小さな子供を寝かし付けるように背中を擦ってやる。
 大助の肩に額を当てていた少女の力が抜け、ずるずると胸に埋まった。どうやら、泣き疲れて眠ってしまったようだ。
 目の下を真っ赤にしながらも安心した様子で寝息をたてている亜梨子。
 その姿を痛ましくと思うと同時、ようやく解放されたと安心している自分がいた。
 起きている時の亜梨子は、何をしでかすかわからない。以前のように不自然なほど生き生きとしていたかと思えば、唐突に謝りながら泣き始める。次の瞬間には怒り始め、また泣いて謝っては大助に甘えてくる。物を壊す、自傷に走る、自慰に耽る、そんなことも一度や二度じゃない。
 疲れていた。 少女の悲痛な声が聞こえなくなった途端に、とんでもない疲労が大助を襲うのだ。
 亜梨子を構っているときの自分は、異常だ。おかしくなっている。間違っている、どころの話じゃなくなっている。
 亜梨子に関われば関わった分だけ、歪められていく――そう感じるのは、俺の錯覚なのだろうか?
 気が付けば、特環の任務を放棄してまで亜梨子の側にいることもあった。
 そんなことを続ければ、またいつ二号指定に降ろされるかわかったものじゃあないというのに。
 必要とされている感覚が、心地好かった。好きなのは亜梨子自身ではなく、その感覚なのかもしれないと思うほどに。甘く、甘く、優しく染み込むように、大助の心を満たすのだ。
 けれど、同時に鬱陶しくも感じていた。弱く、守ってやらねば生きていけない存在を前に、何故自分を犠牲にしてまでついててやらなきゃならないんだとも思っていた。
 苦しい。
 つらい。
 ……苦しくて、仕方がない。
 大助のシャツを握りしめ、眠りながらも離そうとしない少女が愛しくて仕方がない。

「…………亜梨子……」

 今にも泣き出しそうに掠れた声は、本当に自分が発したものなのか。





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