それなりに大きな外傷を負ったことは何度もあったが、別種の痛みに視界が揺らぐ。
 指を入れられ圧迫感こそ覚えたものの、そこまでの痛みは感じなかった。性器を見た時、ここまで太い物が果たして無事に入るのだろうかと不安を覚えた。しかし、これは――想像を絶する痛みだ。
 彼に自分の初めてを捧げたのだと感傷や余韻に浸る余裕すらない。もっと、ロマンチックなものを想像していた。はにかみながら思い出せるような、痛みになどではなく、嬉しさに涙を流せるような、そんな人並みに女の子らしい夢を抱いていた。
「うあ、あううっ、いぅっ――いた、いあぁっ」
 ――痛い。
 苦しい。強引に中に突き入れられて、押し込まれて、抉られている。破られて、広げられて、下半身ごと裂かれてしまったかのように重くなる。自分でどんな声を上げてるかわからないまま、少しでも苦痛を和らげようと声帯を震わせながら結合部に目を向ける。丁度大助が性器を引きぬいたところだったらしく、自分の身体から出てきた棒状の塊は血で赤く濡れていた。
 クラリと眩暈がする。初めてで血が出るのは当たり前なのだろうが、あんなにも出るものなのだろうか? こんなにも痛みを伴うものなのだろうか?
身体が強張り、緊張に亜梨子の膣がぎゅっと締まる。それが更に圧迫感を強くし、痛みを格段に引き上げる。
「あ、い、いや――」
 再び中に押し込まれる。亜梨子の顔が、痛みに引き攣る。
 普通、もっと少しずつ入れていったりしないのだろうかと亜梨子は痛みに脳を荒らされながらも疑問に思う。まるで嫌がらせをするみたいに、かなり強引に入れられた気がして、「一つになる」と言うよりは「突っ込まれた」と表現したほうが正しいやり方だったように思えてならない。
 大助は、亜梨子に優しくしてくれる気などなかったのだろうか――。
 沸々と湧き上がる疑念に止めどなく涙が溢れ、鼻を啜って口を歪める。
「だ、大助……い、痛いよぅ……」
 助けを求めるみたいに少年を見上げると、いい子いい子と頭を撫でられた。それで痛みがなくなるわけではなかったが、安堵にしゃくりあげてしまう。
「痛いよな……お前、身体小さいもんな。俺の肩掴んでるか、首に手回しててもいいんだぞ?」
「だ、だめ……力が入らなくて……腕、持ち上げていられない……」
「じゃあ、手繋いでてやるから……力が入るようになったら、爪立ててもいいからな」
「う、うん……ぅん……」
 かつてないほど労わり深い表情を浮かべて、しっかりと亜梨子の手を握ってくれる大助。その手の温かさだけが亜梨子を繋いでいてくれるとばかりに何度も頷き、ぎゅっと目を瞑る。
「うっ、ううううぅ、あっ、あぅうっ、あ、あーっ、あぁぁあぁ……」
 大助の腰が動き、抜き差しされる度に濡れた声が駄々漏れた。刺も抜け切り、芯のないぐだぐだにふやけた痛ましい嬌声。
 亜梨子は自身の見通しが甘かっただけで、初めてはこんなものなのかもしれないと思いこみ、大助の甘い顔と言葉を信じきっていたのだが、もし経験済みの女性が今の亜梨子と同じ苦痛を味わったら、有り得ないとその間違いを正していただろう。開通したばかりで、時間をかけても痛みを感じる状態だというのに、それほどまでに容赦なく揺さぶり抜き差しされて少女の身体は激しく痙攣した。何度も何度も最奥を突かれまくり、お腹の中を掻き混ぜられる衝撃に「くるしい」と泣きじゃくる。
 ぐすぐすと嗚咽を漏らし、陰核や胸を弄られることで次第に痛み以外の感覚が戻ってきても身体の八割方は痛みで埋まり、嘘でも「気持ちよかった」などとは言えないことは明白だ。
「うゃぁぁっ、いひゃぁっ、ふくぅぅ…………ああっ、らいすけぇ、いいぃっ……あっ、あぅ、あっ、ぁあっ! ひぐっ、うぅっく、うっ、ぐずっ……はあぁうぅぅっ」
 血と愛液の混じった汁が畳に落ち、染みを広げる。
 失神してしまったほうがいっそ楽に思える所業を身に受けながら、亜梨子はそれでも圧し掛かる身体を跳ね退けることはせずに、必死になって耐え、受け入れ続けていた。

 それを見て、大助は、本来ならば一生かかっても手に入れられなかっただろう宝物を見つけ出した気になった。神聖で、かけがえのない、一途な何か。
 愛しさが身体から流れ出し、止まらない。黒い瞳が濡れて煌めく様は星を散りばめたようで、捕まえられない輝きを追うようにがむしゃらに血の気の引いた亜梨子の身体を抱き締めた。
「だい、すけ、大助、だいすけぇ、痛いよ……痛いよぅ……大助……」
 哀れみを誘う、幼さの残る声が耳の奥に響いて広がる。
 大切にしたい。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -