日に日に痩せ細っていく身体。それに呼応するかのように足や腕に力が入らなくなることが増え、コップを取り落としたり何もない場所で転んだりという場面を何度も見かけていた。最近では、まるで誰かの代わりと言わんばかりに、唐突に意識を失い眠りにつこうとすることすらあった。
 誰の目にもわかる、明らかな症状の悪化。
 大助がフォローしてやらなければ、日常生活すらまともに送れないかもしれないところまで侵攻している。寝たら治るから心配しないで、といった言葉では済ませられない度を越えた異変だ。
 モルフォ蝶と花城摩理。
 そのどちらかが――どちらもが少女の身体を蝕み、存在をまるごとなくしてしまう気なのかもしれない。腕に抱いた少女は重みが消え失せてしまったように軽かった。脱皮した後の抜け殻なのだと言われたら、納得して信じてしまいそうなほどに。
 一之黒亜梨子という人間をとても希薄に感じた。感情の振り幅が大きく、快活だった大助のよく知る彼女の姿は実は幻だったんです――そんな風に掻き消えてしまうんじゃないか、沸き立つ不安から逃れたくて亜梨子の手をぐっと握って身体ごと抱き寄せる。
「ん……大助?」
 意識が戻ったらしい亜梨子の声が、大助の胸に埋まってくぐもって聞こえた。
 起こしてしまった。このままでいたら殴られることは確実だったし、何とからかわれるかわからない。離れて言い訳を重ねるべきだと理解はしているのに、けれど腕の拘束を緩めることはしなかった。
 小さくて柔らかくて華奢な身体。
 大助が離したらどこかへいってしまわないだろうか。再び眠りについてもう永遠に目覚めることはないのではないだろうか。染み付いて消えない不安は執着心に似ていて、物欲のような衝動が大助の思考を塗り潰す。窮屈な股間に、自分が欲情していることに気付き愕然とする。訳がわからなかった。ただ、ばつが悪くて顔を合わせたくないがためだけに抱き締め続ける。




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