症状そのいち、なみだ



この王国には、ならず者がいる。

「半端者め」
「穢らわしい血」
「お前は貴族でもなんでもない」
「貴方は魔女なんかじゃないわ」
「あの子だよ、人ならざる者で、ならず者って言われてる…」

魔女の母親と、貴族の父親が駆け落ちをして産み出された、魔女と貴族の血を持つ少女。
魔女の国でも、クローバー王国でも、そんな混血の彼女を誰も認めなかった。

迫害され、罵られ、除け者にされ。
2つの国の暗躍によって、両親である魔女も貴族も殺された。そして忌み子である少女を、両国の交渉カードとして是が非にも国が手に入れようとしているところに、ある人が少女に手を差し伸べた。

「人間が憎いかい?」

そんな謳い文句から始まった。
齢9つの少女は、ゆっくりと目線を上げれば、そこには神様のような神々しい姿で微笑む、やけに整った顔立ちの青年が。

「……誰ですか、」
「名前はリヒト。それ以上を知りたかったら君が質問に答えてくれるかな?」

あれ、質問、なんだっけ。
ボロ雑巾のように国から逃げ回っている少女は、なんの考えもなしに差し出された手を取った。
なんとなく、この人なら助けてくれる、そう思って。

「…肯定、という意味だね。」

そうなのかな、わかんない。
そんな視線をぶつけてみたが、それを知ってか知らずか、ようこそ、なんて言ってきた。
なんだっけ、その、……『白夜の魔眼』に。


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「おはようございますノゼルさん!」
「………」
「あっはっは!今日も人をゴミ屑のように見る目は変わらないですね!」
「わたしの視界に入るな、半端者め」

日々の努力が認められたのか、遊び半分で適当に倒しまくった結果運が良かったのかは知らないが、今日は何やらその頑張った人に戦功叙勲式をしてくれるそうだ。

ポイゾットさんの後ろについていけば、いじるとものすごく面白いプライドがエベレス級の団長様が。
愉快愉快。

「なぜ貴様のような奴が…っ、」
「欲しいですか?私の取った12個、欲しいですか?星だけに」

っあはは!

自分で言って自分で爆笑した。あぁ、今日も平和だ。
ゴミ屑を見るような視線にニコニコと笑顔を返した。今宵は愉快だ。

「半分貴族の血が混ざっているのは虚言じゃないかしら。品がないにもほどがあるわね」
「ネブラちゃ〜ん!今日も美人だねぇ〜」

腹の奥でグツグツと熱を孕み始めるのを、あげたテンションとくだらないジョークで覆い隠す。
本当、本当に美しい!

「**ちゃん、今日も元気だね〜」
「リルっちも元気そうで何より!もう星何個目かな??時期に団長になれそうだね〜!」

イェーイ!と二人してハイタッチした。ニコニコニコニコ。変わらない笑顔を振りまいては、あっはっはと声高々に笑った。
あっはっは!

「**はいつも楽しそうだね」
「はい!毎日がすっごく楽しいです!ヴァンジャンスさん!」

頭を撫でてくれるヴァンジャンスさんに、同じようにニコリと笑顔を見せた。
ヴァンジャンスさんはいつも通り読めない表情だ。この人の裏を暴いたら面白いんだろうな、なんて心の中でつぶやいた。

「昔から変わらないな、**」
「ふふふ!そう言うフエゴレオンさんも、変わりませんね!」

変わらない?何が?どこを見てそういったの???
バカバカしいにもほどがある。私の昔をあなたは知っているの?どの昔と比べているの?ねぇ??教えてくれない???

やばいなぁ、どうしよう。
腹の中が轟々と炎で吹き荒れているみたい。こう言う、あからさまな偽善者が一番ムカつくんだよなぁ。

自分は何もしていないと、本気で思っているからさ。

「盛り上がっているところ悪いけど、そろそろ始めようか」

穏やかな口調と圧倒的な存在感を振りまいてやってきたのは、この国随一の魔導師、ユリウス・ノヴァクロノ。
チートみたいな時間操作魔法を使いこなすいわば天才。そして、私を魔法騎士団に引き入れた張本人。

「今日も元気そうだね、**」
「ふふ、ユリウスのおっちゃんもご機嫌そうだね!」

可哀想だと思って引き入れたんでしょう?雨に打たれながら道端で倒れていた一人の女の子が。知ってたんでしょう?魔女と貴族の忌み子が、この国と魔女の国からどんな扱いをされていたのか。

大変だよね、魔法帝も。
困っている人、助けないとダメだもんね。でもその困ってる人が、本当に困ってるかどうかなんて、知らないもんね、魔法帝は。
この場に裏切り者が、×人もいるのも知らないで、ほんと、バカみたい。

「ユリウスのおっちゃん、はじめよーよ、なんとか式!」
「そうだね、そろそろ始めようか」

私は、魔女の母親と貴族の父親を持つ。でも魔女の国の人間でもなければ、クローバー王国の人間でもない。二つの国から迫害された、半端者。
今はリヒトの命令でクローバー王国の魔法騎士団なんかになっちゃってるけど、本命は白夜の魔眼。
そう、私は白夜の魔眼なんだ。

「…**、また発作かい?」
「え?」
「…魔女の国特有の発作というやつか」
「え、あ……」
「発作で涙が出るなんて、珍しい体質だね、魔女の国も」
「……うん、変な発作だよね、ほんと」
「擦ると傷つく。これを使いたまえ」

フエゴレオンさんから手渡されたハンカチを目にあてた。魔女の国特有の発作と称しているけれど、最近わけもわからず涙が出る。感情が壊れたように、本当に突然出てしまう。

悲しくなんて、ないはずなのに。

症状そのいち、なみだ



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