破壊の美学



「ジャック団長〜〜っ!!」

ダダダダダッ

まるでイノシシように突っ込んできたのは、翠緑の蟷螂団の団員である**だった。

「っ、だん、だんちょ、任務終わりましたっ、」
「カカカ、遅かったなァ」
「めちゃくちゃ頑張りましたからね!?」

ゲホッ、ゲホッ、と咳き込むほどには全力疾走してきた**。この任務で、ちょうど10個目の星を獲得した案外仕事ができる団員だった。

「今回の任務で、ちょうど、10個です!!ジャック団長!!」
「とりあえず肩揉め」
「仕事を終えて疲れた部下にもドS!!」

約束のもの!!団長!!早くください!!!

そう叫びながら、一心不乱にジャックの肩を揉む**。うるせぇなァ、そう呟きながらポケットの中をごそごそと漁るジャックに、**は息を荒ぶらせて口元を歪めた。

「カカカ、持ってけドロボォ〜」
「っほあぁぁぁぁあっ…!!!」

ジャックが取り出したのは、一枚の写真だった。

「テメー顔面気持ちわりぃぜェ?」
「〜〜っ尊い!!なんと高貴なお顔なんでしょうか…っ!!」
「仮面で半分隠れてんだろうが」
「ああぁぁぁぁっ、一生ついて生きます…っ!!ウィリアム団長…っ!!」
「そこは俺についてこいよぉ?」

写真の中に写っているのは、にこやかに微笑む金色の夜明け団団長のウィリアム・ヴァンジャンスだった。盗撮と言える角度ではあるが、それでもばっちりと笑顔は分かる。

まるで写真に土下座をするように正座をして頭を下げる**に、顔を引きつらせてドン引きするのはもう嫌という程行って来た行為だ。

黙っていればかなり美人の部類に属されるのに、たった5秒でそれを裏切ってくる、それが**という女だった。

「だめだ…かっこよすぎて写真が直視できない…」
「オマエ、今度の入団試験来るかァ?そいつ来「団長大好き!!一生ついていきます!!!」

ジャック団長ォォ〜〜!!

そう叫びながらその背中に抱きつく**。うぜ〜うぜ〜と繰り返すが、小生意気で小憎たらしいなんとも可愛い妹のような存在になりつつある**に、本気でそう思うことはなく。

星を3つ獲得したらヴァンジャンスの写真を一枚。10個などきりがいい数字になればボーナスで一枚。
現在**の手元にある三枚の写真は、本来なら魔法が記入されるであろうグリモワールの最後のページから順にはっつけられている。

「テメー、写真増えるほど魔法が書かれるページが少なくなるじゃねぇか」
「それまでには専用写真入れファイルを購入します!」

ペタペタとグリモワールに貼りつけていく**。前にもらっていた三枚を見返しては、にっこりと笑うのだ。

「キモチワリィ」
「乙女に向かって失礼な!!!!」

ヴァンジャンス大好き人間**。その想いの始まりは単純明快、ヴァンジャンスに助けられた事だった。


:
:

「チッ……」

よくある話だ。
ダンジョン攻略中に、ダイヤモンド王国の奴らが襲って来た。

仲間は全滅、残っているのは私だけ。私をぐるりと囲む敵さんを数える気にすらならない。
少ない魔力が私自身の死を直感させた。

「ははっ、なんだその鎌は、ダイヤモンドか?」
「宝石とともにうちに持って帰ろうぜ!戦利品だってな!」
「うちの国に来るべきだったなぁ、嬢ちゃん」

魔法属性、ダイヤモンド。
そんなめでたい私の魔法だ。ダイヤモンド王国にとったら欲しいでしかないだろう。

「生け捕りにするか」
「そうだな」
「この女もなかなかの上玉だしな」

逃げるという選択肢も考えた。だがこのダンジョンの中、頼りにしていた道しるべ役が倒れ、私一人じゃ到底出られない。
残り少ない魔力を使って戦う?
体力もほぼない。気力で立っているようなものだ。
自分の死は確定だ。
まぁそんなものはどうでもいいが、こんな敵にヤイヤイ言われるのは癪だ。リーダーである男に目を向けた。

「……殺す」
「強気なねぇちゃんは好きだぜ?」

どうせこんな世界だ。生きてたってなんの価値もない。
このまま生きたところで、金にしか目がない貴族に汚い手で触られるだけだ。
ダイヤを出せと王族が言うだけだ。

こんなドブみたいに汚い世界から、早く消え去りたかった。

「お前を殺して私も死ぬ」
「ははっ、心中?いいね、その強気、好きだぜ?」

ぐっと大鎌を握りしめた。魔力を込めて、硬度を上げる。
人肉なんて豆腐のように切れる高度まで練り上げれば、もう魔力はほぼ底を尽きていた。

「やっちまえ!!」

そんな声と同時に、鎌を振り回した。
もう死んでもいいや。どうせ、こんな世界には何もない。

:
:

「クソ…半分もやられたぜ…」
「手間取らせやがって」

何分くらい戦ったのか、なんにせよ、私の体力も魔力も底を尽き、地面に倒れこむ私の頭を踏みつける敵に、さっさと死んどけばよかったと後悔した。

「どうする?この女」
「とりあえず拘束すっか」

両手と両足を拘束され、グリモワールを押収された。もう為すすべ無し。このままダイヤモンド王国に連れて行かれ、拷問などを受けるのかもしれない。

どうあったって人間は醜い。
意地汚い奴らばかりだ。

早く、殺してくれたらいいものを。

「…お前、ほんとそそる顔してるよな」
「っ…、」

髪を掴まれぐっと持ち上げられる。
ニヤリと汚く笑う視線と目があった。女を品のように見るこの目線に鳥肌が立つ。

「…ヤるか?ここで」
「賛成〜〜」
「こんな美人、そうそうヤれねぇぞ」

そう言って一人の男が私の上に乗っかって来た。
会話の流れ的に、やばい、と本能が警告を出した。

「っはなれろ、!」
「今まで澄ました顔してたけどさすがに焦ったか?」
「怯えちゃってかわいいね〜」

汚い手が胸元の服に触れ、シャツを裂くように左右に引っ張った。

ぶち、ぶち、ぶちっ、

弾け飛ぶボタン。体が冷気に晒され、頭が真っ白になる。

「やめろっ、!死ね!!」
「口が悪い子にはお仕置きだなぁ〜」

ニヤニヤと汚い笑顔。あまりの嫌悪感に目に涙が溜まる。
くそ、泣きなくなんてないのに。

ビリビリッ…ブチッ…

キャミもブラもとうとう引き裂かれ、素肌が外気に触れた。
羞恥心と、嫌悪感で頭の中がぐちゃぐちゃだ。

「っやめろ!離せ!クソが…ッ」
「いいね、お前そそるわ」
「綺麗な身体してんだな」
「死ね、!あ、やめっ、触るな!!」

こんなところで、レイプなんて。こいつら狂ってる。近くに仲間の死体が転がってるってのに。

体を変になぞる手がくすぐったくて気持ち悪くてよじってみたが、拘束されてる身で、体力も力もない私が抵抗なんてできるはずもなかった。ポロ、と目から涙がこぼれ落ちた。

悔しい、汚い、気持ち悪い、嫌だ、

ーーっ、誰か、助けて……っ、!

「うわぁぁぁっ!!?」
「なっなんだこれッ、ギャァァっ!!」

その時、あたりの男が一斉に宙へと舞った。呆然とその光景を見るしかできなかった。突如現れた木が、男たちを吸収していったのだ。

「………っ?」
「大丈夫かい?」

やさしい声だった。
慌てて声の方に視線を向ければ、確か金色の夜明けとかいう団の団長の男。顔の半分が仮面で覆われていたから、胡散臭い、が第一印象だったっけ。

「もう少し早く着ければ良かったんだが…」

そう悲しそうな声で、私の肩には彼のマントがかけられた。肌触りのいい布が身を包む。たった一枚の布切れなのに、とても暖かく感じた。

「怖かっただろう…だがもう大丈夫だ」

心を溶かされるような、ひどく安心できる声だった。一瞬止まっていた涙が、またボロボロと零れ落ちる。

さっきまでの感覚が、全て恐怖となって襲ってきた。

「ーーっ、こわ、かった、…ッ!」
「あぁ…」
「死んだ方が、ヒック…ましだって、思った、…!」
「君が生きてて良かった」
「〜〜っ、ふぇ、…ひっく、うぅ、…」

仮面の団長の服にしがみついて、声を荒げて子供のように泣きじゃくった。泣くなんて、いつぶりだろうか、そんなことが頭の片隅によぎった。

ひどく安心できた。生きてて良かった。
この世界も、まだ捨てたもんじゃないって思えた。

「さぁ、王国に帰ろう。きっとジャックが待っているよ」
「った、てな、…っ」

スッと立ち上がった仮面の団長を掴んでみたが、体もボロボロでしかも腰が抜けて、足が使い物にならなくなっていた。どうしよう、と焦っていたら、なんともまた素敵な声で、「失礼、」と聞こえた。

「っわわ、!」
「少しの間我慢していてくれるかな?」

ふわ、と体が持ち上げられる。

謂わゆるお姫様抱っこというやつで。

「〜〜っ、わ、わたし重いので…ッ」
「そんなことないさ。それに、私もそこまで弱くないからね」

なんだこれは。

なんなんだこれは。

生きてきた中で、こんな風に女の子扱いなんてされたことがない。

ダイヤモンドは裂きごたえがあるからといって私を入団させたあのクソ団長は、私をパシリのようにコキ使うし、そんな団長のそんな団員もまた然り。
女の子扱いなんて、生まれてこのかたされたことがなかったというのに。

「〜〜っ、」
「?どうかしたかい?」
「あ、え、そ、そのっ…〜〜っ、は、恥ずかしくて…ッ、」

顔が熱い。
心臓がばくばくいって、胸がキュゥゥと締め付けられて苦しい。

泣きそうなほど恥ずかしくて、どこに視線を向ければいいのかわからなかった。

クス…
そんなパニック状態の時に、耳をくすぐったのは小さな笑い声。

「な、ななななにかっ、変ですか…ッ!?」
「いや、失礼…君をクールな女性だと思っていたが…、そんな表情もできるんだね」
「えっ、?ど、どんな…?」
「表情が豊かな方が可愛らしいよ、きみは」

表情が豊かな方が可愛らしいよ

豊かな方が可愛らしいよ

可愛らしいよ

可愛らし…………

「〜〜っ、!?!?」

だめだ、キャパオーバー。
思考停止、思考停止。

考えることを放棄します。

「おや…?眠ってしまったかな?」

かわいいなんて、言ってくれる人がこの世にいたなんて。
きっと夢だ。これは夢。おやすみ世界、幸せのまま永遠に眠りますように……。

:
:

「……ぐふふ、」
「気持ち悪りぃ……」

にやけ顔で写真を眺める**に思わず本音が出た。

ある日、ヴァンジャンスに抱き抱えられながらボロカスになって帰ってきたこいつを見て肝が冷えたが、その日以来別人のように変わった**に、毒でも飲んだか?と何回聞いたことか。

死んだような眼をしていたのに、突然女らしくなったこいつに団員もよく戸惑った。
日に日に女子力が増していく**に、パシッてたのが嘘のようにえらく優しくするようになった団員。

俺も然り。

「オマエ、本当にそいつが好きなんだなぁー」
「はい!今すぐここをやめて金色の夜明けに行きたいくらいは!」
「切り裂くぞテメェ」

はぁ…と、ため息が漏れた。疲れる。このテンションが疲れる。

嘘か本気かわからねぇことを言う**に何度ため息が漏れたか。

「でも私は好きな人と隣に並びたいタイプなので、」

ふざけた声が、途端に切り替わる。
昔のような闘争心バリバリの声だ。

入団試験で、対戦相手を殺す勢いで大鎌を振ったときのあの雰囲気に似ている。
この声が堪らず俺の戦闘欲を駆り立てた。

「翠緑の蟷螂団の団長になって、あの人の隣に並びます」
「……カカッ…、言うようになったなぁ〜、**〜」

ギラギラと獲物を狩るような瞳は嫌いじゃない。
ここまで上がってこい、と本能が疼く。お前のダイヤモンドを裂くのは、オレだ。

破壊の美学
「ってなわけでとりあえず酒買ってこい」
「文脈おかしくないですか!?」



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