雪色セレナーデ



冬になってから、初めて雪が降った日のことだった。

『ッ…、あ、』
『…顔、真っ赤だね』

ヴァンジャンス団長にキスをされたのは。


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あれから約1年、この寒い季節になると思い出す。

「どうしたんだい?こんな寒い中外を眺めて」
「っ、ヴァンジャンス団長!」

「おはようございます」、と空が群青に染まる時間帯には似つかわしくない挨拶をしては、クスクスと笑みをこぼすヴァンジャンス団長に、「こんばんは」、と言われた。

「こ、こんばんは、」
「何か外に素敵なものでもあったのかな?」
「いえ、その…」

アジトのバルコニーの柵に頬杖をつき、色の濃い青に染まる様子をぼんやりと見つめていた。ただ、冬なんだなぁって、寒さで自覚をしたくて。

「冬だなぁ、って、思って…」
「…そうだね」

風邪を引いてしまうよ、とローブの上からヴァンジャンス団長のマントをかけられる。いいですよ、と反射的に遠慮したが、いつもの朗らかな笑顔で返され、何も言えなくなってしまう。

「ありがとう、ございます…」
「手が氷のように冷たいね。いつからいたんだい?」
「んー…夕食を食べた後から、ですかね…?」

重ねられた手からじんわりと熱が伝わる。ヴァンジャンス団長のやさしい温もりが心をじんわりと溶かしていくようで。
あったかい、と思わず目尻にシワを寄せた。

「大事な体なんだ、やさしくしてはくれないかい?」
「…はぁい」

言葉一つ一つがあったかくて、やさしくて、うれしくて、ヴァンジャンス団長のそばにいると幸せな気持ちになる。

「どうして笑っているんだい?」
「幸せだなぁって、思ったんです」
「…私もだよ」

スル、と指先を絡みとられ、くすぐったい感覚に胸が高鳴った。
触れられているところがゆっくりと熱を生んでいって、また好きの気持ちで溢れていく。

「**の手は綺麗だね」
「…ヴァンジャンス団長も、ですよ」

男性の、しかも戦闘員の手とは思えないキメの細かさだ。いつまでも触ってられるほど綺麗で、あまりの滑らかさに嫉妬してしまうほど。
羨ましい。

「あっ、」
「ん?どうかしたのかい?」
「………雪、です…」

空から踊るように舞ってきた、白い結晶。ふわ、ふわ、と空気に乗っては、ヴァンジャンス団長の仮面にひっついていく。

今年初めての、雪。

「…本当だね」

雪が降るたび、思い出す。
あの時の甘い熱を。

「…**?」
「………」

雪が頬を冷やしていくのに、なぜかわたしの頬は熱を持っていく。気恥ずかしさと、もどかしさと、そして愛おしさでうっとりしてしまう。

「**」
「、わ…」

腕を取られて上体がぐらつく。驚く間も無く何かにぶつかれば、途端に視界は覆われた。

ちゅ、なんてかわいいリップ音を鳴らしては、おでこに触れる柔らかいもの。

「っえ、?」
「…雪を見て、なにを思っていたんだい?」

少し含みのある声。
そっと離された手から急激に入って来た光にわずかに目を細めた。
いつも通り優しく微笑んでいるけれど、いつもと違って腰を強く抱かれているのを見ると、何かわたしがしでかしたのでは、と肝が冷えた。

「あ、あの…え、?」
「……**が、雪に恋をしているようだったからね、」

そのまま、ぎゅ、と体を抱きしめられ、鼻をくすぐる柔軟剤の優しい香りに心臓が大きく鳴った。

「雪に、恋…?」
「…雪を見て、誰を思い出していたんだい、?」

抱きしめられながら顎を掴まれ、超至近距離で視線が絡み合った。
ドキドキとうるさい心臓がヴァンジャンス団長に伝わってしまいそうで、でもヴァンジャンス団長が言っている言葉に去年の初雪を思い出してしまって、これ以上にないくらいドキドキしてしまった。

「〜〜っ、え、あ、あのっ…」
「……今**が付き合っているのは私だよ?たとえ雪でさえも…目移りはしてほしくないね」
「えっと、その、嫉妬…ですか、?」

ぽろっと口からこぼれた言葉。
わたしの言葉に目を瞬かせ、キョトンとした表情でわたしを見つめるヴァンジャンス団長。
しかしそのあと、団長はクス、と目を細めて肩を震わせ始めた。

「ふふ、私が、雪に嫉妬か」
「っわ、ヴァンジャンス団長…っ」

笑ってらっしゃる。めちゃくちゃ笑ってらっしゃる。
あのヴァンジャンス団長が私の肩におでこを押し付けて肩を震わせている。
か、かわいいっ、!レアだ、超ド級のレアだっ

まるでお宝を見つけた時みたいに、また心臓がドキドキとうるさくなった。

「〜〜っ、」
「**」
「はッ、はいッ、!」
「もうあんな表情をしてはいけないよ、雪にも嫉妬してしまう私だからね」
「あんな、表情…?」

どんなのですか、?と首を傾げてみたら、ヴァンジャンス団長が音もなく私の首の後ろをもって、口角をやんわりとあげた。

「っ!?」
「…こんな顔だよ」

一瞬だけ触れた唇。熱が伝わる間も無く離れたそれに、時間差で顔が熱くなっていった。

「キスした後の、顔かな」
「っあ、え、あ、だ、だんちょっ、!?」

そしたらまたヴァンジャンス団長がぎゅうぎゅうと抱き締めてきて、もう頭の中はパニックでいっぱいいっぱいだった。

かっこよすぎて、ずるい。

「また、雪の日だ…」
「ん?なんのことだい?」
「去年も、雪の日で、……」

雪を見るたびに、あのキスを思い出してしまう。甘酸っぱくて、にやけてしまうような、雪の日のキスを。

「去年…?」
「…ふふ、内緒です」

雪色セレナーデ
雪の日思い出またひとつ。



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