熱帯夜に響く嗚咽


「お風呂お借りしますね」
「……あぁ」


ここでの生活もはや3日。たまにちょっかい出されたりイタズラされたりと変わらぬ日々を過ごしている。
3日も経てばなんだかんだで慣れるもので、あの過ごしにくさも受容できるようになっていった。慣れとは恐ろしい。

黙々と本を読む姿を尻目に、浴室に入った。ただ本を読んでいるだけなのに絵になるとは、端正な顔立ちとはなんとも得なものだ。素直にかっこいいと思う。


(……今更ながら、あんな人とやっちゃったんだ、わたし、)


キメの細かい肌と、男の人特有の角ばったゴツゴツした指。なのに綺麗。あんなすごい人が、わたしに触れて、名前を呼んで、キスを……


「〜〜ッ、お、おふろ、はいろ、」


だめだ、もう、顔が熱い。
変なこと考えちゃ、だめだ。
最近、頭の中があの方でいっぱいいっぱいなのに。
あの方は王族で、わたしは下民。わたしが触れたいって思うなんて、おこがましすぎるし身分不相応だ。わかってる。住む世界が違う。今は、遊ばれてるだけ。きっとすぐに飽きて他の人のところに行く。きっとそうだ。
だからお願い、胸が苦しくなるなんて気のせいだと言って。

ぶんぶんと首を振っていつの間に測ったんだと突っ込みたくなるほどぴったりすぎる下着とネグリジェをカゴに置き、バスタオルを棚から取り出して服を脱いだ。
お風呂の時間が一番リラックスできる。一人きりになれるし、ぽかぽかと気持ちいいから。
シュル、とドレスが床に落ちる。あんなに値段を気にしていたものなのに、やはり慣れとは恐ろしい。


(今日の香りはなんだろ)


無理やり思考を変えてお風呂を覗いた。
王族のお風呂は毎日違う香りらしい。昨日はひまわりで、一昨日はラベンダーだった。使用人さんの気分なんだとか。


「あ、バラだ」


お風呂に優雅に浮かぶ赤と白とピンクのバラ。いかにも王族感に逆に笑えてしまう。まさか、このど貧乏な私がこんな雅なお風呂に入れるだなんて。
入ってしまえばどれも同じだけどそれはまぁおいといて。


(何日分の食費がかかってるんだろう)


バラ一本もタダじゃない。花屋さんで見たときは一本ざっと300ユールくらいはしただろう。はて、何輪湯船に浮いているのか。


「また金銭のことを考えているのか」
「いやぁ、うち貧乏なんでつい何日分の食費か考え……………」
「下民らしいな」
「…………ん?」


わっつはぷん。
今ここで何が起こっている?


「な、…なんで、お風呂場に…?」
「私も入る」
「……ま…っ、まっまままま待ってください…!!なっ、えっえぇっ…!?!?」


慌ててしゃがみ込んで体を腕で隠した。もう手遅れだとわかっているけど、それでも羞恥心には敵わない。顔に熱が溜まるのを感じながらぎゅっと目を瞑って声を大にして主張した。


「なんでここにいるんですか…ッ!?おっ、お風呂は一人で入るものです…!私の唯一の憩いの時間を…、っわ、ひゃあ!!」
「静かにしろ。声が響く」


ざぶーんっ

そんな効果音とともに腰が地面に叩きつけられる。水による衝撃の緩和はあってないようなもので、鈍い痛みに目をギュっと瞑った。


「っなにをするんですか、って、…ふ、ふふふふ服を着てください…ッ!」
「ここは風呂だぞ」
「コミュニケーションエラー…!!」


パッと目を開けたのがまずかった。髪の毛はまとめ上げられ、色白の引き締まった体が惜しげもなく晒されていて、見てはいけないものを見てしまったかのような気分に陥る。
顔を手で覆い膝を抱えた。もう無理だ。何が何だかわからない。誰か助けて。

私の心はせわしなくてんやわんやしているのに、呑気なノゼル様はそんなこと御構い無しに、チャポンと湯船の中に足を入れてきた。


「? なぜそんなに体を小さくさせている」
「あなたのせいですよ……!!」


そうか、と何事もなかったかのように私のお腹に腕を回すノゼル様。近すぎるし、肌が触れてもうどうしようもないくらいドキドキしてしまう。だから、そういうの、本当に、心臓に悪いので…!!


「ノゼル様っ、私、ゆっくりお風呂に…っいたたたた!痛い!痛いです!」
「摘めるモノがないな…本当に貧相な体だ…」
「っ、貧相でどうもすいませ、いたたたっ!」


ぎゅう、とお腹を掴まれて鋭い痛みに顔をしかめた。いや、まじで、本気で痛い……!!


「離してくださいノゼル様…っ!」
「ここは柔らかいのにな」
「わっ、ひゃっ、!せ、せくはらっ、セクハラです…っ!」


お腹をつまんでいた手を上へ上へと登らせ、やわやわと胸を揉みしだくノゼル様に流石に両手を掴んで抵抗した。しかしそんなことお構いなしに、少し上機嫌で手を動かすノゼル様。こんなことがあってたまるか。


「い、いい加減にしてください、!っひ、首を噛まないでください!やぁ、っ」
「声を荒げるな」
「誰のせいだと思っているんですかっ」


胸の愛撫もそのままに、ちゅ、ちゅ、とうなじに唇やら舌やらを這わせられ、背中にぞく、と甘い刺激が走って子宮がキュンキュンと甘くてより強い刺激を求め始める。さっきまでいかがわしいことを考えていたからか、いつも以上にドキドキして敏感に反応してしまっている。
これは、まずい。


「ノゼル様、そろそろここら辺で、っ、ぁ、みみ、だめですっ、」
「貴様は、耳が敏感だな」
「〜〜っ、ほっ、本気でだめっ、あ、ひっ、」


指先で皮膚をくすぐる様に胸をいじられながら、耳を舐められながら低い声がダイレクトに伝わってくる。時折淫らな水音を響かせながら、耳孔に舌をねじ込まれたり、息を吹きかけられればいとも簡単に喘ぎ声が漏れ出す。
この方の声は、だめなのに。頭がぐちゃぐちゃに溶けてしまいそうになるのに、こんなの、本当にだめになる。


「あぁっ、舌っいれちゃっ、っひぁ、!」
「もちろん、ここも敏感だがな」
「ぁっ、遊ばないでくだ、っんぅ、っ」


きゅ、と両方の胸の先っぽを摘まれ、いやらしい刺激にびくりと体が跳ねた。背後から思い思いに弄られ、与えられる刺激に体の熱が荒ぶっていく。


「んっうっ、あっ、やだ、ぁ、」
「浴室だから貴様の声がよく響くな」
「だ、れのっ、せ、ぃですっ、ふ、っ」
「もっと出せるだろう?」
「あァッ、!」


ぎゅ、と強く摘まれるとまたすぐに体が跳ねる。遊ばれているのが目に見えてわかるのが嫌で抵抗したいのに、与えられる刺激に体を震わせるしかないのが悔しくて仕方ない。

は、は、と快楽を息で逃がそうと試みていたら、ザバ、と突然脇の下を掴まれて湯船から身をあげられ、浴槽の脇に座らされた。


「なっ、なにするんですかっ、!?」
「背後からだとやりにくいこともあるからな」
「もう出ましょうよ…!」
「断る」


壁にも背中がぴったりとつき、冷たい感触にわずかに鳥肌が立つ。無理やり足を開かされ、間にノゼル様が体を割り込ませてきては片腕を私の背中に回した。空気に晒された肌が急激に冷えていったが、首元に反対の手を添えたノゼル様がわずかに口を開いて近づいて来たから、胸の奥がどろどろと熱を持った。


「は、ぁむっ…ん、ふぅ、」
「ん、ふ…は、」
「んん…っ、んむぅ、!んぁ、のぜるさっ、んぅ、!」


ねっとりと絡まる互いの舌。深いキスに思考を奪われながらも、片方の手がまた胸を弄りだし、なにがどこから与えられる快楽なのかわからなくなる。
悔しいのに気持ちよくて仕方ない。


「んっ、はぁ…、痕、かなり薄くなったな」
「え?」
「ん、」
「っ、いッ、」


ぢゅ、
鎖骨のすぐ下に口を寄せられれば鋭い痛みが走る。あぁ、そう言えば、そこはこの前付けられたキスマークがあった場所だったか。
なんで、キスマークをつけるんだろうか。本当に所有物としてかわたしを見ていないんだろうか。もう頭の中がぐちゃぐちゃで、どろどろに溶けているようで、悲しくて、苦しくて、きゅんとしてしまうのが悔しい。


「…独占欲が、強いんじゃないですか、」
「そんな軽口を叩けるとは、ずいぶん余裕だな」
「っ、あっ、まって、や、ぁ、っダメ…ッ」


吸い付かれるように胸の飾りが口に含まれた。コロコロと口の中で転がされ、唾液でぬるぬるになったそこから新たに快感が生まれる。

ぢゅる、と厭らしく吸われるたびに腰が情けなく動く。時折歯で甘噛みされると、噛みちぎられちゃうんじゃないかという恐怖で背中がゾクゾクした。
乳輪を軽く噛まれながら吸いあげられ、ピンと固く尖らせた舌先がチロチロと先端を擽った。反対の胸は指で挟まれたり弾かれたり押しつぶされたりと、両方の胸で同時に与えられる快楽に涙をこぼしながら喘いだ。時折聞こえるノゼル様の熱い息遣いがなぜか自分の興奮を高めていく気がする。

だめだ、流されてる。なんとかしないと、


「**」
「〜〜ッ、」
「私だけを見ろ」


わたしを溶かしてしまうほど、艶を帯びた煽情的な視線。もう貴方しか見れなくなっているのに、これ以上どうすればいいのだろうか。


熱帯夜に響く嗚咽





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