「いや、それはそうなんだが……嘘だろ? なあ、お前本当に子供の作り方とか知らないのか?」
「し、知ってるわよそのくらい。ええっと、雄しべが雌しべに……? 授業で聞いた覚えはあるのよ、ただほんのちょっと居眠りしちゃってたから、あんまり記憶にないだけで……教科書見ても、難しい言葉ばっかり書いてあるし……な、なによその顔は、本当に知ってるんだから!」
「……」
 いくら授業を聞いていなくとも、普通は友人に吹きこまれたりテレビや雑誌で見たりと自然に身につく知識のように思えるが。
 御林が言うには孤独な小学生時代だったらしいし、世間一般の常識をきちんと理解できる機会が少なかったのが理由かもしれない。他人に騙される、利用されるということも知らずに育っていたのだろう。だから、唯一周りに集まっていた男たちに何をされても素直に聞いていただけだった。
 遊びだと言われれば、そうなのかと頷いてしまう。その清らか過ぎる無防備さに付け込まれているとも知らず、間違った認識を常識として植え付けられた。自分のやっている行為がどんな意味を持つのかも教えられないまま、犯され続けた。
 余りの非人道的な行為に、吐き気さえ覚えた。数え切れないほどの虫憑きを欠落者に変え、顔色一つ変えようとしなかった悪魔が何をと思われることだろう。それでも。亜梨子がされてきたことを思えば、同情を禁じえなかった。
 例え、第二次成長が訪れていない頃であっても。事の本質に気付いた時、生涯癒えることのない傷になることだけは、間違いないのだから。
「どうして急に子供の作り方の話になったのか、よくわからないけど……そんなことより、遊ばないの? 大助も遊びたかったんでしょう? 前の友達は、みんな遊びたくなると大助みたいに私のことジッと眺めてたり何か言いたげにしてたもの。今日一日様子がおかしかったと思ってたけど、さっきピンときちゃった。当たりでしょう?」
 ぐいぐいと大助の服を引っ張って、得意気に笑う亜梨子。その度前の開いたパジャマから胸の先端が垣間見えて、痛ましさに顔を背けた。見てはいけないものを見てしまったことに胸がドクリと脈打ったが、この状況に興奮しているなどと認めたくはなかった。
 亜梨子の人生をぶち壊しにした、見ず知らずの男たちへの苛立ちがピークに達する。遊びたくないからと言ってボタンを止め直してやることは簡単だ。けれどそれでは、根本的な解決にはならない。
 亜梨子はまた、同じことを繰り返す。取り返しがつかなくなるまで繰り返されて、いつか深い絶望に落ちてしまう。
 これ以上道を踏み外す前に、真実を教えてやらねばならなかった。手順を踏んで、保健の教科書を捲りながら優しく説明してやらないと――。
「ってオイこらちょっと待て!」
「うるさいわね、静かにしなさいよ」
「お前が俺のズボンを下げようとするからだ!」
「そんなこと言って、ちょっと膨らんでるじゃない」
「こ、これは、お前がそんな恰好してるから、生理現象で――お、おいっ!」
 大助の足元に顔を埋めた亜梨子が、勝ち誇ったように股間を撫でる。ぞわぞわとした快感に腰が震え、突き放そうと頭を掴んだ少年の手から力が抜ける。その内にともたつきながらもベルトを外し、ズボンと下着を下ろした亜梨子の眼前に男性器が零れ出た。
「ん……忘れちゃってはいないと思うんだけど」
 すりすりと指先で撫で擦られる。半勃ちだった肉棒がピクリと跳ねた。
「や、やめろっての――こういうことは、そんなに簡単にしていいことじゃ……あぁっ、お、お前って奴は……!」
 根っこを掴まれ、あまり大きく動けない大助の先端を舌先で嘗める亜梨子。子猫がそうするように小さくぺろぺろされると、わかりやすく膨れ上がる。
 亜梨子の頭を掴んではいるものの力は全く入っておらず、本気で拒否しているわけではないのは大助も自覚していた。亜梨子と“遊んで”いた男達はずっとこんなことをさせていたのだろうと考えると抵抗感も沸いたが、ちゅぅっと敏感な粘膜に唇を押し付けられてしまうと再び気力が抜ける。その繰り返しだ。
「あー……んっ、んぅぅ」
 亀頭を唇で挟み、くまなく唾液をまぶすと大きく口を開けてしゃぶりついた。
 喉の奥を突いてしまいそうなくらい一気に全体を咥えられたその快感は、チロチロと申し訳程度に舐められていた時とは比にならない。亜梨子の口内に溜まっている唾液が茎に絡み付き、裏筋には温かい舌がぎゅっと押し当てられている。
「んっ、んっ、んっ……んむ、じゅうぅっ! ちゅむ、ちゅううっ……」
 飴を溶かすように丹念に舐められると、大助の理性までもが溶かされていくようだった。
 あの亜梨子が、自ら跪いて大助のものを奉仕している。男を悦ばせるためにだけ卓越されたのだろう技術もさることながら、何よりその事実が大助の興奮に直結していた。
 止める大助を無視して実行しているのだから普段と同じに振り回されていることに変わりはない気もするが、視覚的な部分も相まって思い通りに従わせているという錯覚が勝っている。
「さひっぽから、れれてきてう……ん、んくっ。あむ、らいすけ――」
「あ、亜梨子……っ」
 口に含まれたまま喋られる度、可愛らしい歯が表面を掠めていく。それすらも身体の芯を揺さぶり、足の付け根に荒く吐きだされた亜梨子の熱い息がかかると堪らなかった。
 いくら気持ちよかろうと、子供の作り方すら知らない奴にこんなことをさせては……。
 いや、しかし。これはこれで、実践的に教えるチャンスなのでは?
 先ほどまでの大助ならば「亜梨子を玩具にしてた奴らと変わらない」と一蹴していた考えだったが、性を吐きだしてしまいたい欲求と自制心とに悩まされていた大助にとっては都合よくこの行為に意味を持たせられる言い訳であった。
 大助はゴクリと一度喉を鳴らすと、亜梨子の頭をぎこちなく撫でる。
「亜梨子、下の……柔らかい部分も揉んでくれ」
 散々色々なことをさせられてきただろう亜梨子だが、そこは揉んだことがなかったらしい。まず、感じるなど思ってもみなかったようだ。ちょっと驚いたような、戸惑ったような顔が「初めて」を感じさせ、大助の気分を良くする。
「ちゅぱ、ぷはっ……こう?」
 指示されるまま睾丸をやわく揉む。恐る恐るといった様子で皮をつまみ、陰茎から離した口を率先して近付けた。
「ああ……あんまり強くやり過ぎるなよ。よく聞く男の急所ってのは、そこだからな」
「ふうん、それならこれからあなたをお仕置きするときは、ここを蹴るのが最適ってわけね」
「お前な……加減もなしにそんなことしたら本気で怒るからな。子供作れなくなったら、それこそ責任取ってもらうぞ」
「子供? 何か関係あるの?」
 そういえば、さっきも子供の作り方がどうとか言ってたわよねと食いついてくる亜梨子。
「……この中に精子ってのが溜まってるんだけど、それが女が持ってる卵子ってのと同じ場所に入って重なり合うと受精して子供ができる……って、言って分かるか?」
「よくわかんない」
「だよな」
 とはいえ、植物を通した説明でもわからなかったらしいし。知識ゼロの人間に説明するのは、なかなか骨が折れそうだ。
「ふにゃふにゃしてて、なんだか面白いわね」
 皺を舌で伸ばし、睾丸から付け根に鼻先を埋めて茎にかけてをなぞっていく。
 楽しそうに舌を出して上目遣いに見られるというのは、予想以上に腰にきた。いつ出してもおかしくない熱をまぎらわすように亜梨子の髪を弄っていたが、限界も近い。
「亜梨子、口離せ……っ」
「んっ? ふゃあっ? きゃ――」
 先端やカリをはむはむと唇で刺激していた少女の頭を引き剥がすと同時、その顔に大量の白濁液を注いでいった。
「あ、髪に……もうっ」
 謝ろうとしても言葉にならず、荒く息を吐き出す。任務で忙しく、あまり処理できずにいたツケが回ってきた。顔だけでなく額にかかっていた前髪にまでかかり、ねっとりと伝って顎へと落ちる。
「あのままにしておいてくれれば、全部飲んであげたのに……バカ大助」
 全部飲めれば誉めてもらえるのだとでも言われたのだろう。私は悪くないわよ、と膨れっ面だ。
「亜梨子、これにさっき言った精子ってのががいっぱい入ってるんだ」
 目に入ったら危険なので、顔に付着した精液を指で拭ってやる。と、亜梨子がその指をしゃぶった。もぐもぐ咀嚼するように口を動かしてから、喉が動く。
「他の人も、同じような味しかしなかった気がするけど。んん……これで赤ちゃんが作れちゃうってことは、らんし? っていうのは、どこにあるの?」
「それは……」
 言っていいのか?
 それを知った時、泣いて後悔する亜梨子の姿は想像に難くない。そんな顔をさせたくはない。けれど――
 やはり、このままには、させられない。
「……亜梨子」
 近くに置いてあったスポーツバッグの中から避妊具を取り出し、いくつかポケットに忍ばせる。
 まだ精液を舐め取っていた亜梨子をそっと畳に倒して、下着を脱がせた。
「あっ! あっ、大助ぇ、そこっ……いいの、触られると、気持ちよくて……はぁ、あぁんっ……んあ、ぁあっ」
 すでに濡れそぼっていた股間をぐしゅぐしゅと上下に擦ると、亜梨子が切なげに喘いだ。
 何人もの男に使われてきたとは思えないくらい、綺麗なピンク色をしている。反応だけは一丁前で、ぷっくりとした膨らみを押し潰すと泣きそうな顔をして大助の服を掴んで引っ張った。
 使い慣らされているようだし、これだけ濡れていれば指の二本くらいすんなり入ると思ったが、これ以上入るのか心配になるほど小さくて狭い。
「ほら。指入ってるの、わかるか?」
「わっ、わかるわよ……大助の、ああっ、ごつごつしてて……はぁぁっ」
「この中だよ、卵子ってのがあるのは。正確には、もっと奥な。この、お腹の辺りに……」
 子宮がある辺りをもう片方の手で撫でてやる。亜梨子が、はあはあとよくわかっていない顔をしながら気持ちよさそうに呼吸を繰り返した。
「今俺の指が入ってる所なんかよりももっと深い場所に、さっきお前が飲んだアレを入れると……赤ちゃんができちゃうってこと」
「……? ……ふぇ? でも、それっておかしいわよ……中に、熱いのいっぱい、出されちゃったりしたけど……できたことなんてないもの。それに、こんな……ぁあっ、あ、遊びで……ふえぇっ、赤ちゃんできちゃったら大変じゃない……なんでそんな嘘吐くの? 大助って、ぃ、意地悪ばっかり、いう……きゃんんっ!」
「それは、その時お前にまだ生理がきてなかったからだよ。一ヶ月に一回、くるだろ? 血出て、お腹痛くなるやつ」
「ば、バカぁっ……そういう、デリカシーのないこと……き、き、きてるけど……汚いから、人に言っちゃ……駄目なことで……ううっ、ば、バカ」
「バカはお前だ。アレがくるようになると、赤ちゃんもできるようになるって言ってるんだ。わかるか? だから、今俺に中出しされたら、お前のお腹大きくなっちまうんだよ」
 指を抜き、ポケットに入れておいた避妊具を性器に嵌めていく。
 まだ大助が嘘を吐いていると思っているのか、言われたことが受けいられないのか、亜梨子は大助の顔と自分の下半身を交互に見つめて「で、でも」と首を振る。
「み、みんな、遊びだって……みんなやってる普通のことなんだって、言ってたもの……。気持ちいいことなんだって……みんな好きなことなんだって言われて……えっ……? あ、私、生理の説明、学校で……聞いて……赤ちゃん……あれ……?」
 今までしてきたことや、聞いたことを思い出しているのだろう。
 亜梨子はやっと、この行為が遊びと言うにはどこかおかしいものなのだと疑い始めたようだった。
 大助の言っていることは真実なのかもしれない。でも、それが真実だとしたら、今まで友達から教えられてたことは……。どんな風に、どちらを信じたらいいのかわからないというような、もうどちらも信じられないというような、ひきつった顔。
「する度子供ができたら困るだろ? だからこういう、これをしておけば子供ができる心配もなくなるっていう避妊具ってのがある」
「え? えっ?」
「それでも、好きな奴以外と軽い気持ちでしたらいけないことなんだからな。お前が今までしてきたのは……そういうことなんだよ」
「ち、ちょっと待って……どういうことなの? 意味が……わからないわ。だって、私……だって、だって……あっ、やぁっ」
 思うように言葉を紡げないでいる亜梨子の姿を見ながら、性器同士を数度擦り合わせる。くちゅくちゅと音を立てて愛液が絡み、早々に入れてしまいたくなる気持ちを抑えきれない。
「亜梨子。俺は今からお前のことを犯すけど、これは遊びなんかじゃない。……ごめんな」
「だ、大助……ま、待って、まっ……ひゃあっあぁぁっっ! はあぁぁっ……!」
 労わりたい気持ちに、凶暴な欲求が勝った。
 ひくひくと蠢く入口に誘われるようにして、腰を進める。亜梨子の小さな身体に大助のモノは大きすぎるのか、強いくらいに締め付けられて低く呻く。
 性器を見た時も思ったが、慣れているとは思えない身体だ。全く緩んでいる様子がないし、誰にも触れられたことがないと言われても納得してしまいそうなほど綺麗だった。
「あうぁっ……やあ、あくぅ……っ! はぁっ、あああ……」
 せめて負担を掛けないようゆっくり動いていこうと思っていたのに、堪らず一気に挿入してしまう。
 武道を習っている分、他の人間より締まりがいいのかもしれない。強引に押し広げられている亜梨子の中は、トロトロに溶けながらも健気に大助を包んで纏わりついてきていた。
「気持ちいいよ、亜梨子……っ!」
「私も、きっ気持ちいいけど……待って、大助まってぇえ……すごい、すごいのに、こんなに気持ちいいのに……どうしたらいいのかわからないの! だ、駄目なのっ……? い、いひゃぁっ、あっ、あっぁ……いけないこと、なのっ? わかんない……わかんらいのよぅ……ぅうっ、ぅぁあんっ……あ、あーっ、あううううっ」
 言葉の合間合間に容赦ないピストンを繰り返し、呂律が回らなくなってふにゃふにゃと崩れていく亜梨子の様子をじっくりと視姦する。潤んだ瞳に愛しさが湧いて出て、腰を打ちつけながら額や鼻先に口付ける。
 剥き出しの細い肩が畳に擦れて赤くなっていることに気付き、畳と肌の間に手を差し込んで抱きしめた。
「だいすけぇっ、私、私……どうしたらっ……ああっ! あんんんんっ! ひっ、くぅっ、ふあっ!」
 浅く突きまくり、亀頭をぐりぐりと最奥へ擦り付ける。膣口に押し付けられているそれを恐れるかのように亜梨子の身体がガクガク震え、背中が跳ねた。
「ここで出されたら、お前の中に精子が入って……妊娠する可能性もある。ちゃんと、わかったか?」
「あ、あ、う……だ、大助……だいすけぇ」
「もう絶対、避妊具も付けずにしたら駄目だからな。付けるからって言われても、好きな奴と以外したら駄目なんだ」
 説教している自分が、亜梨子を犯している。なんとも矛盾した行為で我ながら失笑が漏れたが、亜梨子に性教育を施すためなどという理由が体の良い言い訳でしかなかったことなどもうとっくに気が付いていた。
 亜梨子の身体を、骨の髄まで味わった人間がいる。それが忌々しくて、羨ましくて、一度でもいいから自分も亜梨子を抱きたかっただけなのだ。嫌われても憎まれても構わない、それでもう他の男に身体を明け渡さないというのなら満足だった。
 ただ一人占めして、名前を呼びながら抱きしめてみたかった。
「亜梨子、亜梨子、亜梨子……」
「や、やああ、大助……っ、お、奥が……も、もっと、ああ、ちが、だめ、だめぇ、おかしくなっちゃ……んっっあぁっっ! ああっっ……!」
 ぐちゃぐちゃと水音を立てて膣壁を擦り、お腹を突き上げるごとに甘く身悶える亜梨子は、懐かしくも覚えきっている快感と今更に知った行為への恐怖がせめぎ合っているようだった。
 大助の背中に腕を回し、ぎゅっとしがみついてくる。
 そんな一つ一つの動作に罪悪感と愛しさが膨れ上がる。
 幼い肢体に圧し掛かられ、いっぱいいっぱいまで足を開かされて中を抉られる激感に翻弄されて泣いているのに、腰の動きを止められる気はしなかった。
 あまりの気持ちよさに、夢中になって抽送する。
 これでゴムを着けているのだから恐ろしい。もし生のまま中に入れたら、それだけで出してしまいそうなくらい気持ちいいのではなかろうか。
 きゅうきゅうと締め付けを繰り返し、複雑に絡みつく亜梨子の中は居心地が良すぎて頭がおかしくなってしまいそうだった。
「だいすけぇぇ……い、いっちゃうう……やっぱり、きもちいい……いっちゃいそうっ……」
「俺も、俺もイく……亜梨子、もう……っ」
 亜梨子も一緒に腰を捻って、どんどん上乗せされていく快楽に身を委ねる。
 大助の胸に顔を埋めて力の限りに抱きしめてくる亜梨子を、彼もまた抱きしめ返した。そのまま腰も密着させ、膣口を圧迫すると亜梨子の身体が一段と大きく跳ねて震え始める。
 根元からぐいぐいと引っ張られる思いがして、きゅうっ! と膣口が締まった瞬間、大助の中で何かの回路が焼き切れた。
「う、う、ひ、ひぁ、あぅっ……あぁあっ、ふああぁぁぁっっ!!」
 せき止めていた熱が溢れ出し、大量に射精する。
 ビクビクと脈打つ陰茎に合わせて、膣内が収縮して絞ってくる。中出ししているような征服感が大助に火をつけ、全てを出しきるまで長い時間根元までを咥えさせたままでいた。
「はあっ、はぁっ、はあ……はー……」
「はうぅ……うぅ、はぁ、ふ……うっ、うぅっ……」
 亜梨子の腕がパタリと床に落ち、失神するみたいに全身の力を抜いて大助と身を離した時、亜梨子の頬を汗ではない滴が一筋伝う。
 快楽の波が引いていき、冷めた身体に残ったのは果てしない自責の念だけだった。即座に愛液に濡れた性器を引き抜くと、白濁液の溜まったゴムを取り捨てる。
「あ……わ、私……私がしてきたことって……あの人達にされたことって、何だったの……? と、友達だと思ってたのに……う、嘘吐かれてた……の? しっ、したらいけないことだったの?」
 流れ出す涙は一つ言葉を漏らす度に増え、勢いを増してボタボタと畳に落ちた。顔を真っ青にして、しゃくりあげる。
「こ、こんなに気持ちいいこと、初めてで……っ。み、みんなしてるのかと、思ってたの……私だけ知らなかったんだって言われて、し、信じてたのに……ご、ごめん……ごめんなさい、大助……あなたがどうしてあんなに怒るのか、わからなかったの……大助、変だったから……元気になって、もらおうって、思ってたの。ごめんなさい、ごめんなさぃ……ごめっ……」
「なんでお前が謝るんだ、バカ……。謝らなきゃいけないのは、俺の方なのに――ごめん、ごめんな」
 一度離した身体を、ぐっと引き寄せて目元を拭う。
 大助のしたことは、かつて亜梨子を遊びに使っていた連中と同じだった。言い訳ばかり重ねて、自己を正当化して、亜梨子を食い物にして……そこまで自覚していながら、少女を自分のものにしていたことに支配欲が満たされている。
 大助はただ、亜梨子の身体を自分以外の人間が触れていたことに対して、我慢がならなかっただけなのだ。
「でも、もう……わかっただろ? これは遊びじゃないって。セックスっていう、子供を作るためにする行為なんだよ。本気でしてもいいって思った奴以外としたらいけないし、気持ちよくもないし、人生台無しにするようなことなんだ。だから、だからさ、亜梨子……悪かった。わからせてやらなきゃって思ってたはずなのに、俺……」
「大助……」
 殴られる。監視任務も、別の人間に変えろとどやされるだろう。きっと、いや、絶対に追い出される。
 そう覚悟した大助の髪を、小さな手が優しく撫でた。
「今日、ジュースをね、買いに行った時に……友達に会ったって言ったでしょう?」
「あ、ああ」
「その友達って言うのが、これを教えてくれた……ううん、これを遊びなんだって私に教えてきた人の一人だったの……」
「……!」
 帰りが遅いのはまさか、と疑っていた、噂を聞いたばかりの自分。
 あの疑いが事実になろうとしていたとハッキリ亜梨子の口から聞いて、ゾッとした。
「本当は、またみんなでしようって誘われたの……でも、私は摩理の調査があったから、また今度ねって断った。大助が、いたからよ」
「それは……違うだろ。俺がいなくても、お前は……」
「違わないわ。大助がいなかった頃の私は、摩理の調査なんてしてなかったもの。だから、誘われていたらついて行ったんじゃないかしら。だから、あなたのおかげ」
 大助がいなければ、これがどんなことなのかも知らなかった。気持ちよくて、好きなことだと思っていたからと少し悲しげに語る亜梨子の表情の中には、未だ羞恥というものは見えなかった。
 それに、やはり認識をおかしくさせられていたことの後遺症は残っているのだと思い知らされる。
「もし、またそいつらに声かけられても、絶対にこんなことしたら駄目だからな」
「……うん」
「じゃあ、風呂入ってきたらちゃんと服着ろ。俺は男でお前は女なんだから、裸のままでいるのは「恥ずかしい」。そうだろ?」
「……うん」
 言っても、亜梨子は大助の頭を撫でたまま離そうとしない。
「……やっぱり、気にしてるか? 俺と、その……したこと」
「ううん、気にはしてないわ。気持ちよかったし」
「お前な……」
 そこは気にしてないと駄目だろ、と軽く小突く。いくら避妊していたからといって、危険性は付きまとうし途中からは半ば無理矢理だったのだ。こんな様子でこれから先大丈夫だろうか、と些か不安になってくる。
「大助」
 何だよ――と言おうとして、言葉がでなかった。
 それもそのはず、大助の唇は、亜梨子のふんわりとした唇によって塞がれていたのだから。
「あっ、亜梨子……?」
 呆けたように名前を呼んだ。亜梨子が、まるで初体験を迎えた後のようにそっとはにかむ。
「ずっと当たり前のこだと思ってたから、まだ、実感は湧かないけど――もうしないわ」
 あなたに教えてもらったから、と言われた気がした。
 言葉にされたわけではなかったけれど、亜梨子は思っていることがすぐ顔に出るため読み取るのは容易だ。
「ごめんなさい」
 再び、くしゃりと顔が歪む。
 汗や涎でぐちゃぐちゃになった顔に涙まで加わり、収拾がつかなくなっている。一度溜息を吐くと、仕方なしに抱き締め直す。
 せめて、涙が渇くまでこうしていよう。柔らかな感触を腕の中に感じながら、それくらいの言い訳なら許されるだろうと独りごちた。



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