彼を初めて父に紹介された日。
 私は童話に出てくるお姫様になったような気分に陥った。
 光を受けてキラキラと輝く鮮やかな金髪に、チョコレートを思わせる柔らかなブラウンの瞳。実年齢よりも大人っぽい雰囲気を纏わせる、細めの身体と小さく整った顔立ち。テレビの中や、絵本の中でしか見たことのない煌びやかな容姿。
 その姿はまるで――――


「まるで、王子様みたいね」
 病室のベッドに座った少女が、何かを見つけたように窓の外を眺めてクスリと笑う。亜梨子は親友である花城摩理が何を見てそう呟いたのか考えるまでもなくわかってしまい、心臓が跳ねると同時に顔が緩んだ。
 亜梨子のそんな様子を、摩理は目敏く察したらしい。からかうみたいに上気した頬をつついてくる。
「ここだけじゃなく、学校の送り迎えまでしてくれるのでしょう? お姫様扱いじゃない」
「それはそうだけど……もう、摩理!からかってるでしょう!」
 頬の赤みをそのままに、亜梨子はお返しよと摩理の頬をつねった。
 それでも笑うことをやめない摩理は、毎日のようにこの病室に通っている亜梨子でさえ見たことがないくらい楽しそうだ。
「お兄さんは、よっぽど亜梨子が可愛いのよ」
「そ、そんなことないわよ。普通よ、ふつう――」
「何が普通なんだ?」
 扉が開く音と同時に、聞き慣れた声。亜梨子はパッと顔を輝かせ、「お兄様!」とポニィテールを跳ねさせた。
「こんにちは、亜梨子のお兄さん」
 先ほどまでの含み笑いから一転、外行きの慎ましい笑顔で挨拶する摩理。病室に入ってきた二十代半ばほどの青年は、いつも妹が世話になってるなと亜梨子の頭に手を乗せた。
 大きくて温かい手の平は、亜梨子が幼い頃から側にあったものだ。こうして触れられるたび、青年の態度がまだぎこちなかった幼少期を思い出す。
 一之黒カシュア。
 父が養子にと招いた、亜梨子の義理の兄である。
 血の繋がっていない彼は、顔立ちから髪や瞳の色、どれをとっても当たり前のように亜梨子と同じものがない。カシュアと亜梨子が並んで立っていたとして、知らない者には兄妹とは見られないのだろう。
 だが、亜梨子にとって血の繋がりなど些細なことだった。それはきっと、カシュアも同じだ。
 仕事で家にいることのほうが少ない父の代わりに、いつだって亜梨子の側にいてくれて。十年近くもの月日を、家族として過ごしたのだから。
 大好きなたった一人の兄であることに、何の変わりもない。
「じゃあまた明日ね、摩理」
「ええ、また明日……あ、ちょっと待って」
 椅子から立ち上がったところを引き留められる。
 摩理が本棚に手を伸ばし、一冊引き抜いて亜梨子へと差し出した。絵本のようだ。眠り姫と書かれたタイトルには、亜梨子も見覚えがある。
「私から亜梨子に、プレゼント。お兄さんに読んでもらうといいわ」








なに書きたかったかわからなくなったのでボツ




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